Pno053:六華さん
Pno061:クーリエさん
Pno068:クロニカさん
Pno077:リーヴィアさん
Pno084:アンテルテさん
Pno138:キノイさん
Pno140:<<ネーレイス>>さん
Pno178:ネリーさん
六華さん Pno:053
フィーナ「探索の合間。買い物をしていた様子の六華さん。思わず買いすぎたって感じみたいだから、楽しめたんじゃないかな」
フィオ「ここ数日なんか色々あって、お疲れみたいだったからね、気分転換に……」
“「……え?何……これ」
買ってきたものをを仕分けている内に、自分が買いそうもないデザインの服や下着が出てきて六華はその手が止まる。
「何……これ?私はこんなの買わない……よね?」
普段かわいい系の物は買うが、大人っぽいデザインの物は自分が似合わないという認識もあったために殆ど手をつけなかったはずなのに、なぜかそこにあった。
「なんだろう……これ……?」
六華はなんでそれがあるのか考えるが、答えはどうしてもでなかった。”
フィーナ「え……っと?」
フィオ「なんか突然に嫌な雰囲気なんですけど……」
フィーナ「買った記憶がないのにもかかわらず、購入品に紛れていた商品。
買っている最中に違和感がなかったってことが、そのときに何かあったのじゃないかって心配になるね」
フィオ「部屋に来たすみれさんにはからかわれちゃったけど……
最近の様子を知っている身からするとかなり不安」
フィーナ「無意識に……選んで買っちゃったってことはないこともないかもしれないんだけど。
もし『買ってない』って事があったりしたら大変だよね。たぶん何らかの力が働いて、買ってしまったってことなんだろうけれど……」
クーリエさん Pno:061
フィオ「順調に進んでいる最中に、ちょっとしたミスで付与先を間違えちゃったみたい。好事魔多し……とはいうけれど」
フィーナ「この段階だと、まだ自由に付け直したり出来る状態じゃなかったんだっけ
やっちゃったことはしかたないから、あまり気に病まないといいんだけど」
フィオ「そんなところにチャコさんから助け舟。やっぱり仲間同士助け合っていかないとね、ありがたやー」
フィーナ「購入枠か、付与枠が増えるやつかな? わりと高価だった気がするけれどこれがあれば、立て直しも早く出来るよね」
フィオ「一緒に冒険してる以上は持ちつ持たれつらだからねー。クーリエさんだけが一方的に助けてもらってるわけじゃなくて、きっと二人にも返せているよ。
パッと思いつくようなものじゃないのかもしれないけど」
クロニカさん Pno:068
クロニカさんを連れ戻す命を受け、現れた『ニールネイルの狩人』エイニさん。
クロニカさんは一度は虚を衝いて逃走できたものの、それで終わったわけではなかった。
その一方で能力どおりに仕事を完遂できていないエイニさんにも、何らかの事情があるようで……
“エイニ・N・ニールネイルは狩人だった。
ヒトを――同族を狩る者としての役目を幼い頃から言いつけられ、そのように励み、正しく育った狩人だ。
獣の血を濃く引いて鋭敏な感覚も、僅かに顕出したバジリスクの魔眼も、戦う者としては大いに役立ち、エイニを優秀な狩人たらしめた。
だから。故に。
一人の標的にあまり手を拱いているのを、いい加減不審がられても仕方ない頃合いではあった。”
フィーナ「生粋の、優秀な狩人。それが仕事を完遂できていないとすると、何かを疑われることもあるだろうし、場合によれば増援があるかもしれないのかな」
フィオ「まぁ『何か』はあるんだろうね。今回は一人、わざわざ交渉しにディドさんのところへ来たわけだし」
フィーナ「本当はする必要が無い交渉。力ずくで終わらせてしまえばそうできるだけの力はあるし、合理的でもある、だけれど実際に行動に移したのはこういう形で」
フィオ「お互いに口数が少ないようなところがあるよね。てことで淡々と必要なことだけを伝える交渉。というよりは命令に近い。
『「……金は出す。アレを俺に寄越せ」』だからね。対価を示しているだけ交渉っていってもいいのかな……」
フィーナ「『契約』というのなら、ビジネス上の関係だけだというのなら、それを絶ってしまえば後は問題がないはず、なんだけれど」
“ 初めてそいつはエイニに正面から向き直った。
返答を待つエイニが見守る前で、腰の後ろからナイフを引き出す。
石で作られた黒いナイフだった。益体もないことをぼんやりと観察していたのは、
「なら、選べ」
「? ――!」
向けられた殺意が、あまりにも想定の外にあったものだったからだ。
伸び上がるように突き出されたナイフはエイニの首筋を掠めた。すんでのところで斬撃を躱して、エイニは数歩距離を取る。
嘘だろ。面倒なことになった。なんで。意味が分からない。そのどれもが本音で、或いは正しくなかった。
「口を噤んで帰るか、海に浮かぶかだ」
ただ、やり方を間違えたらしいことだけは、今のエイニにも正しく悟れた。”
フィオ「想定外の返答に混乱に陥るエイニさん、あーいや、まぁ、ねぇ」
フィーナ「地雷踏んだね」
フィオ「いやこれは踏み抜いた。だよ」
フィーナ「一応帰る選択肢は与えているからね……とはいえ一撃目からヤル気まんまんだったけど」
フィオ「最初こそ面食らった様子のエイニさんだったけど、やっぱり荒事に離れているみたいだし、ディドさんを観察しつつ、きっちり捌く余裕もある」
フィーナ「投げかける言葉も、あくまでこちらが上で、譲歩しているという体。それに怒ったわけでもないだろうけれど、ディドさんの殺意は一向にやむ気配なし」
フィオ「ただ……差はあるみたいだね。そういう風に育ったのとそうじゃないものの違い。苛立ちの中で選んだ選択肢は、譲歩を引き出すぐらいに痛めつけるというもので」
フィーナ「……よくないな。やるときはやる、間違いなく」
フィオ「だけれど、魔眼で動きを止めたところにやってきた足音は、その全てを中断させる。ディドさんを海に突き落として、逃げ出すエイニさん。機会は逸した。
エイニさんの事情がちょっと判った気がする」
“『エイニはどうするんだ?』
『俺は家主と話をつけなきゃなんねえんだよ。だから一緒には行けない』
『……それは俺がいたらまずいのか? そんなに時間はかからないだろう』
『…………。面倒なんだよ』
『いや、ていうか一緒に行けない理由になってないし……』
納得の行かぬ表情は嘘を見破られていたからか。心の動きを悟られていると、そう感じることはあったが、明確に口に出すことをあいつはしなかった。
ただエイニを見上げて不満げだった。
『……分かった。後で追いかけるから、先に行け。だからそれ、絶対失くすなよ』
そう言ってやっと追い出したクロニカをエイニは追わなかった。
だから仕方のないことだった。
何もかも、全てが最早、仕方のないことだった。
『――それ、なんの本だ?』
――海は嫌いだ。海は嫌いだ。海は嫌いだ。
今よりもっと、どこまでも、海が嫌いになりそうだった。”
フィーナ「たぶん、いつかの記憶。クロニカさんはもう覚えていない。
大事なことも忘れてしまう、でも忘れられた人も、また忘れているとは限らない」
フィオ「一方ディドさんと合流したクロニカさん。エイニさんのことを尋ねられるけれど明確に答えられないのは。そもそも覚えてすらいないからで」
フィーナ「上手く覚えられないということに関して何か引っかかっているみたいだけれど、優先的に忘れさせられるような何かがあったりするのかな?」
フィオ「すこしちぐはぐな会話。ディドさんから出てきたのは剣呑な言葉。まぁそのつもりで襲い掛かってはいたけれど」
フィーナ「『協力しろ』というディドさん。ただ『それ』をすることは流石にためらわれることで」
フィオ「でも会話はここで終わり、さてどうする……?」
フィーナ「まとめ。エイニさん再び。ただし今度はディドさんのほうへ」
フィオ「クロニカさんがちょろっと言った言葉をたどってきたみたいだね、仕事をするつもりではあるみたいだけれど、目的を果たせばいいようなものなのに、ちょっと回りくどい」
フィーナ「単刀直入に言ったけれど、ダメ。クロニカさんの意思が伴っていればまた別だったのかもとはおもうけど」
フィオ「いきなり戦闘に入っちゃったけど、一方的にディドさんが仕掛けて、エイニさんが捌く。
実力の差はわりとあったけど、とまらないディドさんにエイニさんはとりあえず腕を折ろうとしたね」
フィーナ「……危ないところだった。おそらくクロニカさんとの関係がなければ、浚うなり、殺して連れて行くなりそういうのも選択肢にあったはず。その上で『折る』ってのは譲歩の結果なんだろうけれど、決して軽い怪我じゃないからね」
フィオ「クロニカさんが現れたことで逃げ出すエイニさん。二日前の邂逅。そのずっと前に二人はお互いを知っていたみたいだね。クロニカさんは忘れちゃったみたいだけど」
フィーナ「一瞬『――それ、何の本だ?』で10日に出て来た青年がエイニさんなのかと勘違いしちゃった。この本ってあの日記とかなのかな」
フィオ「まだわからない。エイニさんは過去にクロニカさんを追わなかったこと、後悔しているみたいだった。言葉にはしないものの」
フィーナ「ディドさんは突き落とされただけで特に問題はない模様、でもめちゃくちゃ怒ってる」
フィオ「完全に敵対する形になっちゃったね。敵対ならまだ良かったのかな、ここまで殺す気マンマンだと」
フィーナ「クロニカさんはどうするのか、やっぱりここは自分の意見を言うべき、それで選ぶべき、なんじゃないのかな」
リーヴィアさん Pno:077
フィオ「気合と同時に海へと飛び込んでいくリーヴィアさん。投身自殺とかいう物騒なワードもあるけれど、飛び込みです飛び込み」
フィーナ「アトランドでの探索みたいだね、スキルストーンの力で潜水時間も増やして……」
フィオ「アトランドの海は比較すると暗い印象があるよね、その、普通……普通? の海底と違って」
フィーナ「まぁ言いたいことはわかる。そんな暗い海底を、僅かな光を頼りに探索しているけれど、どうやらお宝を探しているみたい。
大きな貝殻には『何か』が入っていそうだったけれど、残念ながら空っぽ。空気が閉じ込められているから本当の意味では空っぽじゃないけど」
フィオ「酸素を補給できるのはありがたいよね。そんな中すこし進むと光の漏れ出す建物が!」
フィーナ「ここにも巨大貝殻。今度こそ……と開いたら錆びた剣が」
フィオ「……あれ、たしか、危ないっ!」
フィーナ「ペンギンさんが引っ張ってくれたおかげで助かった。いやらしい魔物だね、セルリアンにも擬態して捕食する奴は居たけれど……」
フィオ「とはいえまだまだ終わってないよ!」
フィーナ「さらに現れた魔物が二匹、合計三匹。でも引いているうちに、こっちにも増援が到着!」
フィオ「さぁ、ペイバックタイムだ!」
アンテルテさん Pno:084
フィーナ「ふと、抜け落ちた記録に気づくアンテルテさん、前後を確認してみると、どうやら海賊とひと悶着あって、抜け落ちちゃったみたい」
フィオ「あーあいつかー。いろんな人のところに現れて暇人だね」
フィーナ「しかも勘違いで巻き込まれた様子。協会さん? しっかりして?」
フィオ「ポット君、海賊に入りたそうな発言」
フィーナ「冗談だよね、冗談だといって」
フィオ「それと、紛れ込んだ謎の記述……エビ? シュリンプ?」
“-再起動してしばらく、ワタシはボディの点検をしていた。
首の接続の具合が悪く揺られる度、
液晶が点滅して落ち着かなかったからだ。”
フィーナ「本来丈夫なはずの身体だけれど、何か問題が生じているみたいで、どうやら原因はその身体の弱点にある様子」
フィオ「『首の接続部』……か。攻撃の種類も相性が悪いものだったみたいだけれど、明確な弱点があるとやっぱり怖いな」
フィーナ「とはいえ幾つかの事情を考慮した上でのシステムだからね、弱点も込みで使っていくしかないよね」
フィオ「ちゃちゃっと修理できそうなのが凄いところ。完璧に換わりになる部品はないだろうから、『あるもので』なんだろうけれど、それなりにいいものはほしいね」
キノイさん Pno:138
フィーナ「取引で手に入れた物品を。仲間のもとへと運ぶキノイさん、問題はこれがキノイさん→ドリスさんへの受け渡しだということ」
フィオ「いやいやいや、そんな毎回トラブルを起こすわけがなかろう」
“「アナタって、ワケの分からないところあるわよね」
「ハア?」
感慨深いというには情緒が足りない。皮肉と言うには毒が足りない。そんな言葉。
「もうちょっと、人を選ぶタイプかと思っていたけれど。そんなこともないんだもの」
「何のことっすか」
早く帰らせやがれクソッタレ俺には焼きナマコの消化が待っているんじゃ、という態度をまるで崩さないまま、かといって何を意図してその発言がなされたのか気になってしょうがないので無視して出ていくわけにも行かず、キノイは中途半端な格好で返事をする羽目になった。
相変わらずのこの、魚を魚として見ていないようなクソみたいな面、いつか助走をつけて全力でぶん殴りたい。三回くらい。”
フィーナ「知らなかったのか? トラブルからは逃げられない」
フィオ「焼きナマコが待ってるんだよぉ! とそれはともかく、ドリスさんの疑問は『海賊と取引をした』ことについて」
フィーナ「『罪人も海賊も同じようなものじゃないか』というドリスさん。うんその気持ちはわかる、それに対して『自分達に火の粉がかかっていないから別にいいじゃないか』というキノイさん」
フィオ「スタンスとしてはわかりやすい。ドリスさんがいう『騎士団のくせして』とか『罪人の金で』とか。そういうのとはまた別の軸だからね」
フィーナ「ただ普段のキノイさんを見てると『人を選ぶタイプ』と見ていてもおかしくないよね、自分に対する態度のそれとか」
フィオ「口にナマコ突っ込むぞとかいうパワーワード」
フィーナ「すこし齟齬が生じていたみたいだけれど。それに気づいたのがちょっと遅かった。ただ……これは何らかの変化があるかもね」
“――気づく。気づかなくても良かったのかもしれないが、気づいてしまった以上はもうどうしようもない。なんだかんだで二週間嫌でも一緒にいた結果、声色の変化を判別できるようになっていた自分がいるのだ。
このクソネーレーイス、本当に純粋(かどうかはこの際置いといて)に疑問に思っていただけらしい!
「それ、本人の前で言ったらどうですかね?」
価値観の違いが横たわっている。それはまあ、同じ世界の出とはいえ、種族も育ちもまるで違うのだし、当たり前のことだ。悔しいかなその違いが引っかかるようになると、嫌悪とか何やらはすっ飛ばして、興味のほうが先行する。――思えば(当たり前だけど)ここまで、まるでこのネーレーイスのことを知らずにここまで来ている。
とはいえ癪なことに変わりはないし、ひとつの気づき程度で態度を軟化させてやるほど優しくもなかった。可能な限り嫌味ったらしく言葉を吐き出して、部屋のドアを閉めた。”
フィオ「『罪人』としてしか見てこなかった、そりゃ最悪のファーストコンタクトだっただろうし。
でももしかしたら分かり合う部分も現れてきたりするのかな」
<<ネーレイス>>さん Pno:140
“いきとしいけるものであれば、欲というものが存在する。
助けたい、眠りたい、楽しみたい、かなえたい、従いたい、EtcEtcEtc……
突き詰めれば、《いきたい》という原初欲求それひとつですら、存在を動かす原動力。
そしてひとつ行動を起こせば、静寂の水面に石が投げ込まれるよう、影響し変化し波が立つ。
なにひとつ動くこともなく、なにひとつも望むこともなく《いきて》いる。
その状態は、しんでいるのとどうかわるのか。
その状態は、《いきたい》という欲すらも、否定しているというのに。
石が投げ込まれれば、波紋が立つ。
その“石”がいかようなものであったとしても、静寂の水面はざわめき荒れる。
その荒れ方が望む望まざるとに関わらず、“静寂”の時間は終わるもの。”
フィーナ「『生きて』いるんだから誰も彼もが石になりえる。
いつもならばそうやって乱す側であるんだけれど、今回は……」
フィオ「ウミホタルさんの性質とそれを押さえ込んで御する本能。
自分達が弱い存在であるからこそその本能は磨かれて、危険から身をかわしていたのだけれど」
フィーナ「それでもそれを超えてやってくる危機もある。捕食者が捕食されないという保障は何処にもないし、今回の危機はもうそれを交わすという段階にはなかったみたい」
“距離、数、速度、状況。
捕まらぬよう、離脱を試みるにはもう遅い。
そもそも相手の領域(テリトリー)、離脱を考える方が愚かしい。
来るとわかってる狩人に対し、離脱なぞに思考を裂くなら
ハナから群がり無力化させて、餐とし腹に収めるほうが理にかなう。
アスチュート級潜水艦《ネーレイス》、この艦を操る《乗組員》はウミホタル。
このいきものは貪欲で、自らに比べてはるかに大きな天敵にすらも襲い掛かる
とてもとても、好戦的ないきものだ。”
フィオ「だからこそ性質に身を任せ、戦端は開かれる。捕食者と捕食者、石の作る波紋はどんな形を描くのか……それは奪い合いの後にわかること」
ネリーさん Pno:178
テリメインでの暴走からまだ入院中のネリーさん。前回は一人ひみつの狩りに出て、血に濡れた獲物に我を失い、獲物を貪る姿をさらしてしまう。そして――
“
ネリー
「ねえ、おとーさん」
過去のネリー・イクタは、父親と向き合っていた。
ネリーの父親
「……なんだい、ネリー」
父は応える。娘を確かに見据え、しかし緊張させることのない目つきをして。
ネリー
「……わたしは、マモノの子、なの?」
ネリーの父親
「……。」
”
フィーナ「問いかけるネリーさん。でもその前に『あの狩りの後』」
フィオ「食事……というか捕食か、それで少しずつ落ち着いたみたいだけれど」
フィーナ「街へと戻ろうとするネリーさんへ近づいてきていた魔物。彼らの目的は『食べ残し』にあったわけだけれど」
フィオ「それは今だけ、食べきってしまえば血の匂いが残ったネリーさんを追いかけてくるだろうし、結果的に街にまで魔物を招くことになっちゃう」
フィーナ「銛を落としてなければ、まだ勝機はあったのかもしれない、それでも立ち向かっていったのだけれど……」
“ネリー
「……こっちに、こないでえええぇっ!!」
ネリーは後方へ取って返し、徒手空拳で魔物たちに挑みかかった。
ゲンコツとしっぽを振るい、噛みつきかかる。
魔物
「!!!」
敵の動きは未熟なネリーよりも速く、巧みだった。
魔物の群れは食事を中断し、あたりに散らばったかと思うと、すぐに反転して四方八方からネリーに突っ込んでいった。
ネリー
「ぎや゛っ……! い゛あぁああっ!!」
体当たりをされ、そのまま何匹かに牙を突き立てられる。
かろうじて急所は避けていたが、痛みは激しい。
ネリーは、生きたまま喰われようとしていた。
ネリー
「やだあ゛ぁぁっ! やぁあああっ!! だれかあっ! たすけてええっ!!」
叫びながら、必死に暴れる。噛みつかれたまま逃げ続ける。
めちゃくちゃに振るった尻尾は魔物の一匹を弾き飛ばすが、そんなものももはや何にもならない。
ネリー
「たすけて! たすけてよっ! たすけて……」
ネリー
「おとー、さん……っ……!」
”
フィオ「……狩りと戦いは本質からして違うもの。経験の不利、数の不利、まだそれらを覆せるほどネリーさんは強くない」
フィーナ「責任を感じていた。茫然自失としていた。色んな要因はあっただろうけれど、無謀な戦いになってしまったね。ネリーさんがいないことに気がついて、近くまで来ていたのだろうけれど、お父さんが来るまで持たない可能性も十分にあった」
フィオ「結果的に間に合ったから良かったけどね、さて……」
フィーナ「病院のような場所にて治療を受けているあいだ、両親も一つの決意を迫られていて。冒頭のお話に戻るわけだけど、ネリーさんの生まれについて。
ただどうやらお父さんも同じようなことがあったみたい?」
フィオ「そして二人向き合うネリーさんとお父さん。狩りに出て自分の身に起きたことを弱弱しく告げていくネリーさん。感情が溢れ出して涙に代わり、お父さんは告げていなかった事実を告げることに。それは祖父母とお父さんの話」
“
ネリーの父
「……おじいちゃんとおばあちゃんは、マールレーナから北の方の海にある街に住んでいたんだ。
おじいちゃんは、父さんのように狩りをしていた。
おばあちゃんは腕のいい魔法使いで、人の病気やケガを治してあげていた……」
ネリーの父
「おじいちゃんは若いころ、結構なあばれものだったらしい。
他の狩人だったら相手にしないようなデカい獲物に挑んで、やられちまっては、おばあちゃんの世話になっていたんだそうだ。
おばあちゃんは、そんなおじいちゃんを放っておけなかったんだろう。
二人は、気がつけばいつでも一緒にいるようになっていて……それなら、一緒に暮らそうってなって、結婚したんだ。
たくさんの人たちがお祝いしてくれたらしい。とってもお似合いの二人だ、って……」
ネリーの父
「……だけど、それからしばらく経ったある日のことだった。
邪神の教団……知ってるだろ。あれ、父さんが産まれる前からあったんだよ。
教団のやつらが、街を乗っ取ろうとしてきたんだ。おじいちゃんが強かったから、追い返すのは簡単だったらしい。
だけど、やつらはおじいちゃんに直接勝つつもりはなかった。
代わりに、おばあちゃんに、呪いを撃ち込んで逃げていったんだ。おばあちゃんの力でも、どうしようもないくらい強い呪いを……」
ネリーの父
「……呪いのせいでおばあちゃんは、デカくて恐ろしい魚の魔物に変わっちまった。
もっと腕のいい魔法使いなら助けられたのかもしれないけれど……呼びに行く暇なんてありゃしない。
このままじゃ、街は全滅。殺してしまうほかなかったんだ。
おじいちゃんは自分で、バケモノになったおばあちゃんを、殺さなきゃならなかった……」
ネリーの父
「おじいちゃんは、おばあちゃんにトドメを刺して……もう、何もできなくなっちまった。
だけど、その時、おばあちゃんのお腹の中で、何か動いてるのに気づいたんだ。
……それが、父さんだ。おばあちゃんのお腹の中には、もう父さんがいたんだ。
そして、おばあちゃんが死んでも生き続けていた……」
ネリーの父
「父さんは何とか生き延びて、おじいちゃんに育てられた。
だけど、町の人たちには父さんを気味悪がる人たちもいた。
元が水棲人とはいえ、魔物の腹のなかにいた子供なんて、どうなるかわかったもんじゃないって……
……そして、その人たちの考えが、ある意味では正しかったってことが……ある日、わかっちまったんだ」
ネリーの父
「父さんは……そこらの悪ガキどもにもいじめられてた。
いつもだったら、取り囲まれてからかわれたり、のけものにされるくらいだったんだが……
その日はちょっとやつらの機嫌がよくなかったらしくてな。体つきのいいやつの前に引きずり出されて、殴られたり蹴られたりした。
思い切りぶたれて、口の中が血まみれになったとき、父さんは、何がなんだかわからなくなった。
気がついたら、父さんは牢屋のなかにいて……縄で縛りあげられて、口をふさがれてた。
周り見たら、狩人に取り囲まれてて、その向こうから大人たちが怖い顔して見つめてた。
父さんは、殴ってきたやつを、危うく殺しかけたんだそうだ……」
ネリーの父
「父さんはそのまま、牢屋にひとりで残された。
この後、どうなるんだろうって、考えた。
処刑でもされるのか……あるいは、飢え死にするまで閉じ込められるのか。
父さんは、口をふさいでたものも、縄も、檻も、なにもかも食いちぎって、逃げた。
そういうことができるだけの力があったんだって……その時、初めてわかった。
家に帰ったら、おじいちゃんは寝ていた。
手紙を残して、どうしても大事なものだけ持っていって、父さんは街を出ていった。
……それから、おじいちゃんがどうなったのかは、今でもわからない」
ネリーの父
「それから父さんはずっと、一人であてもなく、世界中の海を旅した。
魔物みたいになるのは嫌だったから、自分で道具を作って狩りをした。
それでもなかなか獲れなくて、飢え死にしそうになってくると、どうにもならなくなって……気がついたら何か食い殺してたってことがある。
それでも……ニンゲンだけは絶対に襲わないようにって、十分気をつけてた。
そんな風に暮らしてるうちに、少しずつだけど、魔物の心をうまく操れるときがあるようになってきたんだ。
生きていく術も学んだし、教えてくれる人もいた……父さんに親切にしてくれる人たちが、町の外にはいたんだよ。
事情を知ってもそのままでいてくれたかどうかは、人によってちがったけれどね」
ネリーの父
「そうして旅を続けていると、ある時父さんは、巨大な怪物がマールレーナの街を襲っているって話を聞いた。
……そう。あの……デカいヤドカリのバケモノ。父さんたちの家になってるあの貝殻の、元の持ち主だ。
父さんはすぐにマールレーナに向かって、バケモノを斃したけれど……無傷とはいかなくてね。
ひどい傷を負わされてしまった父さんの手当てをしてくれたのが、その頃病院で働いていた母さんだったんだ」
ネリーの父
「母さんの腕は確かで、父さんの傷は速くよくなっていった。
……おじいちゃんも、おばあちゃんによくこんな風にしてもらっていたのかなって、思った。
父さんは、母さんに事情を話した。
みんなは父さんを英雄だって言っているけれど、父さんは英雄になんてなれないし、ここにいることだってできない。だから傷が治ったらすぐ出ていく、って。
だけど、母さんは首を振って、それから言ったんだ。
あなたは立派に英雄をやりました。それに、そういうことだったんなら、なおさら放っておけないってね。
傷が治ってからは、父さんと母さんはあのバケモノの貝殻に住むことになった」
ネリーの父
「母さんは、父さんのことをありのまま受け入れてくれた。
おばあちゃんが、たぶん、おじいちゃんにそうしてくれたように。
……そんな母さんとだからこそ、一緒に生きていけると思ったのかもしれない。
そして、ネリー。お前を……おれの子どもを母さんに産んでもらって、育てていけるとも……」
”
フィーナ「お父さんの口から語られた。代を跨いだ物語。ようやくネリーさんがああなってしまう理由も、お父さんが色々慎重だった理由もわかったね」
フィオ「ろくでもない奴らが力を持つと、本当に嫌なことになるなぁ。おじいちゃんも悲劇の連続だったし、お父さんを分かれた後はせめて平穏に暮らせてればいいんだけど」
フィーナ「ネリーさんに性質が遺伝しちゃったのは、決していいことではないんだろうけれど、克服した人が傍に居るなら話はそこまで悪いものじゃない……なにより希望にはなる」
フィオ「苦難の多い道のりではあるだろうけれどね、お父さんの前に現れたお母さんのように、あぁ別に伴侶となる人って意味だけじゃなくて、一緒に歩いていける人がいれば、もっといいのかも」
フィーナ「話を聞いたネリーさんは、生まれた来たこと、一緒に暮らして居ることを喜ばしく思っていると。それに同じように修行してしっかり制御してやるんだと」
フィオ「強い決意だね……まぁだからこそ、テリメインで暴れちゃったとき、凄くあやまっていたんだろうけれど」
フィーナ「退院して洞穴に戻った二人、ネリーさんの寝顔を眺めつつ、静かな決意を固めるクリエさん」
フィオ「ネリーさんの暴走もあったけれど、探索はもちろん、謎の渦とか、問題はまだまだ解決していないからね、二人で協力して立ち向かっていけるのかな」