2019年02月24日

ネーレイスさん18〜



18回



フィーナ「前回に海賊狩りの襲撃を受けて、それを迎え撃った一行。
今回はセルリアンの海上にでてきているみたいだけれど、戦闘はどうなったんだろう」


フィオ「みゆさんとペンギンさんいわく『チェックとメンテナンス』ってことだね、どちらにしてもダメージはあったのかな、と」

「ずーっとそういうことしてなかったし私たちに頼まなかったよね、ホタルさん」
「ですです! “潜水艦のメンテナンスを頼むお手伝いは、自分たちが代わりに頼みにいく”って約束ですけど、たしか今までなかったはずでーす。今ホタルさんにも確認しました!!」

 くすりと笑い美優が自らの胸元に手をやって、そこにある小さなソレに手を触れる。
 小さな小さな、ボトルアクアリウムのペンダント。
 浅瀬を模した豆電球状のペンダントヘッドのその中では、ふわふわ1匹のウミホタルがたゆたってる。


フィーナ「ここでちょっと前回の襲撃について」

潜水艦《ネーレイス》。
 大抵は、光の届かない海の中を潜航している。
 もちろん用事があれば海上にだって浮上はするし、明るい海中に進路をとることだってたまにある。

 ただ、そんなことは“ごくまれ”だ。
 なにしろ《ネーレイス》は潜水艦、しかも軍用の戦闘も勘案された潜水艦。
 隠密を第一とし潜航する潜水艦が、レーダーでも目視でもなんでも居場所と特定されて見つかってしまえばあっさり撃沈されかねない。
 ゆえに海面浮上や明るい中を潜航する場合、光なき闇の中以上によくよく周囲を警戒する。
 その上であっても、見つかる率が高い場所に向かうこと自体が“ごくまれ”だ。


 ――なの、だが。
 つい先日、その“ごくまれ”に浮上したそのタイミングを見計らい、襲撃に来たものらがいた。

 ずいぶんと久しぶりに、おそらく1週間以上も鳴りを潜めていたというのに。
 商船を襲い横付けしていた、そのわずかな時間を見抜いて隙を突き、襲撃に来たものらがいた。


 《乗組員》のウミホタルにしてみれば、自分らがナマコやゴガイを襲い食している最中に、その隙を狙い丸のみしにくる大きな魚の襲撃と、なんら変わりがないらしい。
 “よくあること”ではあるらしく、艦内警報が鳴り響くその前段階で、さっくり食事も遊覧も切り上げ迎撃態勢を整えていた。


 いや、そも天敵の襲撃から逃げ切れるというのなら、逃げ手を打っていたのだろう。
 が、状況から、この襲撃からは自分たちは逃げきれないと即判断したと思われる。


 ウミホタルは、弱肉強食のコトワリの中でいきる、小さな海のいきものだ。
 その中でもいっとう脆弱な、食物連鎖の最下層。
 プランクトンと同格の、小さな海のいきものだ。

 小さきものならことさらに、《喰う》ということ自体がいのちがけ。
 逃げ切れず、かつこちらにも対抗するための武器が手勢があるならば。
 襲来する魚を襲い返して無力化させ、髄まで喰うのが突破口。


フィオ「お互いに凶暴な生き物同士だねぇ……」

フィーナ「ま、弱肉強食の海なんだから、こういうこともあるんじゃない。実際に周りといざこざを起こさずに進んでいくことも出来るわけだし、こういう道を選んだり……選ばざるを得なかったりして、そんな世界にいる」

フィオ「まぁね。それでどうやら襲撃者を撃退することはできたみたいだけれど、やっぱりかなりのダメージが残って、それで今回メンテナンスの運びだと」

「でも、ぜんっぜん示し合わせていなかったのに。
 あの人もホタルさんも同じ考えだったんだなーと」
「ですねー。ご主人は整備士呼んで、セービの間は艦長室で画面とにらめっこしてたり見まわったりしてるみたいですけど〜」
「……ま、人間は、ひとり居残ってればいいよね、とは思うよ、うん」


フィーナ「それぞれが潜水艦の損耗を気にはしていたようで、それぞれがメンテナンスの依頼をしてたみたい、ともに歩むものを大事にするのはとてもいいことだと思う」

フィオ「なお総計3000SCになります」

フィーナ「この段階では随分な大金だね」

フィオ「で、ニスルさんはお留守番。で冒頭の二人が外に……ホタルさんの入れて三人だったねごめんごめん」

フィーナ「リラックスした様子で歩いてはいるけれど、ふと、見つけたものは」

「見つかっちゃったのはしょうがないとして―も―……」
 ちらっ、と少女が視線を下にやる。
 地面に落ちているのはテリメインの号外新聞。それに折り込みチラシのように挟まっているのは、七瀬美優の指名手配書。

  Wanted.
   Reward――5326sc.

 『指名手配』『報奨金、5326sc』
 最初に見つけたその時よりも、ぐんと報奨金が跳ね上がった、七瀬美優の指名手配書。

「すっごい報奨金あがっちゃったねー」
「びみょーに嬉しそうですねー?」
「うーん、毒を食らわば皿までも的な? 後戻りなんてできないし、生きのこって帰るためには必要なんだし。
 そもそも報奨金って1でもついたら、あとは上がっても困るよーなものじゃないしなーってなってね」
「なぁるほどっ! 前すっごく落ち込み〜……してましたから、いろいろ心配だったんですよー」
「うん、あの時はごめんねっ。今はもうだいぶ大丈夫だから」

 きゃっきゃっきゃと笑いあう、ひとりの少女と1匹のペンギン。
 こうしていれば年相応の、かしましい女子の女子会的な、ほほえましい光景にしか見えやしない。
 5000を超える報奨金を、掛けられる程の凶悪犯には、はたからは世辞にも見えやしない。

 事実それほどの凶悪犯かと言われたら、そんなことはないわけで。
 どこから見ても年相応の、年頃の女子でしかないのだから。



フィオ「みゆさんはたくましいな」

フィーナ「くよくよ考えても仕方ないよね、実際問題、すこしでもついて、その状態で狩りとられたら、あの場所に行くことになるのは変わらないわけだし」

フィオ「ある種、それだけの荒波を超えた強さのステイタスともいえるかもしれないからねぇ」

フィーナ「その上で気になるのはテリメインの『法』懸賞金がかかるということは、悪とされることを行ったってことなんだけれど、それを悪と定めたのは誰なのかということ」

フィオ「その一端が見られたのが先日の襲撃者の台詞で……」

『探索者協会の懸賞金額ってのはずいぶんいい加減な付け方をしてんだな!
 面白ェ。強えよてめえらは。また会おうぜ。――嫌でも探しに行くからよ!』

 襲撃者のそのひとり、たしか“ジャルド”という名であっただろうか。
 彼が沈みながらサメのように笑いながら、言い放った言の葉が美優の頭をよぎっていく。


 ――海底探索協会が、テリメインを支配している感じなのか?
  ――だからあの協会に都合が悪いと、《悪》となされるというのだろうか。


フィーナ「探索協会への疑問。それはスキルストーンやシェルコインの出所やら、彼らの目的やらまで考えが及ぶことで、まぁ……強制労働所も実際黒いとおもう」

フィオ「ただあっちが利用しているというのなら、こっちも利用し返すというぐらいのたくましさ。目的を果たすため。その障害になるのなら……それはそのときだよね」

フィーナ「だからこそ、今はもっと大事なことがある」

ただいま、この時分で
 繁華街をふらつきながら、アイスを食べながら思うところがあるとすれば。

「それにしてもさ?
 あの時のジャルドさんの言葉って、ほとんどストーカーなセリフだよね」
「それは言ってはいけないオヤクソクでーす」


フィオ「もしもし? 探索協会?」


19回



油断すれば、上下左右もわからなくなるほど複雑な荒波を立てている。
 その荒波は次第に大きくなり、あちらこちらで渦潮を生み出し処々を飲み込む。
 その海底には船の残骸が、あまたに散らばり沈んで朽ちる。

 多少なりとも海と航海の知識があるならば、
 かほどの荒波と渦潮が、船へ生物へどういう《洗礼》を与えるか、想像に難くもないだろう。


 ――船の墓場、《ストームレイン》。


 根も葉もない、怪しい噂がそこにある。
 ストームレインには《すべてを叶える秘法》が眠る、と。

 気の違えた海賊の戯言やもしれない、ただの子供の空想なのかもしれない。
 されど、火のないところに煙は立たず、また否定しきれる要素もない。

 ゆえにここ、船の墓場・ストームレインに漕ぎ出すものも後を絶たず。
 同時にここ、船の墓場・ストームレインを終の寝床としたものも後を絶たない。


 護り人を自称する女、海神と思しき水の精。
 渦潮が舞う海の中、その2名を先導するのか護るのか
 宿借りのような探査艇が引き連れている。

 荒れ狂う渦潮に紛れ、標的をとらえ、襲撃する。
 探査艇こそ機能停止させたものの、護り人が呼び込む渦潮に波にしのぎ切られて猛追は削げまた逸れていく。
 届かぬことを察して引き返すものの、狙った獲物を喰らうことも叶わぬままに、ほうほうのていで帰路につく。


 デカい獲物を捕りにがし、されど被害は甚大で。
 またもやシェルコインを、積み荷や修理へと充てる昨今――


「およ、およよ? ホタルさーん。なんか通信来てますよー?」

 思い思いに今日のスイーツ、フルーツあんみつに舌鼓を打っていたら。
 外部より通信が、入りました。



フィーナ「自分達の戦う場所でもあるストームレインを行く潜水艦。過酷な海は希望も絶望も内包して広がってる」

フィオ「連戦連勝というわけにもいかないんだねぇ、引き分けとかも消耗だけはするわけだし」

フィーナ「襲撃するにしろされるにしろ、お互い本気だろうからね、だからこそ、こういうリラックスタイムは重要ってとこで」

フィオ「誰からだろう、知ってる人か、それとも」

フィーナ「被害者とかからが一番ありえそうではあるけれど……?」

「通信だ? なんじゃ、どこのトンチキ酔狂じゃ」

 通信機器を胡乱に見つめる姿が近くにひとつ。
 少年か子どもかと見まごうほどの、小さな見つめる影がひとつ。

「スイキョー? チキチキ〜? とか言ったらいけないで〜す。えーっと……ログからみると、通信の送信元は“よん・ろく・よん”……『暗黒皇帝まじかる☆リオぴー』様ですね」
「……酔狂を改めるなら、悪趣味以外の何物にも感じぬのじゃが?」
「いえ本名でーす! タンサクシャー名簿、確認しましたもん自分!! ホタルさんとミユおねーさんが海底杯であったひとですYO!!」
「……そこまで知るか、阿呆」


フィオ「暗黒皇帝じゃないか!」

フィーナ「あー……うん。ニスルさんの評価は表面を見た感じでは間違ってない気がする」

フィオ「実際凄い人ではあるんだけどねぇ」

フィーナ「荒波の間の休憩タイムだったわけで、間もあまりよくはない」

「だいたいに海底杯なぞ――それこそ自由行動しておるであろうに、儂が彼奴らの相手なぞ知るか。
 ――で、なんじゃ。いかような通信だ、申せ」
「再生した方が早いですよねー、ホタルさん自動でロクオン・ロクガしてますもの」
「ふん、さっさとしろ」
「アイアイサー!」


フィオ「と、いうことで、リオぴーさんからの通信だけど……?」

「あー、聞こえるか?
 貴様に受信機能そのほか諸々がついてるかどうか……は知らん。
 これは我が暗黒皇帝であるが故に送らねばならぬ文章であるからだ」

「さて、貴様らの此度の活躍――ああ、闘技大会、ではないぞ。
 あれは貴様ら一派の全力ではないことは我々も承知しておるからな。
 『夜の鳴る洞』……多少海賊まわりの動きを気にしている者ならば知らぬ者はいないだろうな。
 連中を撃退した海賊……ともなれば一目置かれることは請け合いだ」


「そこでだ、我は気になった、ただそれだけの理由で貴様に問いかけを送る」


「夜の鳴る洞に限らず、『海賊狩り』は貴様ら一派を付け狙うだろう。
 ならば……なぜ、貴様らはそれを知りなお海賊行為を働くか?」

「……非難しているわけではないさ。我はそこまで独善的ではないからな。
 ただ、困っているようにも見えない、単なる鉄の鯨たる貴様が率先して探索者を襲う理由、それには興味があってな」


「……そもそも意思があるかもわからんというに、長々と演説してしまったな。
 ただ、それだけだよ」


フィーナ「うぉぉ真面目モードだ」

フィオ「あの一戦とその結末は結構大きな波をおこすものだったんだねぇ。
さて、あえて危険に突っ込んでいく、そんな理由はあるのか、と」


フィーナ「届くかもわからない言葉でも、決して投げやりなものじゃないね、さて……?」

フィオ「この『再生』を行ったおかげで、ニスルさんはもちろん、ウミホタルさんもこの内容を知ったということみたいだね」

 《大食堂》で海の鳥が声を上げた時点では、『通信が来た』と伝えたのみと予測される。
 それを声を上げて伝え、その後会話しモニターに再生されるその合間に、ウミホタルらが『それはどれか』を選定し、確認し、その上でニスルと海の鳥の会話から、『どんな通信だったか』を聞かれたからこそモニターに該当通信を映し出して再生をした、という流れであるとは予測される。

【《大食堂》のモニターに該当通信を自動再生されたなら、ウミホタルらには既にそのことは伝わっている】はずだ。


フィーナ「とはいえ、返事をしたほうがよさそうなものの、ウミホタルさんからは人の言葉で伝えられないと」

フィオ「ただ、ペンギンさんに促されて『モールス信号』で返信することにしたみたいだね」

フィーナ「古風……っていうか、知ってることが不思議」

モールス信号とは、可変長符号化された文字コード。
 和文と欧文が存在し、短点と長点のみの組み合わせで構成をされている。
 その挙動から、無線通信に限らず音響や発光信号でも会話や通信に活用されていたという、古くからある信号だ。

 とはいえど、電子メールやシェルストーン通信などといった他の通信が発達した昨今。
 通常通信であれ非常通信であれ、それに倣った通信システムが確保されている。
 ゆえに今では、一部の名残程度に残っている通信方法。
 されど映画などでも取り扱われ、今でもちょくちょく使われることもある、それなりに有名な通信方法だ。


「その通信主が近くでかつこちらを捉えておるのなら、投光・遮光での手段をとったのじゃろうが――というかお前の入れ知恵じゃろ、モールス信号なぞ」
「てへへへ☆ そーでーす、わかりました? さっすがご主人! この天才に気づいちゃぐえっ」

 二発目の鈍い音は同じく海の鳥の頭より鳴る。

「蟲めらが殊勝におのずからするものと思わぬ。まあ良い、どれ、興が乗ったから解析してやろうか」


フィオ「あ、ペンギンさんが教えたんだね、方法は単純だからウミホタルさんでも扱えるからかな」

フィーナ「で、内容は?」

「E・A・T。
 L・I・V・E。
 P・R・O・C・R・E・A・T・E。――捻りの1つもないな、まんまじゃ」
「まんまです。だってホタルさんですもの!」

 喰らい(Eat)、住み生き(Live)、そして繁栄する(Procreate)。
 何故に海賊行為を働くかの問いかけの答え。
 非常にシンプルな、海のいきものとしての望み。

 すべからくと共存共栄とは程遠い。
 棲家すら追われ奪い合い、喰うのすら命がけで喰われることの方が多いもの。
 食物連鎖と階級、そのヒエラルキーの最底辺に属するウミホタルとしての答えがそれ。


フィオ「生き物であるが故に、ただシンプルな答えだね」

フィーナ「一つ前の戦いで芳しい成果を上げられなかったこともあって、ちょっとイライラしてたらしいから、本当はもっと苛烈なものだったのかもね」

フィオ「まろやかにしなかったら、どんなものだったのやらも気にはなるな」

ウミホタルらは貪欲だ。
 その貪欲さは、彼らが持たざる者であり奪われることのが常であったから。
 満たされたものでは欲することはない、欲さずとも手に入りまた満たされて、自らは保証されているだから。

 持たざる者は持つ者から、奪わなければ手に入れらない。奪わねば生きることすら許されない。
 それゆえの純粋さから出るのが貪欲であり、そこに余分な打算も矛盾もない。
 不要なものは不要であり、必要なものだからこそ手に入れる。ただそれだけのシンプルさ。


 されど人間はどうだろうか。自分らが霊長だ神だと勘違いでもしているのか。
 それとも自分らは特別であり、“護られ満たされた”神の子とでもいうのだろうか。
 神の子であるがゆえに、自らが“挙動は是なるもの”と認識しているというのだろうか。

 護ると息巻き海を渡り、結果、己が生きるがために他を傷つけ奪っているという事実に対しては、“神の子ゆえに許され肯定されてる”と大層な思想を抱いているのだろうか。

 そうであるならまことずいぶんと、傲慢たる神の子だ。
 薄く浮かんでいたニスルの皮肉極まる微笑が、見る見るうちに消えていく。

「――ご主人? あんみつのアイスとけちゃいますよー」
「んお、折角の甘味が……うむ」

 スプーンでえぐると柔く脆い氷山が崩れていく。
 男も人間でありもすれば、裏切り矛盾するのも承知はしている。
 されど人間の矛盾には、取り立て笑いを通り越して反吐が出る。

 生きるためには、他のいのちを奪うもの。
 今食べているフルーツあんみつも、果実や植物のいのちを奪って喰らうもの。

 生き繋ぐには、住まうには、生を謳歌するためには
 いずれかが持つ他の場所を、奪い取ってはじめて能う。
 それはどこであったとしても、変わることない不文律。


 船の墓場・ストームレインで朽ちたものは、それに負けた脱落者。


 勝てば生き、負ければ死ぬ。
 非常にシンプルな、海のコトワリ。


フィーナ「弱者の生に対する純粋な意識をみて、人間の抱える矛盾にまでたどり着く」

フィオ「奪うのはウミホタルも人間も一緒。ただその行為に嫌悪感を抱くのはそれから気づかぬ間に遠く離れていて、自分がすることではなくなったからかもしれない」

フィーナ「行動の是非を決めるのは結局はする本人。それについて他人が何らかの感情を抱くのも別に自由だし、妨害するというのなら、程度に応じてぶつかることにもなるかもしれない、ただ『法』がある場所はその『法』がどのようにしかれたにしろ、それを破るのは好まれざるものではあるだろう」

フィオ「その点ストームレインってすげぇよな、最後までシンプルで、最期まで残酷だ」 
posted by エルグ at 18:39| Comment(0) | 日記
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