2019年08月13日

海底のガチャガチャさん 17〜




17回:おどる王冠・2
フィーナ「7回の日記の続きになるね。ここまでのお話は
人の住む家で静かにしていた『わたし』なんだけど、おおきなネズミが入り込んだことで家主は激怒、あらゆるものを投げつけてそれを殺そうとするけれど失敗しちゃう。

その際に横で傍観していた『わたし』はネズミに咥えられて噛み砕かれると思ったものの、そのまま家族の巣まで連れて行かれることになった。

おおきなネズミを囲む大家族、そしておおきなネズミ=ホワントロは威厳たっぷりに宝を持ち帰ったと自慢した
でも反応は良くなかった。どうやら『わたし』は豆のような見た目をしているみたいで小ばかにしたようにみんな散り散りになっていく。

ただ一匹、まだ赤ん坊のネズミを除いて……

というのがここまでのおはなしかな」


フィオ「ここからは巣に連れて行かれてからの『わたし』の話になるね。赤ん坊ネズミに大層気に入られてみたい」


かくしてわたしはネズミの一団の異邦者となった。

毛もはえそろわぬうまれたばかりの、ホワントロ16番目の息子、
グリストロという名の子ネズミは、どういうわけだかわたしをたいそう気きにいった。
ちょうど母ネズミが赤子をかかえるように、
グリストロはわたしをだきかかえることをのぞみ、ひきはなされれば泣きわめいた。

ほかのネズミたちは、グリストロが歯がためのためにわたしをはみ、
そしていつかかじりつきすっかりたべてしまうのだろうとおもって好きにさせていた。
しかし、まあ、その歯が固くなっても、グリストロがわたしにいちげきをくらわせることはないのだった。
それどころか、グリストロはじぶんのけがわで、わたしをぴかぴかにみがくほうをこのんだ。



フィーナ「たいしたものじゃないと思われているから適当な扱いだけど、グリストロ君だけは違ったわけだ」

フィオ「い、一応お宝だから……」

フィーナ「実際本人?はお宝だと信じていたみたいで、ある日『使い方がわかった!』と叫んである行動に」


家人のねしずまった真夜中、グリストロはとたとたとたっと
すばやくネズミの穴からいちばんちかい植木鉢にのぼりあがった。
そのうえ木の根元にこんもりと土をはねあげあなをほり、そして、わたしをそのなかに横たえたのだ。
視界に土がかぶされる。グリストロが前足で天井をならす感触があった。

ネズミたちは雨もりのしたにはっぱを置いて水をためていたが、
グリストロはどうやらそれをすすってほおぶくろにため、わたしにはきかけたらしい。
そしてネズのなかまたちに朗々とかたりだした。

「いいかみんな、これを毎日、一日一夜くりかえすんだ。」

「なんのいみがある?」

「とにかくやるんだ、やるったらやるんだ!」

ネズミのわかものたちはぶつくさいったようだったが、
そうであれ、どうであれ、おそらくグリストロはひとり、
来る日来る日本当にわたしに水を吐きかけた。

ふときがつくと、わたしのからだに異変がおきていた。
わたしには、みたこともないほそながい感覚器がはえていた。
そのほそながいなにかをゆっくりと土の奥深くへもぐらせてゆくと
わたしは、わたしですら思ってもみなかったなにかが、ぽっと体の芯にわきあがるのを体験した。



フィオ「あれこれって……種?」

フィーナ「おおきな視点で見るとそれっぽいけど、本人達から見るとどこか不思議な感じがするね」

フィオ「まだどうだとはいえないか」

フィーナ「それにしてもネズミの成長は早いね、出会ってから二十日ぐらいとのことだったけど、もう大人っぽい」

フィオ「命自体が短いからねぇ……」


あしをのばすに夢中になっていたわたしに、
グリストロのどっしりとした声がきこえてきた。
わたしには、ほんのついさっきまであかんぼうであったようにおもわれ
まばたきのまえには、わかものであったグリストロも、すでに立派なおとなのネズミだ。

「ほどなくホワントロは老いて死ぬ。わたしもいつか老いて死ぬ。
 わたしはきっと、あれの横に、父をうめるぞ。
 そしておまえたち、わたしをあれの横によこたえてくれ。
 そしてどうかわすれるんじゃあないぞ、あれに水をくべるんだ」

「つづけろ、つづけるんだ。わたしにはわかるんだ
 あれが…なんであるのか解き明かすとき、わたしたちネズミ族は永遠のものを知ると!」




フィーナ「『わたし』は比較的長命のように感じるし、周りの変化も凄く早いように思えるかも」

フィオ「埋葬のようなものなのかな……? だとしたらコレを続けた先にどんな景色がみえるというのか」

フィーナ「たいしたことじゃないのかもしれない、でもネズミという視点で見たときそれはきっと大きなことなんじゃないかなと思う」




18回:ゆめみる万華鏡・2

フィオ「10回の続き。 ここまでのおはなしは

楽しげな夢を見た『わたし』だったけど、特に何事もなく眼を覚ます、その日はやけに静かで……何か、全てが去ってしまった後のような感覚があったみたい

そしてそのまま部屋を降りて食卓へ向かうのだけれど、いつもなら並んでいるはずの朝ごはんがなくて、家族も見当たらない……とおもったら、どうにも料理途中といった風情のおかあさんがキッチンで眠っていた

そんな一瞬を切り取ったような眠りはどうやら『わたし』以外に訪れているようで、おとうさんやあかちゃんはもちろん、パン屋やゴミをあさるカラス、ましてや信号機までその色を変えることなく眠っている

そんな中で赤ちゃんに触れてみると、確かに熱は感じるもののその心臓が動いている様子はない、一体何が……

といった感じかな。ふんわりした文章なのだけれど、不気味さが際立つね」


フィーナ「ただ一人目覚めた『わたし』は色んなことを試してみることに……」


私はねまきのまま、顔もあらわないでおもてへとびだしました!
冬の朝の空気を、ほほのうぶげの先までいっぱいにあびると
解放感がとぎすまされていくってわかったのです。
私はおそろしげにときめいて、まるで――ただ、こうすることで
人にトイレをしていてるところを見せるようないけないことをしている気分がしていました。

今朝は、みんな目を覚まさなかった。
私はパン屋さんのとびらをかってにあけて、きのうのうれのこりのパンをかってにとって食べました。
カチカチになっているかとおもったさみしいパンは、昨日のままにふかふかとやわらかくて
私は、パンもねむっていたのだ、ときづきました。


フィオ「いつもと違うこと、を堂々と出来るのは確かに解放感あるかも」

フィーナ「ねまきの冬は寒そうだけれど……」

フィオ「眠っていたものを食べることは出来るんだね、既に不思議で一杯だけど、止まったタイミングは微妙に異なってるみたいかな? おかあさんは調理の途中だったけど、パンは少なくとも昨日のままだ」


おもちゃ屋さんにいったら、かたっぱしから箱をあけて中身をとりだしてみました。
それから洋服屋さんへいそいで、いちばんおとなびたコートを盗みました。
だれも本当に目をさまさないので、
だいきらいだったピアノのおけいこの先生の家へいって、まどをおおきな石でわりました。

雪をふみしめた私のあしあとだけが今朝からすすんだ、ひとつだけの時間です。

私はごみぶくろにもたれかかってねむっているカラスをそっとだきあげました
はじめてさわるカラスは、私の顔よりもおおきなからだで、ずっしり重くてすこしべとついていました。
カラスをなでながら、私はほかにどんなひどいことをできるだろうと考えました。



フィーナ「うぅ、確かにやりたい放題できるみたいだけど、こういうお話ってしっぺ返しがありそうで怖い」

フィオ「先制の顔面に石をやらないだけやさしい」

フィーナ「やさしさの定義から見直すべき」

フィオ「カラスも触ると生きている感じはするんだね、そうは言っても、って感じだけど」

フィーナ「さて、ひどいことに心をめぐらせた結果。誰も入ってはいけない寺院のことを思い出したね」

フィオ「いよいよタブーに触れそうな気がしてやばい」

フィーナ「語彙力」

フィオ「気になるのはわかる、わかる、けどなぁ」


寺院まで雪をふみちらしていくと、門番はすっかりねむっていました。
私はもはやこそこそすることもなくわがものがおで寺院に足をふみいれました。

とびらをおすと、少しずつひらきましたが、結局ひらききらずになにかにつっかえました。
つっかえたままのとびらのすきまからからだをねじこむと、
すぐ目のまえにほのかに光る壁がひろがっているのでした。
壁に手をふれてみると、あたたかで、ずっとふれるにはあついくらいです。
それになんだかやわらかで、ふさふさとしていました。私は壁をみあげました。

死んだような朝日に満ちてまばゆいそれは、天井に届くほどおっきな白馬でした。

足元が浮いたように、少し力が抜けましたが
私は、けれど、なにも怖くはありませんでした。
だって、その馬もねむっていたのです。



フィーナ「当然ここもねむっている……と」

フィオ「門番を突破すれば入れるんだからそこまで厳重でもないのかもね」

フィーナ「どちらかというと精神的な要素が……」

フィオ「ヒュッ……」

フィーナ「壁みたいなって……相当だねこれは」

フィオ「体温は本物のうまっぽいけど得体が知れないし、何よりこんなところになんで居るのか」



19回:さんごのトロフィー

フィーナ「初めての景品だね見えてくるものは……」

(情景。)

(海の底)
(ゆたかな海藻、舞う魚やびせいぶつ)
(ゆるやかなる波、温かな水温)
(歓声)
(鼓膜をふるわせるほどの歓声!)



さあああやってまいりましたエクストリーム・スーワーム・レース!
ことしもここオーシャンサウスの海藻のすみかに20万個ものスーワームの
たまごが産みつけられております!

いきものみな活気だちまさに水温は春!
さかなどもはあざやな色にあふれかえり、
プランクトンらもマリンスノーのようそうです!

スーワーム…彼らのその数奇な人生が幕ひらこうとしています…!
生物のさがとはかくもおかしく熱狂的なもの!
子孫繁栄のために海洋横断を宿命づけられたいのちが!
夜明けの水温上昇をまち…観客たる海はいまかいまかとかれらを見守り…
…おおっとーーー!?今ひとつめのたまごがやぶられ…やぶられ…っ
やぶられたあーーーーーっ!開幕だあーーーーーーーーっ!!



フィオ「!!?」

フィーナ「すごくもりあがっている!」

フィオ「レースなのにひとつめが破れたところからで良いのかな」

フィーナ「生存競争みたいな話になりそうだし、早さが全てじゃないんだとおもうよ」


サバイブファースト、レースセカンド
ことしもエクストリーム・スーワーム・レースの開催です!!


フィオ「あ、ホントだ。きっと人々を熱狂させるだけのドラマがあるんだろうね」

ひとつめの関門はキャッチ・ザ・グリーンテイル!
この海藻の群生地にはさまざまなぁいきものたちが食事をしにきますがあ!
まだおよぐちからのほとんどないスーワームたちは
ほかの魚のにつかまって2km先の熱気口までつれて行ってもらわなければなりません!

ただし黄緑にひかる尾ひれを持ったグリーンテイル!この魚しか 
熱気口にはいかないのでえ〜〜〜っす!ほかの魚が行く方向がてんでばらばら!
色のみわけのつかないスーワームがグリーンテイルの尾ひれをつかめる可能性は
50:50といったところでしょう!

さああーーーーー!先頭集団あたまひとつぬきんでました!
いや…おっとふりおとされたあーー!きびしい!トップランナー脱落です!
海はきびしい…しかしみえてまいりました!第一チェックポイントの熱気口です!
たどりついたのはざっと12万匹!


フィーナ「早速運をためしていくぅ」

フィオ「五分五分を生き残れないものに未来はない」

フィーナ「泳ぐ力がなければつかまる力も弱いと思うし、実際にはもっと振り落とされそう」

フィオ「でも6割か、上等上等、全滅しなきゃ安い」


第二の関門はここで運よくいちねんアンコウに捕食されること!
ハンティング能力のないスーワームのこどもらです!
いちねんアンコウのこのむカニにつかまり捕食をまつのです!
そして口の中にひっかかり…アンコウの捕食したエサ類をよこどりしなくては
餓死はまぬがれないでしょう!そして10km先のアンコウの巣まで長旅をします!

そうこういっているまに第二チェックポイントの到達者があらわれたあーーーー!!
スーワーム…スーワーム…スーワーム!おびただしいほどのスーワーム!
第二チェックポイントにたどりついたスーワームは1…2…3…8万!
なんということでしょう!8万という数字は例年の1.5倍、1.5倍にものぼります!

なにがおこっているんだあーーー!
今年のスーワームレースは一味も二味も違うぞーーーーっ!!



フィーナ「きっちり寄生していかないと生きていけないのだ」

フィオ「第二も厳しそうだね……と思ったけど割りと生き残ってる感じ?」

フィーナ「例年よりいい結果がでているということは何らかの変化とか進化があったのかもしれないね、数字も結構大きいし」

フィオ「……それにしてもさ、コレってどうやって観測してるんだろうね、固体として大きいものではないだろうし、仮に大きいとしても数万とかそういうレベルのすーわーむ?を完全に把握するのって難しいと思うんだけど」




21回:Kのキー・3

フィーナ「三回目、で今回が最後。ここまでのお話だけど……

1.(8回)
部屋でキーボードを叩いている男が語るのは『カモフラージュ』の話。
監視社会と化した現代において、『犯罪的なキーワード』は調べた個人に付きまとう影のようになっていた。
もちろん一般人にはなんら問題のないことだけれど、男は実際に殺人を犯す者だったのでその検索をカモフラージュする必要があった。

その方法は『作家を目指している』と嘘をつくこと。
誰かが思いついたこの方法は、割と上手く行く一方で、重大な欠点として、作品を発表し続けなければ世間から怪しまれるのだった。
そして今、明日の朝8時に迫った〆切りに追われている……。

2.(12回)
最初の殺人の話。異常なまでに魅力的な衝動と行為に対するこれまた異常なこだわり。
15のときに殺して、処女作を発表したのが17だったとのこと。
本来書きたいと思って書いているわけではないから、それは既存品をつぎはぎにして作ったものだったけれど、ともかく作家としてのスタートだった。

だけれどそれも長くは続かない。
書きたくて書いているわけじゃないから、魅力的なアイディアがたくさんあるわけではない。〆切りにおわれて感じたストレスから、癇癪を起こしてタイプライターを投げつける。
だけれどそのストレスの中で一つのアイディアがひらめいた、社会にはもう出回っていたけれど、画期的な、アイディアが

それは読者へと届けたいものがある売れない作家を利用して、彼らの作品を自分のものとして発表すること
お互いに目的を果たすことが出来るその思いつきは、先のとおり先人が既に思いついていたもので、作家崩れたちもまた、名前を貸してくれるベストセラー作家を探していた。
本当は物語なんか書きたくない、殺人鬼たちを」


フィオ「いやぁ、こうまでして殺人を隠す。それほどに魅力的なのかなぁ。それに、自分の作品を世に出したい。からって殺人鬼を捜し求めちゃうほうもそうとうにキてるよね」

フィーナ「今回でわかるけど、ベストセラー作家同士でも正体の探りあいとかも起きているし、本当の作家というのはもしかしたら……なのかもね」

フィオ「今回で最後になるお話、さて男の末路とは」


とびっきりむなくそ悪いのは、オレは死ぬまで報いなどうけなかったってことさ。
華やかなる美酒ざんまいの日々、世界中のアホの読者どもに愛され、敬われて
金と女と殺人に困らない贅沢な人生をおくらさせてもらった。

客船ビブリオシップ・クルーズは、毎年ベストセラー常連の作家たちとその編集、出版社に、
本を買って抽選で応募してきたファンたちが高尚な趣味を見せつけあういやらしいパーティが開かれる。
高尚な趣味、知的な会話、アピールされる幸運。
あおりにあおったベストセラー・ランキングの授賞式ってわけだ。

その日は人生の一つのピークだった。
オレはその年はじめて、最も売れた作家になえらばれたんだ。
ビブリオシップ賞最優秀作家賞!この世界で創作活動においてそれ以上の人間がいねえってこった。
あしどりが軽すぎてそのまま天に駆け上がっていきそうだった。



フィーナ「アホの読者……か、まぁこの人のやり方を考えればそういっても全然おかしいことじゃない」

フィオ「何より最も売り上げが良かった……のだからねぇ」

フィーナ「そしてピークを迎えた彼の前に現れたのは」


最高の気分で甲板にでると、海鳥が1羽墜落してきた。
病気かなにかしらねーが、もしかするとこいつは相当の近眼で、
魚を狩ろうと海に飛び込もうとしたのかもしれない。
奇跡ともいえるタイミングで甲板に追突してぺたんこになりやがった。

胸せまる光景だったよ。暗闇の空から暗闇の海、1羽の鳥。変わり者さ。
『他のやつみたいに昼間に飛べよ』、って言いたくなるような。
ガラにもなく詩的な気持ちになったね。
オレはもう何年も自分じゃ話なんて書いちゃいなかったが、
その時は若かったころのインスピレーションが蘇って迎えに来たよ。

書きだしはこれ以外ないと思った。
『で、ピークのつぎは下り坂以外はないわけ』と。
最後の一服を終えると、オレは客室に戻った。



フィオ「暗闇でしか飛べないのは……」

フィーナ「何年もってことは、まぁそういうことだよね」

フィオ「どん底と一緒だよね、何処が極端であるのなら、そこからはどちらかしかありえない」


いまとは逆の日だ。いつかにオレがどん底の気持ちだった時、
明日朝8時に編集が原稿を取りに来るのにスランプかましてたあの夜、
チャイムの音がなるとともに、オレはさっき床に投げ捨てたタイプライターを抱えてドアをあけた。
でもそこに立ってたのは編集じゃなかった。
編集よりも一足先にやって来たのはまだ若いオレのファンだったのさ。

ティーンエイジャーってやつはほんとにどいつもこいつも熱病みたいなもんで、
こいつは大量の自作の小説をもって、オレに読んでほしいとおしかけてきた。
読めばわかる、読めば自分の価値がわかると夢見て押しかけてきたイタイやつ。

でもその時、そいつのにきびヅラ、オレには天使に見えたね。
『で、どん底のつぎは上り坂以外はないわけ』と思った。
1時間後、署名だけかえて、そいつの小説を編集にそっくりそのままやっちまったオレがいた。

そいつ?そいつはしんだ。オレはタイプライターをひっつかんで、床に投げつけるようにして
ガキの頭蓋骨を完全にぺたんこにした。どんな奴だったか知らない。
ただわかるのは、元の原稿に記された名前だけだ。
ファーストネームを“キリ”と言う。



フィーナ「やっちまった」

フィオ「焦がれる思いは時に盲目だから……キリさんはその、『どっち』だったんだろうね? 純粋に作家として尊敬していたのか、それとも……」

フィーナ「大量に持ち込まれた原稿。質さえ伴うのなら、それは『しばらく』彼のストレスを消す役割を果たすわけで……」


それから50年も連れ添った。オレはもう80のクソジジイだ。
50年だぞ、50年。半世紀だ。わかるかい、なあ?
3年に一度、そいつの残した長編小説を出版する。計15作ほど発表した。
オレは次第にその小説を読みもしないで編集に渡すようになったが、
署名だけは修正する必要があるからいつも見ていた。
原稿のなかにまぎれこんで、そいつがめんどくせえ自己主張してねーかどうか
文字の海のなかでそいつの名前を探してた。

そういうわけでオレは本なんか書いちゃいない
執筆という牢獄から解き放たれ人生の旨味をすすりつくした。
そして世界一の作家と認められた。



フィオ「本物だったんだね、誰にも見向きされなかった、本当の作家」

フィーナ「そうだね、目的は……本当は彼自身が浴びたかったのか、それはわからないけれど、もう一生」

フィオ「少なくともただ一人は、彼の価値をしっている」


いつからそうだったのか見当もつかないが、オレはふと、
タイプライターの『K』のキーが取れたことに気づいた。
その時一瞬おもったんだ。
キーボードに『K』がなくちゃ、キリの名前が打てないじゃないかって。

ご存じのとおり世は大作家時代さ。この熾烈な生存競争の勝者たち。
ミステリー作家として生き延びた、シリアルキラー。
そしてそれをネタに金を稼ぐ出版社。
金は持っていてなるべく脳みそはスカスカのタコども、読者。

オレは海に凶器を投げ捨てた。
海鳥の脳みそをみてわかったんだ、あん時ぶちまけた脳みそは、
たぶんこのおかしな世の中で一番輝いていたものだった。



フィーナ「象徴的な出来事だよね、まるでそれが運命であるかのように、彼のことを知っているただ一人はその名前を打てなくて、どうしようもない世界のことを誰よりも一番わかっていて、そして海鳥と、自分でぶっ潰した若者の頭」

フィオ「……なんとなくわかってはいたんだけど、出版する側も一枚はかんでるよねそりゃあ……」

フィーナ「使えなくなったら警察に突き出すなりやりようはあるよね……
まぁ作家の作品を理解していない読者も読者……なんだけど」


フィオ「現実はあまりに絶望的だ」


この世を検索しても、キリの名はない。監視社会も名ばかりだ!
オレは天国や地獄を信じないが、
オレの天使はあの世にいるぞ!
さらば、会いにいく!



・・・・・・

・・・・

・・・



(かくして男はつめたい海に沈んだ。)



・・・

・・・・

・・・・・・



Kのキー■■■(End)


フィーナ「絶頂は、いや全てがここにて終わり、執拗に消した彼の名前は、監視社会の目をすり抜けて、今や何処にもない」

フィオ「あの世にはあるから……もしであったとしたら、「ほら、わかったでしょう?』とか言うのかな……」





22回:ごくろうなすず・2

フィーナ「16回に続いての二回目。ここまでのおはなしは

とある地域には『誘拐の儀』と呼ばれる風習があり、生後間もない赤ん坊の一生の運勢を決める重要なものだった。
その方法はたくさんの祭具を町のあちこちにおき、一度赤ん坊を捨てる、それを血縁者ではないものが拾い、祭具を探して町をあるき、見つけたら祭具を回収し、またそこに赤ん坊を捨てていくというもの。
運ぶ人はくじで選ばれ、自分以外誰にもわからない。
それを刻が来るまで繰り返す。

『すず』は赤ん坊の腕に巻かれて、その音で運ぶ人を呼ぶ役目があった。長い長い年月の中で儀式を成功に導いてきた『すず』そしてまた『誘拐の儀』が始まろうとしていた」


フィオ「おはなしは『すず』さんの語りなんだよね、儀式は厳しい側面もあるけれど、成功してきたのは、この音があったからこそ」

フィーナ「多くの人と歩んできたわけだけど、今回は?」


本日、快晴なり。これより、誘拐の儀をはじめます。

いよいよ赤ん坊はやしろの裏手に捨てられた。
今にもちちくさい匂いを嗅ぎに獣がやって来そうな、人気もない野辺だった。
せせらぎの音。虫らの盛る声。光彩ちらす陽。青草のしめり気の上で、
私とその御子はふたりぼっちで定めし大人の訪れるのを待っていた。

ふいに周囲の音がぴんと止まって、全くの無音がやってきたと気づいたらば、
それからはあっというまであった。私には考える暇も追い払う間もなかった。
木陰からつめたいけむくじゃらのまっくろな化物が現れて、ひょいと赤ん坊を拾い上げていたのだ。

化物は、やらかいやわらかい赤ん坊の肉をはなつらでつついた。
御子はきょとんとして無垢の瞳を化物に向けているばかり。
私はあまりのことにおどろいて、化物にわめきました。

「おろしてやってください」



フィオ「さぁ始まった……いやちょっと困る!」

フィーナ「ちょっとじゃない!」

フィオ「が、がんばれ」


「捨て子をおろして、どうなるというのか。」

「その子は、捨てられたんではないのです。」

「この子はいくつか。」

「まだうまれてもおりません。おろしてやってください。」

「けれども、こちらが一度だきあげてしまったこどもは、
 まともにはそだつまいよ。いっそ今ここで食い殺してやるのがいいかもしらん。
 それでもこのこをおまえたちにかえしたほうがよいか。」


「いつまでも私がこの子を呼び戻しましょう。」


化物は表情もなく、あったように御子をねかせた。
ほどなくして定めた大人は訪れて、何事にも気づかず赤ん坊を拾い上げた。
以降の儀は滞りなく進んだのだった。



フィーナ「理解のある人で良かった……のかな」

フィオ「予言みたいで怖いよね、この儀式も先を見るという意味合いがあるものだし」

フィーナ「しっかりと守ってくれたね、で……いつまでも呼び戻す、ということは」


この儀の終りをもって、私は誘拐の儀の鈴の任をやめた。
私は決してこの御子の腕からほどかれないようにしがみついたのだ。
わたしの紐があまりに頑なに結ばれているので民らはそれをまいたままにすることにした。
祭具であるからして、切るのは罰当たりだと思ったのだ。



フィオ「まぁ、そうなるよね。これはこれで儀式のほうが心配になるけど」

フィーナ「でも放っておくわけにも行かない、未来に影が落ちないように」


御子はほかの子よりひときわ成長が早かった。
すくすくと過ぎるくらいの発育をみせたが、時折常人ならざる一面を覗かせた。

御子が4つのとき、人の家の貴金属を盗もうと手を伸ばした時も、
6つのとき、巣より鳥の雛をぬすみだそうとしたときも
12のとき誘拐の儀の最中に祭具を隠してしまおうとしたときも
私はその度に腕で鳴り、御子を人の輪に呼び戻したのだった。



フィオ「なんかやっぱり違うところがあるね」

フィーナ「これはごくろうなすず……」

フィオ「儀式はまだ続いていたんだね、祭具隠すとか本当に悪い子だ」

フィーナ「道をたがえそうになっても呼び戻すことはしてくれているけれど……」



23回:???

([1299]オリナ・クレツキは
 その物体に意識を集中させたが、
 物体の思い出がよみがえることはなかった。

 代わりに頭のなかにあらわれたのは、
 [1020]イルヤ・ヘルムなる人物のすがただった。)




・・・・・・

・・・・

・・


(意識は途切れた。)





海底のぐちゃぐちゃ【舌】


フィオ「これはいったい……?」

フィーナ「うーんわからないね、運命のお相手、ってわけでもなかろうし」

フィオ「お二人とも知っている人ではあるけれど」

フィーナ「海底にはいろんなものが堆積するけど舌……ね」

フィオ「人の舌と明言されたわけじゃないけど、ちょっと不気味だよね、そういえば、オリナさんって前に見た時は、さんごのトロフィーじゃなかったっけ、あの良くしゃべる人の舌……?」

フィーナ「ホラーはやめて」



posted by エルグ at 12:00| Comment(0) | 日記

2019年08月04日

イサナさん17〜





17回

フィーナ「襲い掛かってきた海賊を返り討ちにしたことで、臨時収入を得たイサナさん。遠くテリメインまで出稼ぎに来ている彼女にとってはまさしく幸運だ」

フィオ「貨幣を手で弄びながら考えるのは、自分の島で扱うものとの違い、そして鬼特有の文化について」

この海の貨幣は貝殻の形をしている。
 貨幣としては珍しい形なのだとイサナが知ったのが最近の事なら、
貨幣には真円の形が多いと知ったのも最近だった。
 イサナにとって、貨幣は楕円形をしていた。
銅だの銀だのといった金属を平たく引き伸ばしたもので物品を取引するのは元々は人間達の文化らしい。
 イサナ達、龍ノ背島の鬼にもその文化が根付いて久しいものの、鬼同士のやり取りなら物々交換の方が主だった。
 今日釣った魚を分ける代わりに縫い物上手の年寄りの仕立てた着物を貰うだとか、
子守りをして貰うだとか、釣り針を作って貰うだとか、
兎も角そういった塩梅で、釣った魚をわざわざ金子に換える時と言えば、
 特に欲しいものが無いが魚も取りすぎた時、でなければ人間と取引をする時、もしくは――イサナが金を集めたい理由だが――蓄えておきたい時だった。

 人間は財産を、綺羅だの装身具だの、美術品だのにしておくこともするようだが、
鬼は、絹を持てば着物を仕立てたくなってしまうし、米に換えれば食べてしまう。
茶器だの酒器だのにすれば酒の勢いや喧嘩の煽りで容易く割ってしまうから、
財産を作るにも一苦労だった。
 そんな鬼達だったから、貨幣制度は馴染まないながらと必要なものだった。
 金にすればひとまず『目減り』はしない。
 物欲に打ち勝ってその日の成果を金にして、それでやっと鬼は『貯金』ができるのだった。


フィーナ「石だったり花びらだったり、色んな形のものがおおいよね」

フィオ「貨幣それぞれの質が保たれているかは気になるところだけれど、当人達が『中継』として納得しているものなら別に問題もないのかな」

フィーナ「モノは使ってしまうけど、交換にしか使えないというのも利点なんだろうね。私が前行ったところでは、国が根本からひっくり返ったような事態になって。これまで貯めていたお金の価値って保障されるんでしょうか、ってうちの子心配してたな」

フィオ「劣化も少ないから貯めるのには最適。まぁ、使いたくなる欲求との戦いに勝たなくちゃいけないんですけど」

フィーナ「今回の稼ぎもあわせて総量は4000ほどに。コレでもそれなりに十分……とはいえ、冒険は軌道に乗っているわけで」


 海賊達はストームレインに、全てを統べる魔法があると言った。
自分達は着実に前に進んでいるのだ。
そして、魔法が存在するなら、宝もあるに違いない。
その魔法で、金を手にすることだって出来るかもしれないのだ。
 漁を終えるのは船が一杯になったときか、陸へ戻るべき時間が来た時だ。
今はそのどちらでもないのだから、尚更戻ろうと思えなかった。



フィオ「まだまだ稼ぐっ・・・!! 手は抜かない・・・!!」

フィーナ「まぁそれでもこのままストームレインへ。とはならないみたい、過酷な海であるということは先刻承知、海賊との戦いも今回が幸運でなかったとは言い切れない」

フィオ「準備や休息にこそ手を抜いてはいけないね、それが本番でしっかりと成果を持ち帰るため。ひいては身を守ることになりえるのから」


休息も大切だ。知識に乏しい鬼達でも、それは知っている。
 漁を終えるのは船が一杯になったときか、陸へ戻るべき時間が来た時。
その他にもう一つ。
 自らが水底に沈むとき、漁はその人生と共に終わるのだ。




28回


フィーナ「旅はまだまだ順調。レッサードラゴンを倒した5000SCも加わってウハウハじゃあい!」

フィオ「労働の対価がしっかりと帰ってくるのは嬉しいもの、特にこういう稼業は安定した収入を得られるとは限らないものね」

フィーナ「と、いうことでだ」


苦労の甲斐があったと、ぐびぐびと酒を飲む。
 出稼ぎと言いながら酒や食べ物に金銭を惜しんではいないが、それはそれである。
 体が資本の探索稼業。食べて飲まねばやっていられないから、
これは必要経費なのだ。たぶん。

 そして、机の上にはシーチキンレースのチラシがある。
 それを取り上げ、イサナは難しい顔で魚の写真やら、名前やらを眺めた。


フィオ「豪遊・・・!!」

フィーナ「いや通常営業です」

フィオ「まぁ実際自分のコンディション維持を優先するのは大事なことだと思うよ。仕送りする先が貧困にあえいでいるとかなら、少しぐらい節制したほうが良いかもしれないけれど」

フィーナ「結果的に稼げなくなるのが一番悪いものね。それは探索途中のアクシデントもあるし、自分を蔑ろにした末の自滅もあるわけで」



イサナ
「……さて、どれに賭けようかねぇ……」
イサナ
「むーむむむ……。
こいつは今一番脂が乗ってそうだけど、アタシゃ逃げ魚は好かないんだよねぇ……。
魚場が渋るこたぁなさそうだけど、うーん……。」

 当然のように、賭けに参加するようだ。
目標金額達成にはまだまだ遠そうだが、
探索稼業には、心を休めることも必要だ。

 これも必要経費なのである。

……たぶん。



フィオ「ギャンブルの時間だぁぁぁ」

フィーナ「ギャンブルは余剰資金で行いましょう」

フィオ「まぁ遊行費ってことでね」

フィーナ「メンタルケアも大事大事、いやこれもほんとに」

posted by エルグ at 13:30| Comment(0) | 日記