2030年02月16日

はじめに/おしらせ

はじめに

 このブログはloxia様が運営しておりました定期更新ゲーム『Seven Seas』内におきまして

 Pno162の近藤アントニオ様が設立されたコミュニティ
『潜航日誌がんばりたい!』に参加している方々の日記への感想を書くことを主な目的としたブログです。

 各種日記や登場人物、設定などの著作権はそれぞれの作者様に帰属します

 また扱われる名詞は特定の個人や団体を表すものではなく、それらとは無関係であることを宣言します。

 多くの方の作品を題材とさせていただくため、最大限の敬意と最大限の注意を払い、記事の作成を行っておりますが、ミスや不愉快な点などございましたら、管理人のほうへご連絡いただければ幸いです。



・お知らせ


12/01の51回更新を持ちまして、Seven Seasが最終更新を迎えました。
loxia様におきましては、長期間の運営ありがとうございました!


これからについて
前回更新からとんでもなく間が空いてしまい申し訳ありません。
また、情況が好転してきたと書きつつも、ほとんど動けていなかった事もあり、情けない限りです。

今のところ、お一方ずつを17回〜ラストまで読みつつ、感想を書かせていただいております(お一方を最後まで、その後に次の方をという形です)
サイトも全く覗けていませんでしたので、少しずつ進めて行きたいと考えています。
このような体たらくですので、期待されている方はいらっしゃらないと思いますが、お暇なときにでものぞいていただければ嬉しいです

更新状況
六華さん
クーリエさん
クロニカさん
リーヴィアさん
アンテルテさん
レーヌさん
キノイさん
ネーレイスさん
アニーさん
ネリーさん・1
ネリーさん・2
次回更新予定:Pno.178 ネリーさん

5/10
更新しました38回から42回になります。
予想通り文字数が上限突破しましたので新たに記事を投稿する形とさせていただきました
5/12
引用タグの編集をしました。少し読みやすくなったと思われます。


思ったりごたごたしていますので、しばらくの間、5回分を完成したら投稿という形にさせていただきます。
1週間(以上)かかったり、かからなかったりすると思います。
申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いします



1/16↓
今回から幾つかの変更点があります。
変更点を下に記します
・今回の投稿で、全体的に引用を多めに変更しました。ほとんど全部ということもあるかもしれません
・それに伴い、六華さん、クーリエさんへの感想も引用を増やしたり、幾つかの加筆をさせていただきました
・次回より、投稿の間隔が一週間以上あいてしまう場合は、生存報告と共にできているところまでの分を公開していきます。
・また、読み終わり、書き終わった方々に対して、全編を通しての感想を書く『アトガキ』をいつもの形式で書かせていただいております、出来上がり次第、上記のリンクの横にその旨を表記し、追記させていただきます。こちらは不定期更新になります(通常のも不定期ですが……)




第二回更新:こちら


第三回更新:こちら 追加分


第四回更新:こちら 追加分


第五回更新:こちら 追加分


第六回更新:こちら


第七回更新:前半 後半(923〜)


第八回更新:前半 後半(923〜)


第九回更新:こちら


第十回更新:
前半
後半(1020〜)


第十一回更新:
前半
後半(1020〜)


第十二回更新:こちら


第十三回更新:こちら


第十四回更新:
前半
終盤


第15回更新:
1
2


第16回更新:
1
2




お返事記事:
こちら









 決して作業効率よく、順調に進んでいるとはいえない状況ですが、出来る限り良いものをお届けしたいと考えておりますので、もうしばしお時間をいただければ幸いです

posted by エルグ at 00:00| Comment(2) | 日記

2019年05月08日

ネリーさん37〜(途中)




37回



フィーナ「マールレーナへと進路を取るネリーさん。勝手知る故郷の海のはずだけれど……?」



ネリー
「みんな、まっててねっ。ネリーが、たすけにいくよっ……!」

 テリメインの皆のことも気にならないわけではなかったが、こうなったからには家のことが先決だった。
 だがその時、視界の隅に捉えた光芒が、ネリーの動きを変えさせた……ズバーッ! 光ははじけ、拡散した。

ネリー
「な、なんだとて……っ!?」

 あの光の矢の威力は人を即死させかねないが、ネリーが驚いたのはそのことだけではなかった。

ネリー
「……こいつぅっ!」

 尻尾を振るい、下へ勢いをつける。地面を眼の前にして、ネリーは急激なカーブをした。これでぶつかってくれればよかったが、何本もの光の矢は同じ動きで追いすがってきた。
 ネリーは速いリズムで身をくねらせ、海底すれすれを駆け抜ける。
 その先に、光の射手の姿を見た。



フィオ「>即死<」

フィーナ「危なすぎる。オルタナリアの海って……とおもったけれど『射手の姿』はテリメインで見かけた魔物だったみたい」

フィオ「なんか妙な変化はあったみたいだったけどね。渦がしていることを考えればこういう形もありえるわけだ」

フィーナ「スキルストーンを抜きかけて、自分の世界の魔法へと切り替える。お見事」

フィオ「使えない可能性をかんがみたけれど、魔物が力を発揮しているところを見ると、そうと断定するわけにもいかなさそうかな」

フィーナ「悪いことにおかわりもあるみたいだ……」



ネリー
「こないで……オルタナリアに、こないでっ!!」

 招かれざる客を追い返すため、ネリーは背中のハンマーを抜き、弾丸のように飛び出した。
 大きな影が、急速に近づいていた……鯨の魔物、キラーホエールが、その身を北海の底に漂わせていた。

ネリー
「このっ、やんろぉーっ!!」

 臆することなく、頭をめがけてハンマーを振るう。
 だが、この鯨も、異常であった。形と色こそテリメインで見たものと大差ないが、近づいていくと、色々な形のものが皮の下に埋め込まれているように見えた……
 その疑問が、ネリーに隙を作らせた。
 ドッ! 彼女の脇腹に、何か鋭いものが突っ込んできた。

ネリー
「がべっ……!?」

 ドッ! ドドッ! 次から次へと、何かがネリーに体当たりをしてくる。
 気力でもって態勢を立て直し、ようやくその正体を捉えてみれば、大ぶりな鰯の群れであった。

ネリー
「クッ!」

 痛みをこらえながら、ネリーは身を翻し、鯨の背を視界に入れる。見れば、腹の下から次々と鰯が湧いて出ていた。
 鰯の主があの下にいると、ネリーは確信した。鯨の巨体で身を守りながら眷属を呼び出し、時が来れば《カルパッチョ》の術を使って、それらを一斉に自らの力に変換するつもりなのだ。
 そうなれば、ネリーの敗北は必至である。

ネリー
「やらせる、もんかあっ!」

 先ほど、光の矢をしのぐために見せた泳ぎをもう一度行う。鰯の群れを誘い、高度を稼いでから一気に降下する……
 だが、ガァーン! 海底近くから一尾の鰯が現れ、ネリーの腹にぶつかった。

ネリー
「アウッ……」



フィオ「あーこいつは……」

フィーナ「つい最近どこかで見た特徴だね」

フィオ「一瞬の隙で一気に劣勢に持っていかれたわけだけど……」

フィーナ「隙を見せなかったとて、状況はかなり厳しそうだね。多勢に無勢だ」

フィオ「思惑通りにネリーさんを追い詰めていくマモノ達。そしてトドメの一撃が放たれようとしたところで」


 鰯の王たちは、破壊力のある波動を放とうとしていた。
 だが、そこに、バババッ! 氷のつぶてが、どこからか飛んできた。それらは鰯たちの周囲で炸裂をして冷気を放ち、攻撃の準備を行っていた彼らを凍らせた。

???
「離れろッ!」

 それらが来た方向から、声がした……ネリーは言われた通り、尻尾の力で飛びのいた。
 直後、ドドドドッ! 矢が、光芒が、雨あられの如く降り注ぎ、鯨と鰯とに突き刺さっていった。

ネリー
「なんなの……」

 攻撃の軌跡に沿って振り向けば、水棲人の男が近づいてきていた。その後に続き、武装をした人魚やイルカの獣人たち、軍馬代わりに手なずけられた海竜なども現れる。
 彼らの防具に描かれた紋章は、ネリーもよく知っているものだった。

水棲人
「奴らは……」

 水棲人は双眼鏡を懐から取り出し、着弾地点を見る……水煙が晴れてくると、そこには小さな残骸がバラバラになって転がっていた。
 彼は後ろを向き、後続の味方たちに向かって叫んだ。

水棲人
「無力化を確認! 襲われていたのは、ネリー・イクタだったぞ!」

 ネリーの名が出て、一同はにわかにどよめく。

ネリー
「うっ、うゃ……おにーさん……兵隊さん、だよねっ……?」

 驚きはしていても、助けられて何も言わないのは気まずい。

水棲人
「ああ。俺はフォーシアズ海軍のゼバ・エブカだ。臨時のパトロール隊の隊長をしている……」

 海に面した国は海軍を持っているわけで、海の民を雇って回していた。
 そういえば、ワサビが言っていた様子見に来る水棲人というのは、ゼバのことだったのかもしれない。あるいは、彼の同僚か。

ゼバ
「ネリー、早速だが、落ち着いて聞いてくれ……」
ネリー
「うゃ?」
ゼバ
「君の街、マールレーナは……あの渦のために、壊滅してしまった」
ネリー
「えっ……!?」
ゼバ
「だが、人は無事だ。ネプテス・イクタも君を心配している」
ネリー
「……おとーさん……!」

 ネプテスの名が出ると、ネリーは少しホッとしたようだった。

ゼバ
「我々はこれから、一度フォーシアズに帰る。君も一緒に来てくれ」
ネリー
「そこに、おとーさんも……?」
ゼバ
「ネプテスは、セントラスの方だ。大丈夫、必ずまた会えるさ」
ネリー
「……うん。おとーさん、生きてるんなら、だいじょうぶ。」

 振り向けば、ゼバの部下たちが残骸の回収をしていた。あれが終わるのを待って、出発するのだろう。
 ネリーはその前に、一つ伝えておくことがあったのを思い出した。

ネリー
「っと、ねぇ……フォーシアズに、いくんだったら、これ……」

 ネリーは懐から、例のウニもどきの破片を取り出し、ゼバに差し出した。

ゼバ
「これは……?」
ネリー
「あの、渦をおこしてたやつの、カケラかもしれないの。フォーシアズなら、ガクシャさんがたくさんいるから、しらべてもらえるかなって……」
ゼバ
「なるほど、それはいい……! 必ず、送り届けような……」


フィーナ「多勢に無勢」

フィオ「やっぱ戦いは数だなフハハ」

フィーナ「抗い続けるもの達との合流。悪いニュースといいニュース」

フィオ「少なくとも命があれば再建できるかもしれないからね……」

フィーナ「おそらく事態に深く関わっていると思われる人たち。そしてネリーさんが差し出した手がかり、事態は少しずつ進みそうではあるね」

フィオ「反応を見るとこっちでは原因までは手が届いてなかったみたいだからね」



ゼバ
「ご苦労、ではネリーを我々の所へ迎えるとしよう。ネリー、彼女は副隊長のサニア・サミアだ。他の隊員も、後で紹介しよう」
サニア
「あなたが、狩人ネプテスの娘ですね……活躍は聞いています。よろしく頼みます」

 サニア副隊長は、ずっと年下のネリーに丁寧なお辞儀をしてみせた。

ネリー
「うゃあ、よろしくねっ。ところで、そのカケラって、あいつらの……」
ゼバ
「そうだ。奴らは生き物のようにみえて、実はこういうガラクタが集まってできている。少し壊したくらいじゃ身体を組み直してまた動き出してしまうから、コナゴナになるくらいまで攻撃しないといけない……厄介なやつらだよ」
ネリー
「ね、ねえ……ゼバさん。こいつら、もともとテリメインの……」
ゼバ
「テリメイン?」
ネリー
「あっ、わたしの行ってたセカイ……」

 詳しく話せば、ここで足止めをくわすことになるだろう。



フィーナ「ウニヤローだな」

フィオ「ここまで特徴が一致して違うってこともないだろうね、テリメインの魔物を取り込んだのか、データだけなのかはまだわからないけれど」

フィーナ「とりあえずは次の目的地のフォーシアズへ」





38回




 ネリーとフォーシアズ海軍のゼバ、その部下たちは休むことなく泳ぎ続け、フォーシアズ東の港に辿りついた。
 首都フォーシアズ・カピタルへと向かう前に、渦による被害の状況を確認して回る。この港は幸いにも、概ね無事なように見えた。避難勧告も出ており、人の気配は既にない。

ゼバ
「ネリー、疲れちゃいないか?」
ネリー
「うゃっ、ぜんぜんげんき!」
ゼバ
「ほう、流石だな。けどここからは、鉄道が使える。駅には人が残っているはずだ。渦も来ないだろう距離にあるからな……」
ネリー
「そーだねっ、乗れるんなら、ひさしぶりに乗ってみたいなっ」

 この国には、フォーシアズ・カピタルを中心とした鉄道路線ができていた。この港も普段は外国からの受験生や留学生たちで賑わっており、汽車に乗って首都のアカデミーを目指し旅立っていくのだ。逆に、高等教育を経た自分を売り込むべく、フォーシアズの外へ向かう者も少なくない。
 駅の方へ向かおうとすると、ゼバの部下の若い水棲人が慌てて駆け寄ってきた。



フィオ「とうちゃーく。休みなしで泳ぐのも水棲人の嗜み」

フィーナ「普通の人間だとしんどくて死んじゃう」

フィオ「オルタナリアの主要な街の一つかな。人の出入りがある場所は発展していくよね」

フィーナ「水棲人の人たちが居るから、港町というのも発展の要因になっているのかもしれないね、で……アクシデント?」

フィオ「隊長! 海から渦が!」

フィーナ「無事に見える港についたのにいきなり戦闘か……凍らせるということで意見は一致したけど」

フィオ「テリメインでの一件から得たアイディアなのかな? 動きを止めてウニさえ回収できれば……」




 ドーッ! ネリーとゼバは強く大地を蹴り、斜面に着地すると、そのまま颪のように駆け下りた。
 二人が埠頭に着くと、渦はその手前で止まり、海上に向かって伸び上がるところであった……

ネリー
「《アイシクル》ッ!!」

 ビカーッ! 突き出されたネリーの手から青い閃光が放たれ、竜巻に変わりつつあった渦に突き刺さった。ビカッ、ビカッ! ゼバと、既に周囲に駆けつけていた部下たちもそれに続き、同じ術を唱えた。
 海面から立ち上がった渦は動きを鈍らせ、白く固まる……

ゼバ
「やったか……!?」

 が、バキバキッ! すぐにヒビが入ったかと思うと、竜巻は氷を振り払っていく。

ネリー
「だめっ……!」

 なおも、冷気を浴びせ続ける根性がネリーにはあった。そんな彼女をゼバは後ろから抱え上げる。

ネリー
「ゼバさんっ!」
ゼバ
「無理だ! 気持ちは判るが!」

 バキーン! とうとう竜巻は自由を取り戻し、再び前進を始めた。
 もうなす術もない。ネリーたちの目の前で、放置されていた船や木箱、小屋などが巻き込まれていく。

ゼバ
「逃げるぞ、ネリー! お前をカピタルまで届けねば、やられっぱなしになる!」
ネリー
「う、うんっ……!」

 対抗を諦めたネリーはゼバの腕の中から抜け出し、自分の意志で走りだした。




フィーナ「一瞬の足止めにはなっているけれど、効果的とは言いがたいね」

フィオ「災害レベルの相手だからなぁ、大きくなっちゃったら逃げることも必要」

フィーナ「陸上移動が苦手な人たちとは別れて、逃げていくネリーさんたちだけれど……竜巻が駅に狙いをつけたように動き始めて」

フィオ「無事だった施設を的確に狙うとか、災害よりたち悪いな!」

フィーナ「どうやらそれだけじゃないみたい……だね」


 最低限残っていた人々が、一斉に街の外へと走りだす。ネリーとゼバはその場に残り、竜巻を出迎えながらも、巻きこまれぬよう脇に逃げた。
 最初の数倍にまで大きくなった竜巻の根っこに、ガレキの塊が見える……残骸をパーツとして組み上げ、ムカデに似た姿を為していた。中枢には、あのウニモドキがいるのだろう。
 ネリーが、反撃の機会を伺っていると……ガガガガッ!! 竜巻は汽車の車体と、線路までも飲み込み始めた。

ネリー
「ああっ!!」

 汽車を呑み込んだガレキの怪物が、変形を始めた。その脚の下に奪い取った車輪を出現させたのだ。スピードを高めた怪物は、そのまま竜巻と共に、線路を追うようにして進んでいく……

ゼバ
「まさか、カピタルへ行こうってのか!?」
ネリー
「ゼバさん……! わたし、おっかけてくるっ!」

 ドーッ! ネリーは強く大地を蹴って跳び、四つん這いで着地すると、そのまま獣のように駆け出した。

ゼバ
「ま、待て、ネリー!」

 言ってはみるが、相手はネプテス・イクタの娘である……ただの水棲人であるゼバには、とても止められそうになかった。



フィオ「技術取り込むとかずるい!」

フィーナ「いやウニの出所を考えればそういうものを利用するのはありえた話だよ」

フィオ「それはそれとして、これはまずいね」

フィーナ「追うネリーさんだけど、ずっと移動して戦闘の繰り返し、体力大丈夫かな……」


フィオ「さて、一方のクリエさんとシールゥさん。ネリーさんを探してテリメインの海を探索しているみたいだけれど、当然空振りになっちゃって……心配が募るね」

フィーナ「とはいえ、こちらもこちらでやることをやらなくちゃ、というわけでアッチの元へと」



アッチ
「で、今日もボウズ、ッチか。しゃーないッチねェ」
シールゥ
「釣りやってんじゃないんだよ」

 もう何度目かの事情聴取である。

シールゥ
「ねえ……そういやさ。あの渦起こしてるウニモドキ、オルタナリアで作られたかもしれないんでしょ。なんか……ああいうの作りそうなヤツに、心当たりってないの? アッチも……学会ってのに、いたんだよね」
アッチ
「んむ。ボクちゃんがちょーっと気に食わないからって、追放しやがったッチけど」

 シールゥは、かつてオルタナリアを冒険していた頃、直樹が教えてくれた地球の漫画のことを思いだした。そこに出てくる悪役の博士も学会を追放されていたのだ。危ないことを考えている人間を、話し合いもせず野放しにするというのは、あまり賢くないやり方に思えた。

アッチ
「……あのウニと関係あるかどうか知らんが、ミクシン・ミックってヤツがいたのを思い出したッチ。ボクちんがまだ学会にいた頃、アカデミーで反ヴァスアをやってたガキだッチ」
シールゥ
「反ヴァスア、ね……」

 オルタナリアは、地球人の力がなくては存続できない世界であった。定期的に地球の子供を呼び出してヴァスアの勇者として祭り上げ、各地の『神秘』を回らせて『心の儀』を完遂させなくては、世界はバランスを崩し、滅びてしまう。
 そうして異世界の人間に依存して生きることをよしとしない人々がいた。それが、反ヴァスア派である。
 彼らはヴァスアに依らずにオルタナリアを存続させる術を探し求めていたが、ヴァスアや『心の儀』にまつわる物事はオルタナリアを創世した女神ミーミアが決めたことだとされており、その女神に逆らうものと見なされた反ヴァスア派は世間から冷たい目で見られ、長らく日陰で細々と活動を続けていた。
 ところが時が経つにつれ、地球人を呼び出す間隔が次第に狭まってくるようになった。これを知った反ヴァスア派は、ヴァスアによる仕組みの限界が近づいているのだと謳い、支持を得るようになる。あるヴァスア―――広幸、孝明、直樹の直前に来た少年である―――が『心の儀』に失敗し、それ以来世界各地で異変が続発したことも、彼らの活動を後押しした。
 だが、その後にヴァスアとなった広幸たちは、長い旅の末に『心の儀』を完遂するだけでなく、オルタナリア存続のメカニズムをも解き明かしてみせた。彼らが冒険の最後に起こした奇跡によってオルタナリアは独立した世界となり、未来は開かれた。
 そういうわけで、現在は再び反ヴァスア派の活動は下火になりつつある。

アッチ
「ミクシンはアカデミー出た後、事業を起こしたらしいッチが、ボクがここに来るちょっと前にナゾの失踪を遂げた……て新聞でやってたッチ。その前からちょくちょく、たまにいなくなったりすることがあったらしいッチがね」
シールゥ
「ふうん……怪しいけど、こっからじゃ調べようもないね。まあ、覚えとくよ」


フィオ「だんだんと犯人と思しき人物へ近づいてはいるみたいだね」

フィーナ「危険思想の持ち主をどうするかってのは難しい問題だよね、大抵は追放した時点で施設とかは使えなくなるわけだから、翼をもいだ形ではあるのだろうけれど」

フィオ「真の天才は場所を選ばない」

フィーナ「マッド入っちゃってる人も多いけどね……。完全に孤立したところから逆転していけるのはやっぱり普通の人とは違うのだろう」

フィオ「オルタナリアの根幹に関わる話が出てきたね。……日誌の事を考えると怪しさが増すけど」

フィーナ「常識とされる思想と別の考えを持つ者が冷遇されることはままあるね。お互いに十分話し合えればいいのだけれど、中々そうも行かない」

フィオ「とはいってもこの歴史のとおりだとすれば、苛烈に反対運動をする理由は薄い。何がしか本人だけが知っている真実があるのかもしれないね」

フィーナ「時系列的にも有力な容疑者だろうけれど、問題は別世界にいるってことかな」



ネリー
「はっ、はっ、はぅっ」

 汽車の代わりに線路を疾走する竜巻を、ネリーは追う。獲物を追う肉食獣のように。
 自分の中に流れる魔物の血を呼び起こすことで、こんな力を発揮することもできた……だが、それも体力が尽きてしまえばおしまいである。
 車輪を得たガレキの怪物は、ほとんど速度を落とすことなく走り続けている。どこからエネルギーを得ているのかもわからない。

ネリー
「(飛びつかなきゃ……はやく……!!)」

 力を引き出しながらも、冷静な自分を心の中に保つ。ネリーの目は、怪物の尾っぽにあたる部分だけを見つめていた。
 だが、その視界は赤く染まりつつあった……遠からず、精神か身体のバランスを崩し、走り続けることはできなくなるだろう。

ネリー
「(カピ、タルに、行かせ、ないっ……! オルタ、ナリアをっ……! こわさせ、ないっ……!!)」

 その決意に、ネリーの身体は追いつかなかった。

ネリー
「アッ……!?」

 ドッ! ネリーの腕は大地を掴み損ね、彼女は思い切り前のめりになった。その勢いのまま何度か転がり、地面を長く滑り、そして停止した。

ネリー
「あっ……あ……!!」

 顔を上げる。ガレキの怪物が、遠くへ過ぎ去っていくのが見えた……



フィオ「一方のネリーさん。やっぱり体力が厳しい」

フィーナ「……確かに、どこからアレだけ大きいエネルギーを得ているんだろうか」

フィオ「流石に限界を超える追走だったんだろう。一人じゃ無理だ、悔しくても」

フィーナ「目の当たりにした脅威が次の犠牲者を求めて遠のいていく、その心中は如何ばかりかな」


39回



フィオ「ネリーさんとは別の場所。そこでも渦による襲撃が行われていた。絶対的な暴力へと抗おうとする人々の下へと降り立ったのは」


 オルタナリア中央大陸、セントラス。世界最大の国家として名を馳せるこの国も、沿岸では渦の力に苦しめられていた。
 大陸東岸のオークロフ港でも、海軍を交えた避難活動が続いている。
兵士
「竜巻だァ……! 渦が上がってきたッ!」
 ゴォーッ! 声を上げる兵士の目の前で、渦は木箱や樽、鎧に身を包んだ仲間達までも巻き上げながら寄ってくる。
 彼は無力だったが、しかし勇敢でもあった。
兵士
「逃げるなら高いところだ! 建物じゃなく山の上! 渦がバテるまで耐えろーッ!」
 叫びながら後退する。民よりも先に走り去ってはいけないが、自分の命も守らなければ人は救えない。
子供
「ワァーッ!!」
兵士
「ンッ!?」
 甲高い叫びに振り向けば、男の子が一人、仰向けになってわめいているのが見えた。転んでしまい、起きようとした所に迫る渦を見たようだ……
兵士
「今行くぞ!」
 兵士は子供に駆け寄り、抱え上げてやった。
子供
「へっ、兵隊さんっ!」
兵士
「舌ァ噛むぞ! 掴まってろ!」
 そのまま、全速力で走りだす。
 しかし、もうすぐ後ろから風が殴りかかってくるのが感じられる。子供を後ろ側にしなかったのは幸いであるが、それもこのままでは無意味となろう。
 例えどうあっても、死ぬつもりはない……そんな想いも空しく、兵士の足は間もなく浮き上がり、きちんと地面を捉えられなくなった。
 そこへ、ビシャーッ! 一筋の雷が奔った。
兵士
「アウッ!」
 倒れこむ直前、子供を圧し潰さぬように体を傾けることはできた。
 勢いのまま転がれば、空が見えた……金色の光が鞭のようにしなり、竜巻を叩きつけているようだ。
子供
「渦と……戦ってるの!?」
 子供は兵士の腕から転がり出し、一足先にそれを目撃したようだった。
???
「お前ら、下がれェ!!」
 どこからか、ややあどけなくも力強い声が飛んできた。
 その主は空中からこの場に乗り込んできた。
 彼は人間であり、歳はここにいる子供とほぼ同じ程度であった。だがその身体は雷をまとって輝いており、右手に構えたハープーンはさらに激しく発光していた。
直樹
「ダァーッ!!」
 雷の少年は、ハープーンを竜巻の根元目がけて放り投げた。
 ドドゥッ! ビカァーン!
 放たれた力が、兵士と子供の五感を埋め尽くした……
 すべてが止んだ時、もうそこに竜巻は存在していなかった。
直樹
「一丁あがり、っと!」
 雷の少年は着地をしていた。バチッ! 小さな雷が二、三発、彼の周囲ではじけてすぐに消えた。
子供
「す、すっげぇ……」
兵士
「き、君は、一体……いや、まさか……!?」
 まだ立ち上がってすらいない二人だが、雷の少年は近づいてきて挨拶をした。
直樹
「俺は直樹。瀬田直樹だ。オルタナリア、もういっちょ助けにきたぜ」
兵士
「直樹……そうか! 君がヴァスアか!」


フィーナ「モブが頑張るのっていいよね、私こういうの好き」

フィオ「勇気を持って職務を全うしようとするのは美しい。それがどんなに困難なことであっても」

フィーナ「無力、か。確かに彼は渦を何とかはできないかもしれないけれど、少なくとも子供を助けた。それは無力ともまた違うのかもしれない、勇敢の褒章なのかもしれないけれどね」

フィオ「そしてまた一人、かつての旅の仲間が参戦。彼がいるってことは他の二人もなのかな」



ネリー
「アァ…… ……!」
 ガレキのムカデが線路を喰らいながら遠く離れていくのをネリーはもはや見ていることしかできなかった。
 フォーシアズ・カピタルに攻め込まれるのを、止められない―――
 だがその時、ゴウッ! 上空から何かが飛来した。影がネリーの身体を覆って、通り過ぎた。
ネリー
「へっ……!?」
 見上げると、大きな鳥と肉食獣が合わさったようなシルエットが高速で移動していた。
 上空にいたのは、四つ脚の雌竜……アノーヴァ・ピーヴァルであった。氷のような甲殻があり、その身は全体に青白い。翼を羽ばたかせることはせず、どこか高所から滑空してきたらしい。
アノーヴァ
「私が爆撃するが、それで駄目ならば任せる!」
 氷竜の背には、バンダナをした緑髪の少年……宇津見孝明が乗っていた。
孝明
「飛び降りて異能力を使えってンでしょ!? やりますよ!」
アノーヴァ
「その意気や良しだ! いくぞ!」
 ドッ! ドドッ!
 地上のネリーは、氷の塊で爆撃がなされるのを見た。ガレキのムカデに何発か突き刺さり、侵食をする。
 動きを鈍らせたようだが、止まるには至らない。
孝明
「やらいでかッ!」
 アノーヴァの背から、孝明少年が飛び降りた。
 大地が近づくと彼の目は緑色に輝き、放たれた光芒が大地を打った。
 応えるように、ドゥッ! ドーッ! 地面を破って木の根が現れた。それらは互いに絡みつき、十数倍もの太さとなってしなる。
孝明
「ウィリデ・スラッパーなら、やってみせろぉーッ!」
 孝明少年の叫びと共に、焦げ茶色の大蛇が大地を薙いだ……ガァーン!! ガレキのムカデは押し倒され、転覆した。
 目の前でこんなことをされていては、ネリーも動かないわけにはいかない。
ネリー
「ハッ……!」
 呼吸を整え直し、再び四つ脚で駆けだす。あんなに遠くにいた怪物がみるみるうちに近づいてくる。
 頃合いを見て、ネリーは跳躍した。
孝明
「なんだとて!? ネリーか!?」
 空中で、余っていた木の根に受け止められた孝明少年はそれを見届ける……かつての仲間が近くで戦ってくれていることは、勇気の支えになった。
ネリー
「グゥアァーッ!!」
 シャコガイハンマーを構え、縦に回転しながらネリーは飛び込んでいく。
 ガレキムカデの横っ腹に、ドォーッ! ハンマーを叩きつければ、つぎはぎの身体は大きく砕ける。
 だが、そこに中枢のウニモドキは見えない。
ネリー
「ここじゃない……!?」
 シュルル! 怪物の体内から触手が放たれ、ネリーを襲った。あるものは締め付けようとし、またあるものは柔肌を刺し貫こうと迫る。
ネリー
「ガウッ!」
 一本をすぐさま噛み千切るが、二本三本と来れば囲まれる。対処しきれなくなるのも、時間の問題だ。
 だが、後方には孝明がいた。
孝明
「ネリーッ!」
 ドッ! 大地の中から、今度は膨れた実のついた小さな植物が現れた。
孝明
「てぇ!」
 孝明の声に応え、植物たちは動いた。
 細い体をくねらせ、実の先端を怪物の方に向けると、ドッ! 弾け飛んだ実から、人の頭ほどもある種が発射された。
 その狙いは精密であった。ネリーを突き刺そうとしていた触手たちは半ばから断ち切られ、吹っ飛んでいく。
ネリー
「孝明っ!」
 ネリーは一旦怪物から飛びのき、彼を出迎える。コアが見つからないままやり合うのは、不利であった。
孝明
「お久しぶりだね、ネリー! ヤツをどうにかするぞ。アノーヴァさんもじきに戻ってくるはずだ!」
 横っ腹から触手を動かす怪物を前に、二人は身構えた。


フィーナ「おそらく彼女が前に話していたドラゴンなんだろうね」

フィオ「世界の危機とあれば積極的に関わっていかなくちゃね」

フィーナ「集まってくる力は世界の敵を打倒せよという使命を帯びたかのようで。再び集う勇者達がまた世界を救うのか。
ただ、首謀者はそれを良しとしなかったと思われるものだからこそ、それに対する何かを用意しているのか……」


フィオ「もう十分にかき乱しているんだから、早いトコ収束してほしいけどねぇ」


40回



 フォーシアズ沿岸の駅にあった列車と同化し、走り続けていたガレキの怪物は転倒をしたが、むき出しになった体内から触手を放って戦いを続けるつもりでいた。
孝明
「ええい、今のうちに!」
 ボッ! 孝明少年の念に応え、再び大地から木の根が飛び出す。それらは弧を描いて怪物に飛びかかり、巨人を捕らえようとする小人達の縄のように、長い身体をがんじがらめにしていく。
ネリー
「わぁ、すごいすごいっ!」
孝明
「トドメは君に頼むさ―――ンッ!?」
 怪物の身体の中で、ガチャガチャと金属が音を立てていた。
 チュイーンッ! 甲高い音と共に、締め付けていた根が断ち切られ、跳ね飛ばされていった。怪物の体内から、丸ノコギリが顔を出していた。さらにはナイフや尖った金属片を絡めとった触手たちも現れ、次々と根を切り刻んでいく。
 自由を取り戻しつつ、怪物は一瞬だけその身体を膨らませた。直後、接地していた側面が爆ぜ、煙と土塊が飛散する。
 その勢いで起き上がった怪物は、ネリーたちが何かをする前に、後方でさらにボウボウと爆発を繰り返して走り出した。強引に加速をつけたのだ。


フィーナ「対ムカデ渦のつづき。機械の敵っぽくなってきたね」

フィオ「随分器用で嫌になる! 準備をするだけの時間を与えてしまったからかもしれないけれど」

フィーナ「取り込んで得た力も上手く使っている……本当に機械? それとも現代の機械ってこんなに応用力があるのかな?」

フィオ「感心しているわけにも行かない。これまでの疲れは何処にやら、一気に追いぬいて竜巻と相対するネリーさん。
サポートに回ろうとする孝明さんは追いつくのに苦労していたけれど、その意思が能力を行使して、なんとかついていく」



ネリー
「ガルルゥッ!」
 咆哮が聞こえた。ネリーはもう怪物の上に飛び乗っていて、敵の体内から次々現れる金属部品たちと殴り合っている。
 弱点の位置がわからないのでは、埒が明かない。このガレキの怪物が無秩序に自分を肥大化させていったのではないなら、先ほどのように爆発しないポイントには中枢があるだろうとも考えられるが、それも確かではない。
孝明
「足を狙え!
 木の根は、孝明少年に応えた。
 彼を下ろした根っこが、尖った先端を叩きつけることで車輪の接合部を破壊しようとする。だが、金属の強度に勝てず、上手くいかない。
 焦る根っこ達に、孝明少年は深緑色の毛深い膜がくっついているのを見た。引きずられてきた地衣類であった。」
孝明
「役に立つかも……!」
 孝明少年はそこに、懐から取り出した栄養剤の薬瓶を放り投げる。ガチャーン!
孝明
「がんばってくれ!
 浴びた薬液と声援に応え、藻と菌たちのコロニーはみるみるうちに膨れ上がり、饅頭のようなすがたとなった……エネルギーの辻褄合わせさえすれば、生命を爆発的に増殖させることもできるのが孝明少年の異能力である。
 この深緑の塊はモコモコとうごめいて、敵の体内に潜り込んだ。細い菌糸が中枢を捉えてくれれば僥倖であるが、それだけに期待するわけにはいかない。
 今度は植物の砲台を出して、ネリーの援護射撃をしなくてはならない。だが、その思考は、妙な浮遊感で途切れた。」
孝明
「アッ……!?」
 怪物の尻の上から銃身がいくつも現れ、燃える矢を放ったのだ。それらには、孝明少年の乗った木の根を一撃で断ち切るだけの力があった。
 代わりの根っこが来て孝明少年を受け止めるのだが、それも容赦なく破壊された。彼は強かに地面に叩きつけられ、小さくバウンドしながら後方に消えていく。



フィーナ「第二ラウンドだ。ウニを探しながらの戦いは決して楽なものじゃないけれど……」

フィオ「コケー!」

フィーナ「これぞ柔の力!」

フィオ「一瞬の油断が命取りになった。体もそれなりに強化されてるなら大丈夫だろうけれど……」

フィーナ「とはいえ後ろばかり見ているわけにも……」


ネリー
「た、孝明っ……!?」
 まだ冷静さを残していたネリーには、仲間が離脱したことがわかっていた。
 触手が操る草刈鎌が、動揺するネリーの左腕を襲った。
ネリー
「アウッ!」
 深手ではないが、血は流れ、痛みも出る。
 隙を晒したネリーに、さらに刃や鉄塊が、猛然と飛びかかってきた。
ネリー
「ぐえっ……」
 柔らかな腹に、杭を打つためのハンマーが叩きつけられた。体勢を崩したネリーはすぐに怪物の加速度に負けて、側面へふらりと落下する。
 なかば無意識のうちに、ネリーは右手を伸ばした。その先に、指が嵌った。粘着性をもった深緑の塊が、怪物の脇腹の穴から生えていたのだ。忙しく戦闘していたネリーは、それが孝明少年がこの場に残したものであるのを見てはいないが、異質さゆえに理解することはできた。
 どうにか左手も穴に引っ掛けて中を覗くと、緑が蠢いていた。何かをしようとしてくれている。孝明少年が操った物ならば、彼の思念をまだ宿しているのかもしれない。
 塊は前方に向かおうとしているらしい。穴は中に潜り込むには狭すぎたので、ネリーは代わりに怪物の側面に張り付いて少しずつ前進していった。むろん、ここでも刃物やガラクタを振るわれたが、全て徒手で追い払っていく。
 進むにつれてだんだんと抵抗が激しくなっていくので、ネリーは確信を得た。
 怪物が取り込んだ列車において、前から二番目の客車であったと思われる部分に接近した頃、上からの触手がネリーの眼を目がけて飛んできた。
ネリー
「ハッ!」
 首を横に向けてかわし、そのままネリーは触手を掴む。勢いよく宙に浮いた身体は、怪物の上部に着地した。
 大ぶりの剣や斧、銃―――オルタナリアにおける先進技術を扱うフォーシアズでなら、だんだんと珍しくもなくなってきているのだ―――を構えた触手たちが、鎌首をもたげていた。
ネリー
「や、やっば……!」
 その場で、四つん這いになる。この状態で銃撃をかわせるとしたら、これしかなかった。
 まず、大きな出刃包丁が振り下ろされた。最小限の横っ飛びでかわせば、怪物の屋根に深々と突き刺さった。この中にあのウニモドキがあるのは確からしいから、脆くしてくれるのは助かる。
 ついで、槍が突いてくる。奥には銃が控えてきた。ジグザグに後ろへ飛び、さらに後方から出た触手を尻尾で薙ぎ払い、今度は前へと跳躍し……
 が、ネリーの身体は空中で横へ流された。左カーブに差し掛かったのだ。無傷の右手をどこかしらの出っ張りにひっかけようとするが、そこにあったのは触手の一本だった。
ネリー
「アァ……!」



フィオ「怪物の猛攻が続いてる。意識を他所に向けることすら許されない」

フィーナ「孝明さんの置き土産を頼りに進んでいくけれど、嵐の中に進んでいくようなものだね……」

フィオ「そもそも一人で相手にするようなものじゃないよこんなの」

フィーナ「攻め手の多さがどうにも……攻撃の隙がありゃしない」


 ネリーは、宙に投げ出された。ならばと左手に集中力をこめて、簡単な攻撃の魔法を使おうとする。だがそこに、ガァン! と銃が撃たれる。当たりこそしなかったが、精神の平衡を乱すには十分である。
 風と遠心力と、続く攻撃がネリーに襲い掛かった。
 だが、それ以上の衝撃をもたらしたのは、怪物の力ではなかった。変転する景色の中で、青白い光が飛来するのをネリーは見届け、そのまま空中高く放り上げられたのである。
アノーヴァ
「ネリー・イクタ!」
 アノーヴァ・ピーヴァルが、地上を走って戻ってきていた。孝明が頭の角にしがみついている。
 ガレキの怪物は、派手に脱線している。ネリーは重力の助けを借りることにした。
ネリー
「ダァーッ!」
 シャコガイ・ハンマーを抜き、闘志を漲らせる。貝のあぎとが開いて、鋭さを増した。弾けるようにネリーは高速の縦回転を始め、怪物目がけて落下していった……
 ギャギャギャギャッ!
 怪物の横っ腹を、ハンマーが深々と抉った。その奥に、中枢のウニモドキが見える。
ネリー
「ガウッ!」
 ネリーの咆哮と共に貝は勢いよく口を閉じ、ウニモドキを食い千切った。
 刹那の後、異形の列車は内側から小さくはじけ、ガラガラガラッ。崩壊した。
孝明
「大丈夫なのか……?」
 孝明少年は気遣うが、直後にネリーはガレキの山の中から勢いよく右手を突き上げ、健在をアピールしてみせた。
アノーヴァ
「よく知っているだろう、強い子だって?」
孝明
「そりゃ、そうですけどね」
 こうして、フォーシアズ・カピタルの危機はとりあえず去った。



フィオ「対応能力高いなぁ……反応も早いし。でもお前はここで終わりだ」

フィーナ「戻ってくるのを待っていたぞい」

フィオ「孝明さんも無事だね! 車輪を使ったのは間違いだったかなぁ?」

フィーナ「今回は何とかなったけど、ここまで成長しちゃうとかなり厳しい戦いになるね。一人一人が英傑だとしても、相手もまだ底は見せていない」


 テリメインの側でも数日が経過した。
 ドクター・アッチが自分たちが見てきた以上のことを知らず、あのウニモドキのサンプルを追加で手に入れない事には調査も進まないから、クリエとシールゥは毎日海に出ているのだが、進捗はあまりない。
 疲れが出た二人は、船着き場に腰かけて水平線を眺めていた。
シールゥ
「ネリーは上手くやってるかな。渦の発生件数が増えてないってンだから、そうだと思いたいけど」
クリエ
「……信じ、る、しか、ない?」
シールゥ
「そうだけどさ……」

 ふと、遠くの方が騒がしくなった。
シールゥ
「ンッ、事件か?」
 男どもが喚き立てているようだった。
 揚がった、人だ、と聞こえてきたから、二人はすっ飛んでいった。
 騒動の現場に辿りつくと、船乗りたちが一所に寄り集まっていた。クリエは、自分がこの地に来た時のことを何となく想起した。
船乗りA
「医者ンとこへだ! 急げ!」
 担架を持った船乗りたちが、揚がったという者を運んでいく。
 クリエとシールゥは、その顔と着衣をちらと見て、驚かなくてはならなかった。
「…… …… ……。」
 黒い髪、空色のシャツ。
 今運ばれているのは、かつてオルタナリアを救うべく直樹や孝明、そしてネリーやシールゥとも旅をした少年……萩原広幸であった。



フィオ「一方のテリメイン。進展の無い中で起きたのは……」

フィーナ「こっちへ? いやオルタナリアに呼ばれたけれど、渦に巻き込まれてこちらへきちゃったってことかな?」

フィオ「どちらにしても早く医者!」


41回



フィーナ「テリメインに現れた三人目のヴァスア。彼の事情は先の二人とはやや異なっているようで」


 萩原広幸は、普通に朝起きて、学校に行くはずだった。
 だが、普段通る道から外れたところに目をやると、そこには異界が紛れ込んでいるのである……彼のよく知る異界、オルタナリアである。鳥でもないのに空を飛ぶ小動物やら、魔法の光やら、日本語でもアルファベットでもないような文字で書かれた看板―――旅をしていた頃の広幸たちは、何故か問題なく読めたのだが―――などが、アスファルトとコンクリートの世界にオーバーラップしている。
 救世主ヴァスアとしての使命を終えてなお、オルタナリアとの縁は切れないらしい……広幸は、つい半年ほど前の自分がこのことを知ったなら、もっと無邪気に喜んでみせただろうかと思う。
 しかし、その光景に渦のようなものが割り込み、何もかもを呑み込んでいくのを見たとき、彼の思考は断ち切られた。
 危機感が使命感に変じる前に、身体が幻影の中へ吸い寄せられていく。
 海の匂いと、嵐の音がする。水が、降ってくる……

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

広幸
「ン……ンンー……」
 その広幸は、何故だか行ったこともないテリメインの海で拾われ、病院のベッドに寝かされていたが、たった今目を開けた。
 それに気付いた若い看護師が声をかけてくる。軽く返事をして、意識が鮮明になっていることを示してあげると、慌ただしく出ていった。
 すぐに、自分の担当のお医者さんでも連れて、戻ってくるのだろう……果たして、その通りではあったのだが、やってきた看護師は医者以外に、広幸の知り合いを二人も連れてきていたのだった。
シールゥ
「広幸っ! 助かったんだねっ!」
クリエ
「ン……よかっ、た」
広幸
「んぇ……シールゥ、クリエさん? ここ、オルタナリア、なの?」
シールゥ
「違うよ、テリメイン! もしかして、広幸も、何がなんだかわかんないうちに来ちゃった、て感じ……?」
広幸
「あ、うん、そう……多分、ね……で、テリメイン、て?」
 連れてこられた初老の医師が、そこで口をはさんだ。
医師
「お姉さん達、説明がしたいんでしょうが、悪いけど後にしてもらいますわ。とりあえず診てあげなきゃならなンでね」
クリエ
「……はい」
 クリエとシールゥは素直に引き下がり、病室の外へ出た。
 もちろん、広幸に聞きたいことはいくつもある……そのためには、他に必要なことはさっさと済ませてもらったほうがいいのだ。



フィオ「地球から直接テリメインにきちゃったみたいだね」

フィーナ「オルタナリアに対しては複雑な感情があるのかな? そんな感じを受けたけど」

フィオ「すくなくとも命に別状は無いかな? その点は凄くよかったこと!」

フィーナ「まだわからないこともあるけれど、とりあえず一つ落ち着いてからだよね」


フィオ「一方のオルタナリアでは直樹さんが二人を探そうとして、文字通り跳びまわっているところ
異能力をつかってピョンピョンしてるから、見かけた人もびっくりだ」


フィーナ「もちろん探すだけじゃなくて、被害が出る前に渦を発見して潰していこうとしてる。前向きなモチベーションはいいね」

フィオ「やっぱり三人は別々に呼ばれたんだね、普段からずっと一緒にいるわけじゃないだろうし、別々にもなるか」


 クリエとシールゥには日を改めてもらう、と、診察の後で医師は広幸に言った。
 彼としてはすぐにでも話がしたかったのだが―――なにしろ、何がどうなってこんな見知らぬ世界に来てしまったのかまだわからないのだし―――、頭がいまいち回らなくなってきているのもわかる。体力がまだ戻らないのだ。
 栄養を与えられた彼は、すぐに目をつむり、睡魔が連れていってくれるのを待つ。
 あの通学路での一件から、ずっと夢の中にいるような気もする……もしも夢の中で夢を見るとしたら、それは一体どんなものになるのだろうか? ヴァスアをやっていた頃は、現実で眠って見る夢がオルタナリアの冒険に置き換えられ、逆に向こうで寝たら現実に戻ってくるということになっていたのだが―――

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

 ふと気がつけば、広幸はテリメインのベッドを離れ、巨大な女の手のひらの上で胎児のように丸まっていた。
 女の顔を見上げてみると、どうしようもなく懐かしさがこみ上げてくる。それは、女が広幸の母親によく似た顔をしていたから、というだけのことではない。
 大きな女は広幸を乗せたまま、空を自由に飛んでいた。初めは雲の上から、地表の景色が見える高さにまで降りていく。
 そうして見えたのは、天を衝く塔、巨大な城、豊かな大地、混ざり合って共に暮らすいくつもの生命……
 こんな夢を、広幸はずっと前にも見たことがあった。

 オルタナリアに来る前の広幸は、大人たちに翻弄された子供であった。
 七歳の頃、父の浮気で家庭に亀裂が入った。彼は謝るでもなく、母を詰った。間もなく両親は離婚し、広幸とその母は親族のもとを頼ることとなった。入ってまだ間もない小学校からも、去らなくてはならなかった。
 実家の中での母の立場も、元々良くはなかったらしい……彼女が自活を再開すべく職を探し続ける中、広幸はいつでもどこか息のつまる生活を続けていた。
 幼くして理不尽を知った広幸が、それでもなにかを信じずにいられなかったのは、物語があったからだった……それは、童話の世界であったり、ヒーローの戦いであったり、自分とそんなに変わらない子供が活躍する話であったりした。正義や愛、夢を願い続けていれば、いつかはそれが手に入るのだと、思っていた。
 やっと古いアパートに移り住んでしばらく経ち、母が再婚の話をしているのをこっそりと聞いた夜、眠りについた広幸は前触れを見たのだった。

 巨大な女は広幸と共に、形あるもの全てをすり抜けて飛行した。
 ふたりは、氷の山の狭間で翼を休める白い竜の姿を見た。砂漠の中に建つ巨大な墳墓を見た。火の精霊が住まうという火山を見た。そして、南の海の真ん中に浮かぶ、小さくも美しい島も……
 ここは、夢の国だ。彼女はそこを見守る女神なのだ。
 彼女は一言も喋ることはなかったが、疑問を抱くこともなく、広幸はすべてを理解した。
 初めてこの夢を見た後、目覚めた広幸はすぐに思い出せる限りのことを自由帳に書き留めたものだった。
 世界の名前はわからないが、適当に思いついた『オルタナリア』という名で呼ぶことにした。
 あの女と見た全てを書き終えてしまっても、今度は広幸自身が想像をして、自由帳の中に『オルタナリア』を広げていく。そんな行為が、現実のつらさを忘れさせてくれた。またあの女が夢に出てきて『オルタナリア』に連れていってくれたら……いや、いっそ自分の足で旅することができたなら、どんなにいいかと広幸は思った。

 その願いは、しばらく後に叶うこととなった。新たにできた友人、孝明や直樹と共にオルタナリアに呼びだされ、救世主ヴァスアとなるための冒険が始まった。
 けれど旅の過程で、オルタナリアは都合のいい場所ではないのだとも、彼は知る。
 多くの種族が共に生きる世界では、ときに差別も陰湿なものがあった。広幸が申し訳なさを感じるほどに、苦しい暮らしを強いられている子供たちもいた。心の弱さに屈して誤ちを犯してしまう者も、己が不幸を嘆いて死のうとすらする者も、オルタナリアにはいた。そして、そうした人々を取り込み、利用しようとする悪逆の徒も。
 不思議の国とて、一つの世界として存在するからには、不条理や理不尽と無縁でいられるわけがないのである。
 こんな世界など、壊してしまおう。そして地球すらも焼きつくしてしまおう……そういう悪い囁きを受けたこともあった。ヴァスアの力があれば、可能なことであるかもしれなかった。
 広幸が、そういう誘いに乗らず、勇気と強さをオルタナリアから持ち帰ってこれたのは、結局巡り合わせの問題でしかなかったのかもしれない。
 幸福と不幸が分かたれぬものなら、いっそ両方とも隠滅し、ゼロにしてしまうことこそが、真に救われる道である……そんな思考だって、彼には生じ得たのだから。

 女神の手の中から見るオルタナリアの光景は、今では少し違って見える。
 これが単なる夢ではないことはもうわかっている。だからこそ、尊かった。
 願わくば、いつまでも、この世界が続いてゆけますように……



フィーナ「広幸さんの夢と……なんかいろいろ厄介な事情だね」

フィオ「オルタナリアを大事に思っているのなら今回の件は見逃せるはずも無い……けど、今はどうしようもない、休むしかないよね」

フィーナ「オルタナリアは想像の産物? と思えるような点もあったけれど、たぶん実際に存在した世界から何らかの影響を受けていたんだろうね」

フィオ「不思議の扉がひらいていたのかもね
まぁ綺麗どころだけじゃない……っていうのがちゃんとある世界だって証左でもある」



フィーナ「一方の直樹さんは、またまた渦と対峙してそれを退治」

フィオ「ダジャレかな?」

フィーナ「……すいません」

フィオ「しかし一撃でぶっつぶすのは本当に頼りになるねぇ、能力と相性がいいのかもしれないけど」

フィーナ「そして後片付けをする中でちょっとした発見が」



船乗り
「おおい、何か浮いてるぞ! この町のモンじゃない……」
直樹
「ン……?」
 手を止めて、見に行く。
 船乗りたちが、人が入れそうなほど大きな、灰色の球を網で引っ張り上げようとしていた。
 長く海中にあったものなのか、固着動物の類がたっぷりとくっついている。その間に、M.Mというイニシャルに相当する文字が刻まれているのが見えた。
 上に揚げると、穴がひとつ開いているのもわかった……何かから引きちぎられたようでもある。
直樹
「マシン、なのか……? ドクター・アッチのじゃねえよな、だとすると……」


フィオ「そんなイニシャルの人どこかできいたねぇ……」

フィーナ「着々と証拠が集められていく」

フィオ「でも長い間……? ってことは今回の件とは関係ない?」

フィーナ「それか、想像するよりも長い時間をかけた計画だったのかもしれないね」


フィオ「またまたテリメイン。目覚めた広幸さんのところにきた、シールゥさんとクリエさんそして……」

フィーナ「かつての敵とお目付け役の人」

フィオ「よけいなくちをきいたらマッスルが火をふくぜ」


42回



フィオ「ドクターアッチからの協力要請に流石に怪訝な顔を向ける広幸さん。でも『オルタナリアの危機』という言葉には思いっきり食いついて」

フィーナ「現状の確認。渦でつながったテリメインとオルタナリアという状況自体が異質であって、それは首謀者の仕業であるのだとアッチは見ているみたい」

フィオ「その上で広幸さんならテリメインとオルタナリアを繋げて、助けに行くことも出来るのではないかと」

フィーナ「彼の力は正直なところよくわかっていないのだけれど、そういうことが出来るならやらないという選択肢はないよね」

フィオ「決行は数日後。そしてやってくる運命の日」


 この後の数日間でドクター・アッチは材料をかき集め、間に合わせの小型潜水カプセルを作り上げていた。
 探索協会はクリエに渦の調査を依頼し、アッチや広幸をそのための力として使うことも許可してくれたのである。探索者のサポートをしきれない事情がこういった形で助けになるのを、彼女は内心ありがたく思った。
 あのウニモドキが、オルタナリアのものであると示唆する物証は既にあるのだ……それならば、これ以上テリメインを巻き込みたくはなかった。

アッチ
「クリエ・リューア! しーっかりボクちゃんを守るッチ! なんせこいつ、半分ガラクタでできてッチからねえ! いくらボクちゃんでも限界ってモンが―――」
 海中を進行する、手足のついたカプセルの中で、アッチがわめきたてる。
 カプセルの前面はガラス張りであり、懐中電灯に防水の加工をしたものが両脇にあって、海底に光を投げかけていた。
シールゥ
「よしてよ。やたら叫ぶと、魔物を呼ぶよ」
 スキルストーンを持たないシールゥと、それから広幸もアッチの隣にいる。
 クリエだけが外にいて、《ウィンドガード》の石を使い、自分たちを包む防護膜を展開しながら泳いでいた。それは簡単に言ってしまえば巨大なあぶくであるが、魔物の攻撃にも一度は持ちこたえるほどの耐久性があった。
 今は、とりあえず直近の渦の目撃報告があった場所を目指している。
広幸
「センサーに引っかかったら、僕が出てゆけばいいんだね?」
 広幸は、水中で活動するための能力を与えてくれる最低限のスキルストーンを右手に掴んでいた。
アッチ
「ンム。で、渦に近づくッチ。もしあれが本当にオルタナリアに繋がってるンなら、チミの力が使えるはずだッチ」
シールゥ
「いいのかい、広幸? こんな危険な……」
広幸
「やるっきゃないでしょ?」
 オルタナリアの冒険を終えても、広幸たちに目覚めた異能力の正体ははっきりとはわからなかった。
 しかし、その力がオルタナリアという環境と関係しているのは確からしかった。地球でも、そして今のところはこのテリメインでも、広幸はただの子供になっているからだ。
クリエ
「……ウッ……!?」
 クリエは突然振り向くと、アッチのカプセルを叩き、そこから右に百十数度の方向を指さした。
アッチ
「ンッ、さては!」
 アッチは操縦桿を右に倒す。クリエの指さす方へカプセルごと回転し、光を向ける。
 透き通った、白い粒が、円錐の形に集って、踊っている。
シールゥ
「渦だ! 直行!」
アッチ
「耳元でわめくなッチ!」
 操縦桿を、前へ。エンジンが力を出し、カプセルのお尻についたスクリューが勢いを増す。グオオーン!
クリエ
「……気を、……つけて……何か……!」
 クリエはカプセルの右腕にしがみつき、身を任せるが、その手は外套の中に突っ込んでいた。
 渦が迫るにつれ、その下で何かが組みあがりつつあるのも見えたのだ。
アッチ
「ンナロー、工作してやがるッチねェ、生意気なーッ!」
広幸
「僕、降りる準備します!」



フィーナ「オルタナリアトンネル作成作戦」

フィオ「魔界トンネルみたいな」

フィーナ「流れとしては渦の発生を確認して、オルタナリアに一時的につながったのを利用し、広幸さんの力で道を開く……みたいな感じかな」

フィオ「間に合わせにしては中々上手くやってる……けれど、渦のバケモノが居る以上は簡単には行きそうにないね」

フィーナ「ところで、広幸さんに対してのシールゥさんに乙女味を感じる」

フィオ「わかる。けど言ってる場合かー! 戦闘戦闘!」


 加速度に揺れるカプセルの中、広幸は狭いエアロックへの扉に手をかける。
 外では、渦の根元から、いびつな黒い柱が立ち上りつつあった。
 柱は突然、そこかしこから棘を生やしたかと思うと、ドッ! 一斉に、クリエたちへ向かって撃ちだした。
アッチ
「ウヌーッ!!」
 カプセルは、脇のスクリューを回してその場から飛びのく。
 棘がガラスを叩き割りでもすれば、中の三人を守るのは、最小限の機能しかもたないスキルストーンのみとなる。
クリエ
「ッ……!」
 クリエはスキルストーンを取り出し、強く念じて行使した。
 ゴーッ! 海底が、鳴動した。振動の力、《アースクエイク》の石の業である。
シールゥ
「いいぞ! あんなのは揺らして倒しちゃえ!」
クリエ
「……それ、は、駄目……はや、く……!」
 柱の方も、揺れに合わせて体をくねらせ、抵抗している。
 《アースクエイク》は強い力を持つが、それだけ術者の消耗も激しい。この揺れは、十数秒ともたない。その間に、次の一手が必要となる。
アッチ
「オッシャーァ! ドッセーイッ!!」
 アッチは操縦桿を力いっぱい押し、ガラスに泡状の唾液をぶちまけた。
 カプセルは、全速力で突き進む。シールゥは後ろにすっ飛ばされて押しつけられた。広幸は、既に操縦室にはいなかった。
クリエ
「くはっ……!」
 全身から力が抜け、クリエは《アースクエイク》の石を取り落とす。揺れが、静まる……
アッチ
「ナセバァ! ナンジャア!! ドゴラ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ッ」
 直後、ガァーン! 加速し切ったカプセルの右腕が、傾きかけたガラクタの柱に突き刺さる。
 だが、それっきりであった。寸前に発射された何本もの棘が、カプセルを、貫いていた。
 ガラスは割れ、パーツは引きちぎられ、ドクター・アッチの数日間の成果のすべては、海中に散失する。
 煙のようなあぶくの中で、まだ動くものがあった。
広幸
「ダァアーッ!!」
 萩原広幸は、魚のように、海中を進んだ。
 力が、みなぎってくる。かつて振るった力が、自分を呼んでいる。
 倒壊する柱は、最後の力で広幸に棘を発射するが、その全てが直後にひしゃげ、吹き飛んだ。
広幸
「応えろ……」
 柱の根元が、迫ってくる。いくつもの棘を持った球体がそこにある。
 広幸は、手を、のばした。
広幸
「応えろッ! オルタナリア―――!!」
 閃光が膨れ上がり、その場の全てを呑み込んだ。




フィーナ「戦闘とはいってもどちらかといえば逃亡戦。被害を出さずに切り抜けられるかどうかだけども……!」

フィオ「ガラクタで上手くやってると思ったけど、もっと装甲どうにかならんかったのか!」

フィーナ「まぁあのウニのほうが上手って事かもね……そんなこというと怒られそうだけど」

フィオ「人を守るのと機械を守るのでは求められるレベルも違ってくるものね、相手は使い捨て上等みたいだし」

フィーナ「だけど人にはどうしてもやり遂げるんだという意思の力がある。それは時に想像を超える結果をもたらすことも……あるかもしれない」

フィオ「果たしてオルタナリアは応えてくれるのか」



直樹
「っと、これで片づけは全部かね?」
 同じ頃、オルタナリア中央大陸沿岸にある渦に襲われた港町で、直樹は復興の手伝いをしていた。
船乗り
「ああ、ご苦労さん。あまりお礼もできないのだが、食事でも出そう……」
直樹
「いや、もう行くよ。多分広幸と孝明も来てンでな、探さんと。ここにはいないんだろ?」
船乗り
「船を一人で使おうってのか? 無茶だぜ」
直樹
「渦が来ても、他の人を守れる保証がないんでね。なら、無茶でもやるさ。それから、前に見つかったあの金属球は―――」
 そうして、街を去ろうとしている直樹の近くで、海から顔を出すものがあった。
サニア
「すいません! ヴァスア・瀬田直樹は……!」
 人魚の女―――サニア・サミアであった。フォーシアズの海洋警備隊のリーダーをやっていた水棲人、ゼバ・エブカの片腕であり、彼女の部下としてイルカの獣人や、魚の頭を持つ魚人、手なずけられた海竜たちも周りから顔を出している。
直樹
「おおっと、俺だが、なんか用かい?」
サニア
「よかった……! 直樹様。実は我々と、フォーシアズに行って頂きたいのです。渦の件はもうご存知ですね?」
直樹
「おう、まあ……」
サニア
「あの渦は、もはやオルタナリア全体にとっての脅威です。フォーシアズのアカデミーが率先して研究を進めていたのですが、この度、対策会議が開かれることとなったのです」
直樹
「それに、俺を?」
サニア
「はい。既にヴァスアの一人……孝明様が、向かっておられるようです」
 その名が出てきて、直樹の顔は明るくなった
直樹
「孝明が! そいつぁ、行かないわけにゃ!」
サニア
「ありがとうございます。フォーシアズまでは、我々がお送りしますわ」
直樹
「っと、待ってくれ。一つ頼まれてくれねーか?」
サニア
「何でしょう……?」
 直樹は、以前引き上げられて以来、未だに港の近くに放置されたままの『M.M』の球の所までサニアたちを案内し、よく見てもらった。
直樹
「渦が来た後に、浮かび上がってきたんだ。何かの一部だったらしくて、どうも気になるンだ」
サニア
「金属、ですわね。それもポシーダで建物を作るときに、使うようなものでないわ」
 サニアは球の表面をしなやかな手で軽く撫でて、そう言った……ポシーダとは、水棲人をはじめとする海に生きる種族が、海中に作った国のことである。
直樹
「人か時間に余裕があればでいい。この辺りの海を、調べちゃもらえないか?」
サニア
「わかりました。一日くらいは余裕がありますから、渦の発生源を中心に調べてみましょう」
直樹
「悪いね……ありがとな」



フィーナ「一方の直樹さん。復興の手伝いを終え、一人で海に出ようとするところへ訪問者が」

フィオ「誰かと思えば、あそこで分かれたサニアさん」

フィーナ「どうやら世界で一つの方向へ向くための会議があるみたいだね、二人を探している直樹さんからしても渡りに船だ」

フィオ「そして直樹さんからの依頼。貴重な一日を使うだけの物が見つかるといいんだけど」


 光の流れの中を、広幸はどれくらいの間、泳ぎ続けただろうか。
 シールゥは、クリエは……それとアッチも、どうなってしまったのか、まだわからない。あの一瞬を耐え抜いたのなら、スキルストーンの力で生き延びられるだろうが、あえなく串刺しにされてしまっていても、不思議ではない。
 わからないといえば、いま自分が流れているのが、本当にオルタナリアに続く道なのかさえも、不確かだった。例えばあの時出た力が、単に自分の中のオルタナリアの残滓が為した、一瞬の奇跡に過ぎないのだとしたら……
 ふと、真っ白な視界の中で、何かが動いた。あぶくだ。
 どんどん増えて、大きくなって、広幸の目と耳を覆いつくし、そして……

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

海豚人A
「どうだ、何か見つかったか?」
魚人A
「こちらは、今のところは……」
 中央大陸近海に残ったサニアの部下たちは、海底を探し回っていたが、なにぶん広すぎる。わずかな時間と人数で、どうにかなるものではない。
魚人A
「サニア副隊長も、ヴァスアの勘を信じすぎたんじゃないのか?」
海豚人A
「いくら英雄だって言ってもなあ…… ……ウン?」
魚人A
「どうし…… ン……これ、は……」
 海が、静かに震え出していた。くすぐったさは不気味なものとなって、二人に緊張感をもたらす。
海豚人A
「おい、まさか渦じゃないのか!」
魚人A
「わからん……! おい、あっち……!」
 魚人が指さした先で、海水の色が変わり出していた。赤く、青く、黄色く、虹色に……

 海中に現れた光は膨れ上がり、その中に、シルエットを映す。
 それは、人の形、である。泳いでくる……
サニア
「何を見つけたのです!?」
 サニア・サミアも光を見てか、この場に現れる。
 その間にもシルエットは接近する。光の中から、だんだんと、大きくなる……
魚人A
「渦じゃない、渦じゃないけど……異常です、副隊長!」
サニア
「それはわかるが! ……あれは!?」
 影は二つ、三つと続く。
 最初の一つが光から遠ざかり、その姿が明瞭になった時、サニアは息をのんだ。
広幸
「―――みんな!」
 ヴァスア、萩原広幸が、そこにいたのだ。
 彼は後ろを向き、ついてきたものを確かめている様子だった。外套に身を包んだ眼鏡の女、それにひっついている小妖精、そして―――フォーシアズでは犯罪者扱いの―――ドクター・アッチ。
シールゥ
「広幸! 無事だよ! 何とかね!」
クリエ
「私……も、生き、てる……!」
アッチ
「ヒッデー目にあったッチ! ッタクンチキショィ!」
 息も会話もできるらしいのをサニアは不思議に思ったが、光の膜のようなものがうっすらと四人を包んでいて、それが魔力とは異質なものであるらしいのを察し、疑問を引っ込めた。
 それよりも、重要なことが今はある。
サニア
「萩原、広幸……ですね!?」
広幸
「えっ! 僕のこと、知ってるの!? じゃあ、ここはオルタナリアか!」
サニア
「はいっ……よくぞ、お戻りくださいました……ヴァスア、広幸!」
 安堵と勇気が、サニアの心に漲っていた。
 三人のヴァスア、オルタナリアの救い主たちが、再び危機を迎えたこの世界に揃ってくれた。それだけで、この一日は無駄ではなかったはずだ。
アッチ
「チミら何やってンだッチ、先に陸にネエ……ン?」
 アッチは、サニアに共感の一つもしてやらず、しかし再び暗くなりつつある海底に何かを見つけた。
 それは、人間の五倍ほどの長さがある、巨大な筒らしき物体だった。
 興味を抱いたアッチはそこまで泳ぎ、表面を確認する。固着動物がいびつな模様を作っていたが、かろうじて何もついていない部分がある。
 金属のプレートが、そこにあった。刻まれていたのは、イニシャル、『M.M』……
アッチ
「ン、んがっ……これは!? あ……アンニャロメェ……!」
 いつもならふざけた顔をしていることが多いアッチの眉間に、しわが寄る。
広幸
「おおい、アッチ! 何やってンだ、陸に……」
 広幸が、アッチに声をかけに来た。だが、
アッチ
「それどこじゃあないッ!」
 後ろから見ていたシールゥとクリエには、アッチの剣幕が広幸を物理的に吹っ飛ばしたように見えた。
アッチ
「今すぐ、この海域を調査するッチ!」
広幸
「え、でも、さっきの人魚のヒトが、フォーシアズに来て欲しいって……」
アッチ
「ンなの後後ッ! ダメならボクだけでもここに残るッチ!」
広幸
「あ、え、うん……わかった。ちょっと、相談してくる……」
 広幸が去っていくのを待たず、ドクター・アッチはプレートに視線を戻す。
アッチ
「ミクシン・ミック……まさかとは、思っとったが……ッ!」


フィーナ「場面はまた変わって、どこかもわからないところを泳ぎ続けていた広幸さん。心に嫌な考えが浮かんできたところだったけど」

フィオ「やったぜ。ところで広幸さんも真っ先に心配したのはシールゥさんだったね」

フィーナ「よき」

フィオ「全員無事に到着。スキルストーンに感謝せねば」

フィーナ「>ふざけた顔<
そんで真実に近づく発見。読者のほうには示されてはいたけれど」


フィオ「これで相手のことももっとよくわかるだろうし対策も立てられるのかな」

フィーナ「確信に至ったのは大きいだろうね、どんなことを得意としているのかとかもわかってくるだろうし」

フィオ「このあとは会議と研究に分かれるのかな?」

posted by エルグ at 18:29| Comment(0) | 日記

2019年03月13日

ネリーさん18〜36



18回



フィーナ「それじゃあはじめていくんだけど、その前にここまでわかっていることで、これからも重要な要素になりそうなことをまとめておくね
記事としても独立してるし」


フィオ「メタい。まぁ、ちゃっちゃかいきましょう」

フィーナ「まずは『魔物の血』からかな。
これは魔物と一戦を交えたときに、ネリーさんが負傷して、血を見たときに暴走しちゃったこと、その流れで一般人にも襲い掛かりそうになっちゃったこと。
そういう風に興奮するのは魔物の表れって事で……これ自体はテリメインでの一件だったんだけど、過去にも同じような経験があって、その原因はわかっているんだよね」


フィオ「父方の祖父の代にあった不幸な事件が原因だったよね、おばあさんが……。
それで、お父さんが半分魔物の血が混じっていて、ネリーさんはクォーター」


フィーナ「とはいえ、お父さんはその血を克服したということで、ネリーさんにもできないことは無いはず」

フィオ「次は『渦』について」

フィーナ「テリメインで探索を続けているネリーさんだけど、海中に現れる謎の渦……これ自体はテリメインでも大きな問題になっていて、それがどうやらネリーさん達の世界である『オルタナリア』と関係している様子」

フィオ「二つの世界を繋げているような感じだよね、この渦を通じて魔物とか向こうの世界のものが出てきている」

フィーナ「一度、これを通ってオルタナリアに戻っちゃったからね、ただそこは自分の知っている場所のはずなのに、かなり荒廃していたから、まだ何かよくない秘密が隠れているのかも」

フィオ「とりあえずはこの二つかな。現在は同じようにオルタナリアから迷い込んだ友人のクリエさんと同棲中。探索の傍らに『渦』を調べているけれど……って感じで
それじゃあ本編スタート!」




フィーナ「今日はいつもの洞穴で朝を迎えた二人。元気を取り戻してきた様子のネリーさんをみて、クリエさんはかつてあった出来事を思い出しているみたい」


一度、クリエはネリーの父に会う機会があった。
彼がマールレーナの代表グループの一人として、クリエのいるセントラス・カピタル・アカデミーでの講演に招かれたことがあったのだ。


フィオ「出会いは偶然。ネリーさんの父親に道を尋ねられてその建物へと案内したクリエさん。その夜にお父さんと再会することになって。
どうやらお父さんはネリーさんからクリエさんの事を聞いていたみたい」


フィーナ「人づてに聞く無事の報せと幾つかの話のなかで、『ネリーさんの血』についてお話が出たんだね」


クリエ
「……なるほど。それが、あの子、の……」
ネリーの父
「ええ。
……それでも、帰ってきてくれた時には……かなり、自分を抑えて戦えるようになっていた。
それに……あの子は、魔物の力が、私の半分で済んでいるはずなんです。だから、私ほどの苦労をする必要はない。

……あの子にはきっと、明るい未来が待っている。そう、信じたい……」




フィオ「そのことを思い出している間にネリーさんは食事を片付けていたっ」

フィーナ「クリエさんが譲ったとはいえ、食べてから『それだけでいいの?』には流石の突っ込み」

フィオ「ネリーさんはもう大丈夫みたい。元気に探索に向かった……けども、クリエさんはまだ心配しているみたいだね」

ネリーを送り出し、自らも食事の後片付けと仕事に出かける準備をしながら、クリエは考える。

クリエ
「……。」

確かに、ネリーはしっかりしているとは思う。思うのだが、少々不安でもある。
彼女自身も同じだろう。抑え込んだと思った魔物の力が、誰も自分を知らない世界で出てしまったのだ。
きちんと事情の説明はしたとはいえ、人々のネリーを見る目は、これから変わってしまうかもしれない。

クリエ
「……あの子が…… 喜びそうな、こと……」
とりあえず飯を何十人前も用意してやれば、それだけで割と幸せになってしまいそうな気はする。
まあ、経済的に無理な話だが。

クリエ
「……ま、のんびり……やるしか……」

クリエは鞄を手に、街へと出ていった。


フィーナ「少なくとも探索者として扱ってもらえているうちは問題ないだろうけれど、問題を抱えた人物だと思われると中々に面倒だよね」

フィオ「探索協会から目をつけられるとすごく厄介そう」

フィーナ「食事代とは別の方向で……いや、実際食費ってばかにならないんだよね、うん」


フィオ「探索を終えたネリーさん。海中を泳いでいるのは、いくらかお土産を採っていこうという算段みたい」

フィーナ「ただ何事も無く終わるはずだったところに……」


ネリー
「……!?」

揺れている。

海の中なのだ、地震ではない。
震えているのは、水だった。あるいは空間そのものが揺さぶられている、とでも言うべきか。

ネリー
「……これ……!」

揺れははじめ、不規則であるように思えた。
だが、時間が経つにつれてどんどん強くなり、揺らされているというよりは、ある方向に力を掛けられ続けている、と感じられるものに変わってきた。

ネリーは身体に勢いをつけ、かけられている力の方向と直角に、その場から離れた。

ネリー
「……や、やっぱり……っ!」

それは、あたりにおびただしい量の泡を撒き散らしている。ネリーほど力の強くない魚達が、哀れにも巻き込まれ、容赦なくかき回されてもいる。

彼女は、この一帯を騒がしているあの原因不明の渦が、今まさに出現しようとしているのを目撃したのだった。

渦の中からなにかシルエットが見えてくる。ネリーはハンマーを構えた。

出てきたものは。

ネリー
「…… ……!?」



巨大な船の残骸だった。




フィオ「発生する瞬間を捉えた貴重な経験……だけれど、どっちかというとでてきたもののほうがインパクト強かったかも」

フィーナ「船とかでも飲み込まれちゃってこっちに運ばれちゃうのか……」

フィオ「この船……どうやらオルタナリアでは有名な一隻みたいだね」

ある地球人によってオルタナリアにもたらされた機械技術は、多くの変化を引き起こした。
海運の世界も、例外ではなかった。

従来の船は、帆を張って進むものだった。上手いこと風が吹いてくれるか、魔法使いを何人もこき使って無理やり風を起こさなければ、役に立たない。
それが、機械の力によって、燃料を使って海を走る船を作ることができるようになったのだ。

それから時は流れ、機械船の一つの到達点『ブルー・アイス号』が完成した。
新開発の動力機関『スペリオール・フレア・エンジン』を搭載したこの船は、それまでのどんな船よりも速く、力強く、巨大であった。人々は、その威容にただただ驚愕した。

千人以上の乗客を乗せることができるといわれたブルー・アイス号だったが、それでも処女航海に参加するには極めて高い倍率の抽選をくぐり抜けなくてはならなかった。
当選した人々は、皆飛び上がって喜んだという。

だが彼らは、この船の動力に欠陥があったことなど、知る由もなかった。

ブルー・アイス号の動力機関は、よりによって海のど真ん中で火を噴き、爆発した。

幸いにして、近くに水棲人の街があった。彼らが乗客の救助を行い、被害は大幅に抑えられた。
そしてその後のサルベージ作業を行ったのも、水棲人たちだった。



やがて、ブルー・アイス号も過去のものとなった。
多くの人々が心の中に共有する、物語の一つに変わっていったのだ。

一般市民にとっては、機械技術に不安の影を落とすものとして。
技術者たちにとっては、忘れてはならない教訓として。
陰謀論者にとっては、活動のネタとして。

そして、水棲人たちにとっては、広大なオルタナリアの海の中の遺跡の一つとして。


フィーナ「海に沈んでいるはずの残骸がねぇ。ってことはオルタナリアの随分深いところでも渦は発生しているってことなんだろうね」

フィオ「事件はネリーさんが生まれるずっと前で、ただ残骸は見たことがあるって事だったから、とてつもなく深海にあるってことではないんだろうけれどね」

フィーナ「内部へと侵入していって探索をするネリーさん。装飾として作られたであろうステンドグラスにはオルタナリアの歴史をかたどったものもあって。水棲人と陸の人々のかかわりが描かれてる」

フィオ「水棲人が陸の人々を導いて、現状を作ってきたとされているけれど、ネリーさんは導きがなくても、好奇心が人々を突き動かして、未知を開いていったんじゃないかと考えてる。私もそれに賛成かな」

フィーナ「……まぁ何も求めないなんて、知的生物には難しいよね」

フィオ「探索途中に予感を感じて脱出すると、再びの渦が船を飲み込んでいった。
一時的にこちらに出現させている……のかな? でもそれをする意味がわからないな」


フィーナ「手違いなのかもしれないけれどね、本来はこっちに移すだけにしたいとか」

フィオ「その目的は?」

フィーナ「……海の掃除? もしくは、異世界への移動?」

フィオ「後者のほうがロマンはあるかな」


フィーナ「洞穴に戻ったネリーさんを迎えるクリエさん。お、食卓が豪勢だね」

フィオ「まさか必死の金策を……!?」


ネリー
「うゃ! なんだか、きょうの晩ごはん、ゴーカかもっ」
クリエ
「……仕事、終わった後……釣り、してきた。
もっと……釣れれば、よかった……けど……」
ネリー
「んーんっ。じゅーぶんだよっ。ありがとー!」

クリエだったら食べきれないほどの量だったけれど、ネリーはあっという間に平らげる。



フィーナ「ほっとんど海だからね、釣れば釣るだけ食事のランクが上がる」

フィオ「食事はよくかんで、かみかみ」


19回



フィーナ「クリエさんを襲うメガネの故障」

フィオ「大変だ、本体が!」

フィーナ「本体じゃないから」

フィオ「でもクリエさんレベルに視力が弱いと、本体ではないにしろ深刻じゃん」

フィーナ「それは確かに。ということで今日は修理に出るクリエさん、食費と修理代ではそら……食費のほうが……ねぇ」


クリエ
「…… ……。」
クリエはネリーを探索に送り出した後、メガネ屋を探して街を歩いていた。

多分どこかにあるんだろう、と歩き続ける。

いい匂いが漂ってきて、そちらを向けば、パンを焼く店があった。
新しくできた店らしく、元気そうな若い男がチラシらしいものを配っていた。うっかりと、一枚受け取った。

また横を見れば、今度は店頭にせいろを並べ、何かを蒸して売っているところがあった。
あれは多分、饅頭だろう。オルタナリアでも、東方大陸の北を治めるエイレンの国で作られていたし、一度食べてみたこともある。

そして今度はどこかでピザでも焼いているのか、焼けたチーズの香りが……

クリエ
「……。」
と、さっきから飯のことばっかり。ネリーじゃあるまいし。
実際、連れてきていたら、はたして今頃どうなっていたやら。

どうも、飯屋が並ぶ通りに出ていたらしい。適当なところで角を曲がり、また歩く。


フィオ「飯の誘惑」

フィーナ「私の弟子もここには連れてこられないな、抜け出すのにかなりの時間を要しそう」

フィオ「食欲は生きる上で必須のものだからしかたないね。とはいえ自制しなきゃならないのも確か」

フィーナ「クリエさんはまぁ大丈夫だろうけども」

フィオ「続いて本屋が見えてきて……本屋!?」

フィーナ「はいツギイクヨー」

フィオ「ぶーぶー。そういえばオルタナリアの人でも文字には困っていないらしいね。スキルストーンのおかげだと思われる」

フィーナ「歩いていく中で、街の知らない表情が見えてくる。
探索と共に開発が進む街は、目を放した隙にどんどんと変わっていってる」


フィオ「そうやって見物しながら回っているといつの間にか時間が過ぎてしまっていたね。早くメガネ直さないと……」

ネリー
「おぉー……なんだか、きらきらしてるよっ!」
探索から帰ってきたネリーは、クリエの眼鏡をじーっと見つめて、そう言った。

クリエ
「……そう」
単に整備してもらっただけなんだから、別にさほど変わってもいない。
でもまあ、そう思ってくれているならば、そういうことにしておこう。

それより気になるのは、ネリーが先ほどから抱えている一尾の魚だった。
その体長は、彼女の背丈と同じくらいもある。


フィーナ「ご帰還には間に合ったみたい、これは所謂『髪切った?現象』では」

フィオ「魚デケェ!」

フィーナ「バラバラにしても二人分を大きく超過しそうだから、お金に換えようと考えたクリエさん、をさっさと振り切って洞穴に帰っていくネリーさん。
あぁ、今夜は魚三昧だ……」



数時間後。

セルリアンの街近くの入り江のほら穴には、骨と頭だけになった先ほどの魚と、ネリー・イクタが転がっていた。

ネリー
「げぇえええええっふ……うー…… ぅー……。」
両腕で抱えるサイズにまで膨れたお腹を愛おしげに撫でているネリー。当然、腰蓑は外して床に置いてある。

幸せそうでこそあれ、全く苦しそうな様子はなかった。

クリエ
「…… ……満足、した?」
ネリー
「まんぞくー…… げえっふう。ぅー。まんぞく……」
クリエ
「……今日は、そのまま、お休み。
私は、もう少し、すること、あるから……」

ランプを手にして立ちあがろうとするクリエ。
すると、彼女の外套から昼間のパン屋のチラシがさらりと落ちた。

それがネリーの目にも入って。

ネリー
「……う、うゃっ! なにこれ! すっごいおいしそーだよっ!
クリエさんっ! こんど、ここ行ってみよーよっ!」

クリエ
「…… …… ……。」

街に連れてくことにならなくて正解だった、とクリエは思った。

とはいえ、自分がここに来るまではきっと、ちゃんと自制心を働かせていたのだろう。

クリエ
「……どっかで、買ってきて、あげるから。
今日は、お休み」
ネリー
「うゃ……おやすみぃ……。」

クリエは改めて、ランプを手に洞穴の奥へ移動し、ちょっとしたデスクワークを始めるのだった。



夜は更けていく。


フィオ「保存食にするぶんすらのこりゃしねぇ」

フィーナ「宵越しの飯は持たない主義」

フィオ「お腹いっぱいでもおいしそうなものに反応するすさまじさ。
お腹いっぱいだと、興味とか薄れそうなものだけど、全然そういうこともないんだねぇ」


フィーナ「たっぷり海鮮丼をたべてたりはしたけど、暴走気味ってことはなかったものね、ネリーさんも際限なく求め続けるわけじゃないんでしょう」

フィオ「『出た分』に関しては全部いただくがな!」


20回



フィーナ「今日はネリーさんの狩り回」


ネリー
「クリエさーんっ」
クリエ
「……なに」
浜辺に大きな葉っぱを敷いて休んでいたクリエ・リューアに、海に浸かったままのネリー・イクタが声をかける。

ネリー
「こんなんとれたっ!」
と、見せてきたのはクラゲが一匹。

クリエ
「……戻しといで」
ネリー
「うゃー……おいしいよ? クラゲさんも……」
クリエ
「毒、あるんじゃ、ないの」
ネリー
「なければ食べれるんだよっ!
クリエさんがいらないなら、食べちゃうよっ!」
と、口に放り込み、そのまま海のなかに戻っていくネリー。


フィオ「毒が無ければ食べられる。一応そのあたりは選択して採ってるんだね」

フィーナ「流石にそこはきちんとするでしょう、そのまま食べるとは思わなかったけど……」


ネリー
「クリエさーんっ! また獲ってきたっ!」
今度は、網に入ったウニを見せてくるネリー。

クリエ
「……ウニだ。OK。売って、お金に……」
ネリー
「うゃ、たべないの?」
クリエ
「……君、質より、量、でしょ……。」
ネリー
「むむう。クリエさん。
わたしが、おいしくなくても、いっぱい食べれればいいだけー、って、思ってるでしょ……っ!」
クリエ
「……ごめん」
ネリー
「……うゃ。まあいーや。もっとおっきいの捕まえてくるねっ」

ネリーは網をその場に残し、再び海の中へ潜っていった。


フィオ「割と高く売れそうなやつだ」

フィーナ「……ごめん」

フィオ「美味しくなくてもよいとは思わないだろうけれど、量が重要なのは事実だとおもうから、なんともいえない」

だいぶ経つが、ネリーは戻ってこない。どこまで行ったのだろうか。
そう思いながらぼうっと海を見つめていると、不意に水平線が騒がしくなる。

クリエ
「…… ……」
双眼鏡を取り出し、見つめてみるクリエ。

ネリー
「うがぁああ! ぐらぁああーーーッ!!」
遠くの方で、ネリーが鮫と格闘しているのが見えた。

クリエ
「……。」
とても熾烈な戦いだが、勝ちそうなので、心配はしない。

心の中で、いつか見かけたネリーの父親のことを思う。

あなたの娘さんは、立派な狩人になりました。
きっとこれからも強くあり続けるでしょう。

そんなことを思っていると、ネリーがぶちのめした鮫を抱えて戻ってくるのが見えた。

アレは売らずに、喰わせてやることにしよう。


フィーナ「昨日の魚なんか比較にもならない奴キター!!」

フィオ「しみじみと感じ入るところなのだろうかこれは」

フィーナ「鮫はわりと臭みがあるらしいけれど、そのあたりも何とかするのかなたぶん」

フィオ「強者を食してこそ、強くなるのだ……」

21回



フィーナ「眠っているネリーさんを目の前にして、クリエさんは『触りたい』という欲求を抑えきれずに……」

フィオ「キマ、キマ……」

フィーナ「お腹だけどね」

クリエ・リューアの目の前で、ネリー・イクタが素っ裸で寝転がっている。

リズムを保って、膨れたり凹んだりする、ネリーの腹。

クリエ
「…… ……」
触りたい。
ぐっすり眠っている。ちょっといたずらしたくらいで、起きはすまい。

そっと右の人さし指を伸ばし、触れる。ぷに、と食い込んだ。

……なるほど

今度はつまんでみる。
柔らかいのだが、弾力がある感じだ。あまり強く掴むわけにはいかないが。

ネリー
「……ンゥゥ……ぐぅ……。」
クリエ
「…… ……」

ネリーが目覚めないことを確認しつつ、ゆっくりと引っ張る。

伸びる。
引っ張ったら引っ張っただけ、伸びるのだ。

クリエ
「……なるほど」


フィオ「……なるほど」

フィーナ「すっごいのびるよ! でもって伸ばしながら、いくらでも食べられそうだとか、クリエさんを丸呑みに出来るんじゃないかとか、色々考えていたら……」

フィオ「ちょ、ちょっと伸ばしすぎ!」


ネリー
「……ンーゥ……?」
クリエ
「……!」

ネリーのお腹の皮は、弾力によって急激に戻り。

―――びたんっ。

ネリー
「う、うゃあああ! いたいよっ!!」
クリエ
「…… ……。」




ネリー
「もうっ。クリエさんっ。
わたしのお腹が気になったからって、ひどいよっ!」
クリエ
「……ごめん」
ネリー
「んぅ……ゆるす。

……でも、そんなに気になるんなら、ちょっとみせたいのがあるよっ」


フィーナ「勢いよく戻すとやっぱり痛いのか」

フィオ「ゴムを咥えて伸ばしてバチンって奴ぐらいかな」

フィーナ「不思議な身体してるよね」

フィオ「それで? みせたいものって?」

フィーナ「すうすう空気を吸い込んでお腹を大きくするネリーさん。あ、風船だコレ」


ネリー
「…… ……」
触ってみて、と言わんばかりに、お腹をぼふ、と右手で叩くネリー。

クリエ
「……ン」
応じるクリエ。

同じく、右手で触ってみる。
空気がたっぷり入っている感触こそあるものの、指はやはり食い込むし、皮もつまめる。
まだ何か詰めようと思えば詰められるのだろう―――

ネリー
「ぷはーーーーっ!!」
その時、唐突に空気を吐き出し始めるネリー。
クリエはそれをモロに浴びる。髪があおられ、メガネがずれ、帽子は吹っ飛んだ。

ネリー
「……うゃあ! きまったぞーっ」
クリエ
「…… ……」



ある昼下がりのことであった。


フィオ「実質お返しなのであった」

フィーナ「お魚食べたときは限界にも見えたけれど、そこからまだまだ先があるのかも?」


22回



フィオ「いつも通りにネリーさんを迎えるクリエさん。今日は……」


クリエ
「おかえり、ネリー。
今日……ちょっと、用意、したの、ある」
ネリー
「うゃっ? なあに、クリエさん?」
クリエ
「……コレ……開けて、み……」

そう言って、紙袋をネリーに差し出すクリエ。

ネリー
「お……? なんだあ?」

紙袋を開けると、そこには。

ネリー
「……!
うゃあ! おぼうしだーっ!」


フィーナ「クリエさんから麦藁帽子のプレゼント。
あんな事件があったけれど、もうちゃんと立ち直ってるね、やっぱり友情パワーか」



23回



フィオ「今日は探索がお休み、だから二人一緒のはずなんだけど、クリエさんは出かけていて、ネリーさんは……」

フィーナ「寝てる」

フィオ「寝てるね」


クリエ
「…… ……。」

そこに帰ってくるクリエ。荷物をだいぶ抱えている。
買い物に行っていたらしい。

クリエ
「……全て世はこともなし、と」
ネリーの寝顔を遠目にのぞいてから、戦利品のつまった袋をそっと開ける。

中から取り出したのは、まず砥石。
包丁はオルタナリアから持ちこんで来れたが、切れ味が少し疑わしくなってきていたので、どうにかしたかった。

次はお皿。
ネリーは毎日大きな葉っぱをどっからか摘んできて、皿の代わりにしてくれるのだが、さすがにちゃんとしたのが欲しかった。

あとお玉、ヤカン、瓶、時計、ほか生活用品。

クリエ
「…… ……。」
どうしてもガチャガチャ音がする。クリエはふと、ネリーの方を向いた。

ネリー
「んぅ……くぅう……」
まだよく寝ている。


フィーナ「刃物はお手入れ大事。ちゃんと研ぐのにも技術がいるけれど、クリエさんはいろんなことが出来そうだよね」

フィオ「抗菌作用のある葉っぱもあるから、下処理して使えばそこまで気にはならないかな、まぁ使い慣れているほうが気も楽か」

フィーナ「バナナの葉っぱとかお皿代わりになるんだっけ」

フィオ「起さない様に配慮はしているみたいだけど、起きる気配なーし」

フィーナ「だけど食事の準備を始めると、なんとなく現実側によってきたようで」

フィオ「……わかりやすい」


ネリー
「ンン……ゅ……。」
クリエ
「…… ……」
いつ起きるか、クリエにはもう検討がついていた。

クリエは白身魚を捌き、身に下味をつけてから、愛用のフライパン―――これだけはよっぽどのことがない限り買い替えないつもりだ―――に油を引いて、焼き始めた。

今日は塩と胡椒だけでなく、チーズも乗せる。
ジュウ、という音と共に、濃厚な香りが発せられる。

ネリー
「…… ……!」
眠るネリーの耳ヒレが、ぴこんと動いた。

ネリー
「う、ゃ……!!」
起きた。

クリエ
「……もうすぐ、ごはん、できる、から」
ネリー
「うゃーーーっ!!」


平和な一日だった。


フィーナ「海は我らの味方にて」

フィオ「なべてこの世はこともなし」


24回



フィーナ「オルタナリアの奥地。ネリーさんはドラゴンの群れを目撃する。
特別に珍しいものではないけれど、それらは自分の世界にも居たものだから、かつての昔話が去来する」


オルタナリアの女神ミーミア。
彼女は世界の形を作り、命の種を撒いた。

命ははじめ、ひたすらに大きく強くなろうとした。
そうすることで、生きながらえることができると思っていたから。

その代表とでもいうべきものが、竜だった。
彼らは長い時の中で、山と見まごうばかりに大きくなり、強大な魔力を手に入れて、生物界の頂点に立った。

今となっては、彼らの心を知ることは叶わない。
それでもきっとこう思っていただろう―――自分たちこそが永遠だ。自分たちこそが、女神の恵みを最も多く受けたのだ、と。

そんな竜の先祖たちは、いまオルタナリアにはいない。
一匹残らず滅びてしまって、残っているのは骨だけだ。

彼らに何が起こったのかは、今ではわからない。
ただ一つ確かなのは、今日のドラゴン達はかつてほど強くも大きくもないということだった。


フィオ「大きく強く、ただそれだけを目指していった結果がこれか……」

フィーナ「不相応な力だとはいわないけれど、世界の中で自分を維持し続けるというのも、強大になればなるだけ難しくなっていくものなのかもしれないね」

フィオ「すくなくとも食事には困りそうだよね」

フィーナ「世界から魔力を吸い上げるとか、そういう芸当ができれば、その点はなんとかできそうだけれど、他者とのかかわりとかもあるからねぇ」

フィオ「まぁ長い時間が過ぎて、最適化されたってことなんだろうね」

フィーナ「大昔のオルタナリアを思うネリーさん、でもクリエさんに会えばすぐ今へと戻ってきて」


ネリー
「……お!」
そんなことをしている間に、町が見えてきた。
船着き場にはクリエもいる。タイミングを見計らっていたのだろう。

ネリー
「うゃー! たっだいまーーーっ!!」
クリエ
「……おかえり、ネリー」
ネリーは今日も元気に、クリエに挨拶をする。

ネリー
「あのねっ、あのねっ。
今日は、アトランドの奥っぽいとこまでいったんだよっ。
ドラゴンさんがいたんだよっ!」
クリエ
「……へえ。それは、それは……」
ネリー
「敵だったから、がんばって、たたかったよっ!」
クリエ
「ン、えらい、えらい。
お腹、すいてる……よね。帰ったら……すぐ、ご飯、作る……」
ネリー
「うゃーーーっ!!」

二人は仲良く手を繋いで帰っていきましたとさ。


フィオ「クリエさんのご飯は五臓六腑にしみわたるでぇ……」

フィーナ「簡単に言ったけれど、ドラゴンとの戦いは苛烈だったはずだからね」


25回



フィオ「協会に保管されている海底ガラクタの山、いや正確にはそこにある一本のモリを見つめるクリエさん。
それにはネリーさんの『大切な人』の名前が刻まれていて……」


銛が見つかったのはセルリアンの外れの方だと、クリエは聞いた。
彼女らとは別の、協会から仕事を受けたグループがサルベージしたのだという。海底に散らかっていたガラクタの一つとして。



瀬田直樹。

かつて地球からオルタナリアにやってきた、三人組の少年のひとり。
世界の救い手『ヴァスア』となった者。

そして、ネリーの大切な人。

クリエも直樹のことは知っている。
旅をしている彼とネリー、そして仲間たちに出会い、少しばかりの手伝いをしてやったことがあったのだ。

冒険に付き合うことまではしなかったが、その後のことはこのテリメインに来てからネリーが教えてくれた。
悪いやつらに勇敢に立ち向かい、どんな逆境でも決して諦めず、ヴァスアとしての使命を果たして、他の少年たちとともに地球に帰っていったのだという。

そんな彼の得物が、テリメインにまで流れてきたということは。

クリエ
「…… ……」
考え込むクリエだが、すぐにやめにした。

腹ペコ娘を迎えにいく時間だ。


フィーナ「あまりよくない発見だね」

フィオ「今のところ何の問題も無くテリメインに流れてくる気がしないからねぇ。
一体何処から流れてきたのか、も気になるところだけれど」


フィーナ「それはクリエさんがネリーさんに探りを入れるみたい」

その夜。
入り江の洞穴、二人のすみかにて。

クリエ
「……ひとつ、聞いて、いい? ネリー……」
ネリー
「うゃ、なーに?」
クリエ
「……直樹、さ。前に……話、してくれた、ケド……
帰るとき……持ち物は……どうしたのかな、て……」
ネリー
「ンゥ。
地球にはもってかえれないっていうから、わたしがもらっていいヤツはもらっといたよ。
でも、盗まれたりしたらヤだから、コルムの倉庫であずかってもらったの」
クリエ
「……そう……。」



ネリーが眠った頃になって、クリエは考え込んでいた。

ここしばらく、あちこちで発生していた謎の渦。
それがオルタナリアのものをこのテリメインに運んできている。自分とネリーをここに連れてきたのも、恐らくはその渦だ。

ーーー倉庫ごと持っていかれたのではないか。


フィオ「状況から考えられる答えはやっぱりよくないもので、動揺させないためにもとりあえずは黙っていることにしたようだけれど」

フィーナ「倉庫……地上にあったのだとしたら、災害はかなりの規模になっているかもしれないね」

フィオ「そして翌日、これまでよりも少し奥地にて仕事をするクリエさん。そこに入った通信によると渦が出現したとの事で……」

フィーナ「退避しろという通信を無視して先に進み、そこで見たものは」

遠目に見てもはっきりとわかるほど、大きな渦が起こっていた。

クリエ
「(……まずいな)」
近づくことなど論外だ。
今いる場所すらも、あの中から出てきたもの次第では危なくなる。

それでも離れるわけにはいかなかった。
クリエだって故郷のことが心配でないわけではなかったし、昨日の出来事をいつまでネリーに隠していられるか考える必要もあった。

幸いにして、渦は危険な残骸も、巨大で凶暴な魔物も吐き出すことはなかった。
海の底はまた、静かな世界に戻っていく。

クリエは渦の根元を目指して泳いでいった。
大きなものはないけれど、小さな物ならいくらか積もっている。

その中に、紙が一枚挟まっていた。むろん濡れて破けていたが、なんとか読み取れた一文に、クリエは目を見開いた。



『セントラス・キャピタル新聞
オルタナリア各海域に謎の渦 政府は調査を検討』


フィオ「ちょっと無理をしすぎた感じはあるけれど……想像通り、いや想像以上の状況を知ることはできた……かな」

フィーナ「テリメインとは比べ物にならないほど大きな話題になっているようだね。
まぁ世界の規模とか、統治している組織のあり方とかを考えると、テリメインでの扱いが小さいともいえるのかもしれないけれど」


フィオ「各海域ってことは全世界規模と考えてもいいよね、大丈夫なのかな……」


26回




ネリー
「ただーいまっ」
このテリメインにおける家である、入り江のほら穴にネリーは帰ってきた。

ネリー
「……うゃ……。」
ぱたぱたと中に入って、辺りを見回すネリー。

ネリー
「……クリエさん、今日もかえってないの?」



クリエは数日前から、「忙しくなった」と一言ネリーに言い訳して、頻繁に家を空けるようになった。

ネリーは、文句は言わなかった。
生活費を稼いでくれているのは基本的にクリエなのだ。自分も、探索に出たら何かしら金になりそうなものを持ち帰ってはいるとはいえ。

それにしたって流石にこうも顔を見せないと、不安もになる。



ネリー
「……ンゥ……。」
ネリーは座り込み、洞窟の外をいつまでも見つめていた。


フィーナ「クリエさんが忙しくなった……というのは渦に関してのことなんだろうけれど、ネリーさんに秘密を作ったままだから、すれ違いのようにもなるね」

フィオ「とはいえある程度状況をつかんでから話したいということなのかもしれない」

フィーナ「まぁ突っ走っちゃいそうな危うさはあるよね、クリエさんも無理をしそうなところあるけれど」

フィオ「そしてクリエさんは予想通り渦の調査に。テリメインでもそれらをメインにする仕事があるみたいで、そっちのほうを志願しているとのこと」

フィーナ「仕事をしながら思うのは過去のこと。オルタナリアに残したものが多くないというのは……?」

オルタナリア中央大陸、ティミタ山のふもと。
森に囲まれた村で、クリエ・リューアは生まれた。

クリエには、父と、母と、弟と、妹がいた。
僻地の貧しい暮らしではあったけれど、それなりの幸せと暖かさがあった。

人も時々訪ねてきた。
旅の僧侶や、森の薬草を採りにくる薬師が、クリエに外の世界のことを教えてくれた。

外に出てみたい。色々なことを学びたい。
そんな思いが、クリエの中で日に日に強くなる。

やがて、クリエの願いが叶う日が来た。彼女自身、けして望まなかった形で。

その年の冬は異常に寒かった。
作物はろくに育たず、人々は餓えた。魔物たちも腹を空かせ、村を襲うようになった。

父も、母も、弟も、妹も、みんな死んだ。けれど、クリエだけは生き延びた。
まるで、何かがとりついて、死を遠ざけていたかのように。

春の兆しが見え始めたころ、僅かに生き残った人々は誰ともなく村を去り始めた。

蓄えは既に底をついた。ここではもう生きていけない。
森を抜けて旅をすれば、街につける。食いつなぐチャンスが見つかるかもしれない。

クリエも、出ていかなくてはならなかった。


フィオ「……なんだか、みんな大変だね」

フィーナ「自然に依存することも多い生活だったんだろうけれど、一冬の変調でこうなっちゃうとはね……」

フィオ「心の強さの源泉を見た気がする。とはいえこれからまた旅をする中で、色々と備えていくのだろうけれど」


27回



フィーナ「結局渦は見つからず、陸に戻ったクリエさん、心配をかけたかもしれないと、住処に戻ってみると」



クリエ
「ただいま……ごめん、遅くなっ……」
ネリー
「…… ……。」

ネリー・イクタは獣のように丸まって、寝息を立てていた。
どうやら自分を待っていたが、眠くなってしまったようだ。

クリエ
「……ごめん、ね」

ネリーの傍らには、少々大き目の魚の骨がある。食事だけはちゃんと済ませたらしい。

自分の外套をネリーにかけてやり、クリエは荷物を床に置いて座り込む。

ネリー
「……うゅぅ……ぅー……。」
目覚める様子はなかった。

疲れているのも無理もない。
どうも、巨大なドラゴンと激しい戦いを繰り広げてきたそうだし。

話をするのは明日になってからだ。

クリエ
「……おやすみ……。」
クリエも体を横たえ、しばし物思いにふける。


フィオ「住処は食事を取ったり眠ったりする場所というだけのことじゃなく、心の安寧の場所でもある。今のネリーさんにとっては二人一緒にいることが重要なんだろうね」

フィーナ「難しい問題はころがっているけれど、やっぱり一人より二人で取り掛かったほうがいいような気はするね。
さて、クリエさんが思い出すのは……」



一人で村を出たクリエは、周りの森の中でさっそく死にかけた。

纏っていた襤褸切れを襲ってくる魔物に放り投げ、目をふさぐのに使ってしまったおかげで、夜の寒さを防げなくなった。
食べ物に関しても、何が毒で何が糧になるのか、ろくにわからない。

大きな樹に力なくもたれかかり、クリエは思った。
どうして、自分は生きようとしているのだろう、と。

外の世界に出て、学びたいからか。
だが、もはや何も対価にできるものを持っていない自分に、わざわざ勉強させてやるような物好きなんて、いるのだろうか。

もう、自分には何もないはずだった。
特別、生きたいわけでもなく。特別、死ぬのが怖いわけでも無く。

それでもクリエは生き延びてしまった。

自分と同じく村から抜け出してきたらしい男の亡骸を見つけ、持ち物をすべて剥ぎ取って。
川を下り、森を抜けて。

そうして、クリエは生まれて初めて、故郷以外の町を訪れた。

あれやこれやと話す人々。色々なモノを売る店。たまに道に落ちている新聞。
目にするもの、耳にするもの全てが、クリエに新たな知識を積み重ねていった。

ここでクリエは、中央大陸のアカデミーの話を聞く。

後に、入ることになる場所であった。



フィオ「少女ただ一人には過酷過ぎる旅路。それでも命を繋ぐのは何かの意思の表れか」

フィーナ「投げやりになっていても、表層に現れない部分では、まだ生きたいという欲があったのかもしれない。その正体はまだ明らかにはなっていないけれど」

フィオ「幸運が生かすのか、幸運に出会う意思の力が生かすのか」

フィーナ「まぁ、先のことなんて誰にもわからないさ……」


―――気がつけば朝。

ネリー
「クリエさんっ! おはよーっ!!」
クリエ
「…… ……。」
元気のよい声が耳を貫く。

起き上がる。

ネリー
「かえってきてくれたんだねっ、よかったよっ!」
クリエ
「……うん。ただいま。
ごめん、ね、ネリー。今日は……一緒に、いる、から……」
ネリー
「うゃあ! やったーっ!!」



自分でもよくわからないのだが、少し焦りすぎてしまっていたのかもしれない。

今は、ネリーの傍にいてやろうと、クリエは思った。


フィオ「焦る理由は……なんだろう」

フィーナ「ネリーさんのことを思って、自分だけで何とかしようとした……のは、全てを失った悲しみを味あわせたくなかったから、とか?」

フィオ「行動原理としてはありそうだけれど、やっぱり個人的な借りとかがあるのかなぁ」

28回



ジュエルドラゴンとの闘いから数日ほど経ったころ。
ネリーもクリエも訪れていない、とある海域に渦が発生した。

???
「ァァァァァァァァァ」

どうやら、哀れにも巻き込まれた者がいるようだ。
毛やら服やらをちぎられながら引き回されている。

???
「アアアアアアアァァァァァァァ」

彼は叫びをあげるが、渦が聞き入れるわけもなかった。

???
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ヒ゛ハ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛」

それでも、わめき続ける以外にいったい何ができただろう。



???
「…… ……ヒハ……。」

やがて渦は静まり、消えた。振り回されていた輩―――メガネをかけた老人がその場に残る。

探索者
「……ン?」

通りすがりの探索者だ。

探索者
「なんだ……溺れちまったのか、こいつ。
放っておくわけにもいかんか……」

生きていたなら儲けものだし、死んでたら死んでたで色々と手続きがあるのだ。

探索者は渦の被害者を回収し、そのまま浮上していった。


フィーナ「ここにきて新たな渦の被害者。オルタナリアの新聞で発覚した規模を考えるに、思ったよりも多くの人がこちらに送られていてもおかしくは無いのかもね」

フィオ「でも海中に放り出されるとなると……無事ですまないってことも、とうぜんあるよね」

フィーナ「そうだろうね。その点はテリメインでよかったかも。今回みたいに探索者が通りかかることもあるだろうし」

フィオ「それにしても老人かぁ、よく持ったほうだとおもう。……これまでにお話の中で出てきた人かな?」

フィーナ「どうだろうね。老人、老人……」


フィオ「一方のネリーさんとクリエさん。お、デートの予定を立てているのかな」

フィーナ「お出かけしようとしているみたいだね。雑誌を見て、何処に行こうかを決めようとしているけれど……」

クリエは、雑誌をネリーにも見せてやった。
開いていたページには一面に穏やかな海とくるりと曲がった砂浜が描かれており、その上にあれこれと文字が書かれていた。

曰く、『セルリアンの海は、平和の海』。
『美しい砂浜と、優しい海があなたを迎えます。カップルで、ご家族で、ぜひどうぞ』。

実際は混雑してて平和もクソもないのだろう、とクリエは思う。
オルタナリアでも、発展の進んだ中央大陸の方のリゾート地はそうだったのだ。

ページをめくる。レッドバロンやストームレインといった名前も出てくる。
当初は未知であったこれらの海域すら、既に観光の場となりつつあるようだ。それなりのリスクは付きまとうとはいえ。

クリエ
「……ストームレイン。行ってみる……?」

ネリーがいるのだし、クリエ自身も冒険に馴れていないわけではない。
多少危険があったとて何とかなるだろう。少なくとも、人だらけのところに行くよりはマシだ。

ネリー
「うゃ……えっと……」

ネリー
「アトランド、きてみない?」
クリエ
「……オッケ」


フィオ「人ごみかぁ、人ごみはたしかに、避けて通りたい場所ではある」

フィーナ「ま、いろいろあるしね……」

フィオ「ある程度の危険までは受容できるけれど、それでもアトランドを選んだのは、海賊を心配したのか、それともなにか見せたいものでもあったのかな?」

フィーナ「ストームレインって相応に荒れてるんじゃなかったっけ、豪胆だなクリエさん」

フィオ「てなわけで、アトランドに向かったけど」

アトランドの海中島、その一つにネリーとクリエはいた。

ネリー
「うゃー、こっちこっちーっ」
人間のそれをはるかに上回るスピードで、すいすいと泳いでいくネリー。

クリエ
「…… ン……」
それでも、クリエがネリーにどうにかついていけるのは、背中に装備した推進用スキルストーンのおかげだった。
細かい泡を猛烈に吐き出し、クリエの体を前に進めている。

二人が向かう先は、ひときわ目立つ塔。
ネリーが探索をしている時、いつも遠くから見ていたのだという。


フィーナ「あぁ、目星がついてたみたいだね、塔……海中の塔」

フィオ「ずんずん進むネリーさんを宥めながら追いかけて、塔のてっぺんから見下ろす景色は」


ネリー
「うわぁぁ……!」

陽光は下の方までは届かず、海底の水は真っ黒に見える。
そこにぽつりぽつりと、様々な色の柔らかな明かりが灯っていた。
弱弱しい光たちは、しかし確かに、建物の輪郭を露わにしている。

かつてはここも、生きた街だったのだ。
どんな名前だったのか、どんな人々が住んでいたのか―――それは、ここからではわからない。
でも、今の二人は考古学者じゃないから、それで十分だった。この美しさと、楽しく勝手な想像があれば、よかった。

クリエ
「……そろそろ、お弁当、食べよっか」

丸い貝殻でできた容器を取り出すクリエ。
先日市場で買ってきたこれはスキルストーンの技術を応用して作られたらしく、水中でも食事ができる優れものだという。

中身はテリワカメの混ぜご飯と野菜の煮物、それからテリメインイワシの唐揚げだった。

クリエ
「……きみには、足りないかも、だけど」

ネリーなら、同じものを百人前くらい作っても軽く平らげてしまうだろう。

ネリー
「うゃ、だいじょーぶ。おなか空いたらエモノさがしてくるから……」
クリエ
「ン……そりゃ、頼もしい……」

さっさと食べ終えてしまい、それでも待っていてくれるネリー。

ネリー
「ねーね、クリエさんっ。次は、どこいく?」
クリエ
「……そう、だね……ウウン……」

別にどこだっていい、とクリエは思っていた。今はただこの平和な時間が尊い。

思えばここでネリーに出会った時は、迷惑をかけないよう別なところに住むとすら言っていたのだ。
それがいろいろあって一緒に居続け、気がつけばこんな風に遊びに出かけたりもしている。



今の自分にとって、ネリー・イクタとはなんなのだろう―――?



クリエ
「……うん。あっちの建物に……」

ネリーを待たせてしまっていたことに気付き、クリエは適当に目立つ建物を指さして言った。

二人きりのバカンスは、つつがなく続いていく。


フィーナ「控えめなお弁当と、それにくらべて随分大きな満足。共に過ごすうちに気がついた変化は自分でも意外なものだったみたい」

フィオ「これは……恋」

フィーナ「それはちがう」

フィオ「わかってるよ。まっすぐに引っ張っていってくれるようなネリーさんの魅力にやられちゃったんだね」

フィーナ「それもなんかちがう……」

フィオ「本質を汲み取ってほしいところ」

フィーナ「疑問の答えは然程難しくはなさそうだけれど、言葉にするには中々難しい、かな?」


その夜、地上の街にて。

医師
「……あん? 患者がいないィ!?」

初老の細い目の医師―――かつて、遭難したクリエを診た者だ―――は、その眼をあり得ないほどに開いていた。

看護師の女性
「は、はい……今朝運び込まれてきた方です!
確か、アッチ・ソチコッチってお名前の……!」
医師
「……ンンン。と、とにかく、警察だ。警察に連絡するんだ!
部屋も調べておこう!」

結局、その日のうちにアッチ・ソチコッチが発見されることはなかった。

それどころか、もう一つ事件が起こった。
港に泊められていた、個人所有の船が一隻、何者かに盗まれたのだった。



翌朝いつものように仕事に出たクリエ・リューアは、協会で新聞を見せてもらい、一連の事件を知った。

クリエ
「(……アッチ……ドクター、アッチ、か)」

クリエ
「(……悪さ、しなきゃいいが。
……悪さ、するん、だろうな……)」


新聞を閉じ、クリエは仕事場に向かうのだった。


フィオ「あっ、君かぁ……」

フィーナ「絶対悪さするぞ」

フィオ「いや、断定するのはまだどうかとおもう」

フィーナ「絶対するよ、もししなかったら樹の下に埋めてもらって構わないよ」

フィオ「船が盗難された……? 一体誰の仕業なんだ……」


29回



フィーナ「ジュエルドラゴンとの死闘を超えて、ネリーさんはドラゴンの話をまた思い出す」

滅びてしまったとされているオルタナリアの古きドラゴンの血筋だが、一応細々と続いてはいた。

とはいえ、オルタナリアには乱世もあったが、現在は概ねみんなで助けあう世界となっているので、力のありすぎるもの達は肩身が狭い。
悠々自適としていてもらえばよいと傍から見れば言えるのだが、彼らにだって相応の欲が備わっているので、生きづらくなるのだ。

そんな古竜の末裔の一体に、かつての冒険でネリーは出会った。

名をアノゥヴァという。
四つ脚の雌竜で、人間の大人の倍ほどの背丈があり、暴力に耐えるための甲殻と、寒さに耐えるための毛皮を持っていた。
あのジュエルドラゴンの関係者と同じく、体色は白かった。

彼女は『オルタナリア四賢者』の一角でもあった。
雪と氷に覆われた北方の国メシェーナ、その奥地に隠れ棲みながら、世事に疎くはならなかったのは、四賢者専用のネットワークがあるからだ。
極めて高度な魔法技術により連絡を取り合う手段を、彼らはもっていた。

そのアノゥヴァと初めに出会ったのは、地球人の少年の一人である宇津見孝明で、その場にネリーは居合わせていない。
ある事情から何組かに分かれて行動している間の出来事だった。

あとでアノゥヴァと会う機会ができたネリーは、彼女が強いので、純粋に憧れた。
偉そうなところもあったが、厭な感じという訳でもないのだった。



フィオ「大きな力は存在するだけで色々な面倒ごとに巻き込まれやすいよね」

フィーナ「そだね」

フィオ「なんか賢者って命名されていると、わりと頼りにされてひっそりと交流は続いていそうな雰囲気がある」

フィーナ「実際そういうこともあるんじゃない? 冒険の途中で出会ったのだとしても、完全な隠居生活だと形跡すらのこさないだろうし」

フィオ「嫌味のない偉さは育ちのよさから……かも」

フィーナ「育ちのいい竜ってなんだ」

フィオ「まぁそれはそれとして→
ネリーさんとしては新しい海域が開けたことが嬉しいみたい、次は……サンセットオーシャン」



ネリー
「お日さまの海、かー。どんなトコなんだろうなあ。
まぶしいのかな? あっついのかな??」

ネリー
「いってみれば、わかるよねっ!
たのしみー、だよっ!」


長いこと旅をしたアトランドとも、今日でひとまずお別れである。


フィーナ「眩しくて暑い……を何十倍にもしたようなところなんだよね」

フィオ「一方クリエさん。探索が進むにつれて、クリエさんのお仕事も少しずつ奥地へと。今回からはアトランドへ」

フィーナ「どうやらあのおでかけから、お気に入りの海域になったみたいだけれど、その理由はフィオと似てるよね」

フィオ「知的好奇心だね。いいね、すばらしい!」

フィーナ「まぁ建物がそのまま残ってるって珍しいからね、目を引くのもわかる」

フィオ「とはいえ今はお仕事お仕事……んん?」


クリエ
「…… ……。」

過去の都市に想いを馳せるのは後にして、クリエは先に進んでいく。
建物が多いせいで、標識の置き場に困る場所でもある。なるべく、周りからよく見えるポイントを探して設置しなくてはならない。

いろいろ考えながら、全ての標識を浮かべ終えたとき、クリエは水が震えるのを感じた。

クリエ
「―――!」

すわ、またあの渦か。

いや違う。これは―――

???
「―――ひゃぁぁぁ、ひゃひゃひゃひゃひゃァァァーーーッッ!!」

大きな何かがクリエに迫っていた。
内側からは奇怪な―――一応人間の―――声がしている。

クリエ
「ッ―――!!」

クリエはどうにか逃れようと、力いっぱい水を蹴った。



<つづく>


フィーナ「……絶対悪さするよ」

フィオ「もうしてる!」

フィーナ「大きな何か……前にしでかしたことを考えると、機械なのかなぁ」


30回



フィオ「前回の続き。場面はネリーさんの寝床から。
ネリーさんが帰った時にはまだ居なかったクリエさん。そしてそれは眠って起きた後も一緒で……」


フィーナ「ネリーさんは手がかりを掴めないかと協会へ向かったね。
逃れようとして……こうなっているって事はあまりよくない展開になりそう」


ジュエルドラゴンは大人しくなったが、アトランドの海は相変わらず騒がしい。
まだこの一帯にいる探索者も多いし、今後は観光ツアーなども組まれてくるだろうから、当然といえば当然である。

けれど、その中で一つ噂が立っていたのだ。

ドラゴンとも違う大きな何かが、この辺りを泳ぎ回っているらしい。
しかも、それと前後して、アトランドを訪れた者が失踪しているという。

ネリーは、協会でその話を耳にした。

ネリー
「う、うゃ……! ひょっとして、クリエさんも!?」
協会員A
「ああ、だけど……」
ネリー
「こうしちゃいられないよっ! ショクインさん、ありがとっ!
いってくるねっ!!」

すぐさま協会の建物を飛び出し、海の中に消えて行くネリー。



協会員A
「……行っちまった。
あの怪物、昼の内は出ないらしいんだがなあ。狙う相手も選んでるっぽいっつーし……」

協会員B
「おおい! 手が空いてる奴、ちょっと来てくれ!」
協会員A
「なんだ?」
協会員B
「情報が来た! アトランドで例の渦が出て……」
協会員A
「おいおい、またアレかよ?」
協会員B
「アレだけじゃないんだ、今回は!」
協会員A
「……へっ?」


フィオ「協会でも話題になっているね……飛び出したのはいいけれど、何かまだまだ波乱がありそう」

フィーナ「狙う相手を選ぶ、か。オルタナリア由来の渦とその関係だとすれば、オルタナリア関連の人たちが狙われているのかな」

フィオ「飛び出していったネリーさんは水棲人のセンスで海の中を探索していく。相手が大きいのならそれだけ流れに与える影響も大きいとの事」

フィーナ「とりあえずは捉えたみたいだけれど、それがクリエさんの失踪と関係のあるものかはわからない。それでも行って確かめるしかない」


クリエ
「…… ……。」

探されているクリエ・リューアは、どこだかわからない場所で、鈍い痛みを身体じゅうに感じていた。

頭が重い。
痛みを逆に頼りにして意識を保ち、目を開く。

四角くない部屋の中。壁は焦げ茶色で、ランプが一つフックでかけてある。
ネリーと住んでいる洞穴に戻されたかと思ったが、どうも違う。

視界がはっきりしてくると、壁は岩でなく、ガラクタや鉄板を組み合わせたものでできているとわかる。

辺りを見まわすが、どこにも出口らしきものはない。
こうして生きていられる以上、空気はどこからか入ってきているのだろうけど。

クリエ
「……!!」

ふと、部屋がぐらりと揺れた。重々しく音が響く。
クリエは特に抵抗もできず、見えない力で壁まで転がされて、押し付けられる。

ここはいったい、なんなのだ。


フィオ「一方でクリエさん。とりあえず生きてたのはよかった」

フィーナ「ただ喜ばしくは無い状況だね、何処かわからない場所につかまっていて……ランプが用意されているんだからつかまっているって感想でいいと思うんだけど」

フィオ「状況から考えるに海中を蠢く怪物の中……ってことなのかなやっぱり」


ネリー
「あ、あれは……っ!」

流れを追いかけて行ったネリー・イクタは、アトランドの外れ、遺跡もまばらになってきた地帯に出る。
そこで目の当たりにしたのは、巨大な怪物ではなく、例の渦であった。

対処の仕方はもうわかっている。建物の陰に隠れ、何が出てきてもいいようにするのだ。

渦の中心は、絶えず光と泡を発している。
それは突然に、パッと大きくなったかと思うと、すぐ元の大きさに戻る。その際に、何か―――オルタナリアにあったもの―――を吐き出すのだ。

ネリー自身、もう何度か見てきた光景だ。

けれど、飛び出したガラクタが、すり鉢に落とした玉のように渦をぐるぐる滑り落ちて、海底に消えて行くのを見た。
沈んでいくにしては、いささか速すぎる。

一方で、哀れな魚や海獣が出てきたら、いったんはガラクタと同じように引きずり込まれるのだが、その後猛烈な勢いで外に放り出されるのだ。

ネリー
「…… なんか、いる……!?」

ネリーはまだ渦が止まないうちに建物の陰から飛び出した。
尻尾を力いっぱい振るって勢いを付け、渦を振り切るように突き進む。

目指すは、下。

ネリー
「りゃッ―――!」

真っすぐは行かない。渦の周りからルートを探して降りていく。
相手は吸い込む物を選んでいるし、正体がわからないのに突っ込むのは危険だ。

ネリー
「このちょうしっ……!」

海底の傾斜に張り付くようにして、ネリーはどんどん深く潜る。
すぐ上を、大きな鉄板やら、木でできたテーブルやらがすっ飛んでいく。ぶつかれば、いくら丈夫なネリーでも無事では済まないのだ。

やがてネリーは、流されていたガラクタが海底で山になっているのを目の当たりにした。

ネリー
「……?」

彼女からすれば、奇妙な光景だった。オルタナリアでは不法投棄は深刻でなかったから。

直後、ガラクタの山の中から何かが発射された。金属の柱だった。
真っすぐ、ネリーを目がけて飛んでくる。

ネリー
「っ!?」

ネリーの頭が追い付くよりも早く、それは来た。

ネリー
「ごぶぇっ―――」

柱はネリーの腹に命中し、その身を二つに曲げさせ、勢いのまま地面に叩きつける。

ネリーが意識を失うと、ガラクタの山は一瞬震え、地面に吸い込まれるように崩れ落ちて、うずもれてしまった。

渦もやがて静まっていき、消えていく。



その最後の一瞬に送り出された小さなものに、気づく者はいなかった。



<つづく>


フィーナ「一方のネリーさん。見つけたのは怪物ではなくて渦……だったんだけど、いつもと様子が違う」

フィオ「ガラクタ。残骸だけを選別して吸い込んでいる『何か』その正体はガラクタの山のようだったけど」

フィーナ「……これは痛い。普通の人だったら死んでしまってもおかしくは無い」

フィオ「なんだろうね、これまでとは明らかに違った渦の挙動と、明確な敵意をもって発射された鉄柱。そして最後の『小さなもの』」

フィーナ「まだまだ情報は足りないけれど、デンジャラスな状態は続いている。クリエさんは状況の把握が必要だろうし、ネリーさんは……ダメージから回復しないとね」


31回




クリエ
「…… ……ふぅ……」

どこだかわからない、廃材でできた部屋。
凸凹の強い壁にもたれかかり、ランプを見つめるクリエ・リューア。

彼女は窮地にあって、しかし平静を保っていたが、それは懐に抱えた水筒一本と、自身の気質のためであった。

元々、住んでいた村が駄目になった時に死んでいただろうと思っている身である。
そんな心持ちであるから、命がなくなることがさほど怖くもないのだった。

ネリー・イクタのことは心残りといえるが、彼女は自分無しでも生きていくだろう。

クリエ
「…… ……?」

ふと、がらくたの山の向こうから漏れ出てくる音が鼓膜を打ち、気を引いた。
人らしきものの声が、聞こえてくるのだ。

いかに自分の生命を軽んじていても、何もしようとしないわけではないのが、クリエという女である。


フィオ「クリエさんからのスタート。惨劇を越えてきた彼女だからこそ、ひどく冷静でいられるけれど、状況はなんら改善していないね」

フィーナ「諦めるにはまだ早い……!」


金床の角が、分厚い本を支えてできた隙間があった。

???
「…… ……。」

そこに、ヒトの手のひらほどの大きさの、羽根のついた小人の少女が横たわっていた。

???
「……ぅー…… ……。」

小人は目を開き、顔を上げる。

そこに光はないが、小人も生き物なので、自分の体の状態をわかるくらいのことはできた。
痛みはあるが、手足も羽根も、ちぎれていないのを確かめて、とりあえずは安堵をする。

???
「どこさ、ここ…… ……」

頭をぶつけてもいいよう、静かに動く。まずは身体を起こし、膝と右腕で支える。
空いたほうの左腕は適当に動かして、鉄の滑らかな冷たさが、そこにあるとわかる。

今置かれている空間を把握しきるのに、さほど手間はかからなかった。

???
「……あぁ、まいったなあ!」

小人が声を出すのは、誰かに聞こえてくれればいいと思ってしまうからだが、それが徒労にならなかったのは、トタン板と歯車数枚ずつを隔てた先にクリエ・リューアがいたためである。

クリエ
「……シー、ルゥ……、シールゥ、ノウィク……っ?」

いつものような出にくい声で、クリエはその名を呼んだ。


フィオ「あら、お知り合い」

フィーナ「ガラクタだらけの、というよりはガラクタが組み合わさったような空間で、偶然にも近くに居たのは、小人さん、それとも妖精さん?」

フィオ「説明によると妖精さんっぽいかな、『魔力より生まれ出た命』だそうで
ネリーさん達と旅をした仲間みたいだね」


フィーナ「クリエさんは巻き込まれ型」


シールゥ
「そういうあんたって、クリエ・リューア!」

声を返す相手がいることが、二人を元気づけていた。

クリエ
「ン……。
君……も、ひょっと、して……渦に……?」
シールゥ
「クリエさんもか、やっぱし!
もう、ひどいんだ……海に近づかなければいいんだって思ってたら、渦が空まで出て、竜巻になったんだよ。
ボクはそれに巻き込まれて、気がついたら……」

クリエは見えるはずもないのに、うつむいてみせた。想像を超えて事態が悪化している。

とはいえ、ここで悩んでいても、何にもならない。

クリエ
「……とりあえず、ここ、から……出なきゃ。
わたし、の……方は……ドア……とか、何にも、なくって……」
シールゥ
「こっちなんか、ガラクタの中さ。何とかそっちに行ってみるんで、離れてて!」

はねっ返りで怪我をしないよう、シールゥは気持ち悪さを抑えて金床に背を押し付け、右手の人差し指から光る弾丸を発射した。
一発でトタンに穴が開き、二発目でクリエ側にいくらかの破片が噴出する。

この場所の構造を想像していたクリエは、下手をすれば崩落が起こるんじゃないかと、静かに震えた。そうはならなかったが。

シールゥ
「……っと、こんにちは」
クリエ
「……ン。こんに、ちは」

穴から這い出てきた小妖精に、クリエは両手で器を作って、優しくすくい上げてやった。



フィオ「開通ー。で、クリエさんはテリメインで巻き込まれたけれど、シールゥさんはオルタナリアで巻き込まれてこちらに送られてる。状況はかなり悪い」

フィーナ「クリエさんはある程度の大きさがあったから、『部屋』に幽閉されているような形になったのかもね、シールゥさんは何も無い判定に見える」

フィオ「とりあえず崩落は起きなかったけれど、やっぱりガラクタで作られた場所なのかなー」

フィーナ「壊して進めるね」

フィオ「野蛮! 蛮族!」



一方、射出された金属にやられ、失神していたネリー・イクタが目を覚ましていた。

ネリー
「……ンゥ…… ……?」

あのガレキの山が、きれいさっぱり消えて、後には穴が残っている。

あれが生きていて、渦から出るものを吸い込んでいたと思うのは尤もらしい。
クリエを行方不明にしたのもそうなのか、と言われれば確信はなかったが、どのみち放っておけるものではなかった。

やつは地面に潜っていったらしい。

ネリー
「……あきらめない、ぞっ……!」

ネリーは尾を曲げて水を強く押し、グオッと勢いよく前進して、穴の中へと飛び込む。

作られたトンネルの中にはガレキが残っていて、時に行く手をふさぐが、自慢の馬鹿力で強引にどかして進んでいく。

そんなネリーは、さながら生けるドリルというべきありさまであった。


フィーナ「ネリーさんも復活。生きたガレキの山か……」

フィオ「生きた。って表現が正しいのかはまだわからないけれども」

フィーナ「とりあえず痕跡をたどっていけば本体にたどりつけそうではあるよね」

フィオ「追いついたとして、助け出すために戦う必要はありそうだけど、思いっきりやっちゃって大丈夫なのかな、ガレキだと簡単に穴とかあいちゃうんじゃ」



シールゥ
「仕事中にとは、災難だったね」

シールゥはクリエのこれまで―――オルタナリアで渦にのまれ、テリメインに来てからの暮らし、そしてこの場所に来るまで―――を聞いていた。

クリエ
「……ン。
だから……たぶん、ここは……ぶつかって、きた、奴に…… 連れて、こられた、場所……
じゃ、ないなら……腹の中、て、とこ、か……?」

腹の中だったとしても、相手は無機物であるから消化の心配はない。

シールゥ
「どっちにしたってロクでもないよ。出なくっちゃ。
どっか、スキマを見つけて……」
クリエ
「……それ、なら……海の、中に、出るのは……止した方が……
君……まだ、スキル、ストーン……ない、し……

……行くんなら、君が、いた方で、探して、みて」
シールゥ
「オッケ。そこのランプで、後ろから照らしてちょうだい」

クリエは言われるがまま、壁にひっかかっていたランプをシールゥのいた穴の近くまで持っていく。
中の金床は黄色い光を映し、その傍らの本のタイトルも見える。オルタナリアの言語があった。

空間を構成しているガラクタの大きさはまばらで、シールゥの体躯ならば、潜り込んでいけそうに見えた。
その先に何があるという保証はないが。

シールゥ
「行ってくるね」

危険であっても、とる道は一つしかなかった。


フィーナ「一方のクリエさんとシールゥさん。こっちもこっちで、打開していこうとしているみたいだけれど」

フィオ「身体が小さくて助かった、本人からすればガラクタに巻き込まれたのは不運だけどね」

フィーナ「ガレキの寄せ集め、オルタナリアの本……テリメインのガレキも混じっているのだろうけれど、基本的に向こうのものを集めてというのは間違いなさそう。こっちでそれをやっているのはよくわかんないけど……」

フィオ「意図的な挙動なのかもわからないよねー」


ネリー・イクタもトンネルを潜り抜けている最中である。

ネリー
「あいつ、どこまでいったのかなあ……」

自分の体力に全く問題はないのだが、もしクリエを連れ帰ることになったとすると、あまり遠くまで行かれていては事だった。
未知の海域の魔物は強いから、彼女を守り抜いて戦えるかどうかはわからない。

幸いにして、その後すぐにトンネルは上に向き、そのまま開けたところに出ることができた。

ネリー
「……ここは……」

目につくランドマークはない。
極端な水温ではないから、レッドバロンやサンセットオーシャン、シルバームーンではないのだろう。

ここからは、流れを追いかける。ネリーの感覚は、この辺りの水が引っかき回されたのをわかっていた。

やがて、遠くにいびつな形の山を見つけたネリーは、思い切り地面の近くに寄って泳ぎ続ける。
また、先手を打たれるのを避けるためだ。

ネリー
「…… ……!!」

静かに移動する山にある程度接近をしたところで、ネリーは大きく身体を曲げ、ドッと押し出した。
その勢いと、腕っぷしと気合とを、全て合成した力でもって、ハンマーを叩きつける。

ガァーン!

ネリーの一撃で、木板の集合体のようなものがバラバラになって飛散する。
これだって、ガレキの化け物がまとっているもののほんの一部に過ぎない。こいつには中心部が存在するはずだ。

ドドドッ! 怪物はものを撃ち出して反撃した。
大きな釘や金属柱、さらには剣など、当たれば致命打になりかねないものも混じっている。

ネリー
「うゃあっ!」

ネリーは身体をひねり、素早く地面近くに沈み込んで攻撃をかわす。
ドームの形をした怪物は、その表面と垂直な方向にしか得物を発射できないようで、一番下に来てしまえば、あとは左右に避けることを考えればよかった。

しばらく守りに徹し、怪物のスキを見出してからネリーは接近する。

ネリー
「かんじゃえっ、ハンマーっ!!」

ネリーがぐ、と柄を掴むと、ハンマーに使われているシャコガイのあぎとが開いた。
それで、近くに見えた大きな石柱に噛みつく。

ネリー
「りゃぁああああああっッッ!!」

ネリーは膂力の限りを尽くして、石柱を引き抜いた。

空いた穴の中に、海水が流れ込んでいく。


フィーナ「追いついた! 不意を撃たれた前回とは違うね」

フィオ「テリメインの海に跋扈する魑魅魍魎に比べたら単純な攻撃だ。トラエラレマイ」

フィーナ「機械だろうって事を差し引いても、そこまで脅威にはならないだろうね、当たったときのダメージは大きいから油断大敵だけど」

フィオ「有効っぽい一撃! ……中の二人は大丈夫かな?」


シールゥはようやくトンネルを抜けた所だった。
なにしろ道がないのだから、ネリー以上の苦難である。

そこで彼女が見たのは、興奮した様子で何かを動かしている老人一人と、自分たちがいたのよりはるかに整った部屋だった。

シールゥ
「(あ、あれ……ドクター・アッチじゃん!?)」

かつていた世界で、あの老人は敵だった。シールゥはトンネルの出口脇に身をひそめる。

アッチ
「ぐぅぬぬぬぬぅ! おのれネリー・イクタ!!
こっちに来てまでボクちゃんを邪魔する気かッ!」

シールゥ
「(ネリーが助けにきてるの?
それで、ここまでのって全部アッチの仕業?)」

ネリー・イクタが強いことはシールゥはよく知っていたから、それは朗報といえた。

アッチの傍らには、棘を触手に置き換え、それらをぐねぐね動かしているウニのようなものがあった。大きさは彼の二倍ほどだ。
それが、赤い光と、生理的に危機感を感じさせるような電子音を発した。

アッチ
「ろ、漏水してるッチかッ!
ここじゃあ補充もできんッチのに……! ええいこうなったら!!」

アッチはウニの触手を数本つかむと、自分の頭に押し当てて、叫びだした。

アッチ
「ヒョァア゛―――!! ヒョッ、ヒョァアアアアア゛ァ゛ア゛―――!!」


フィーナ「シールゥさんも困難を抜けて、重要人物のところに、あ、アナタはまさか」

フィオ「知ってた」

フィーナ「渦に巻き込まれていたから、もしかしたら違うんじゃないカナーとも思ってたんだけど」

フィオ「1割ぐらい。 で、なんか気持ち悪いものがあるね」

フィーナ「なんだこれ……ってうわぁ」

フィオ「何かヤバい(確信」


ガレキの怪物が一度、脈動したかと思うと、唐突にネリー目がけてワイヤーを撃ち出した。

ネリー
「!?!?」

飛びのくが、避けきれない。
右脚にワイヤーはクルリと絡みつき、そこに電流が流れた。

ネリー
「ぎぁぁぁぁああぁああぁああぁああッ!?」

悶え苦しむネリー。

そこにもう一本のワイヤーが、鋭い刃を携え、高速で迫っていた。



<つづく>


フィーナ「むぅ……攻撃方法が変わったね」

フィオ「ロストユニバースかな? ってそんなこと言ってる場合じゃなさそうだけど!」


32回



アッチ
「ヴヴーー・ヴ・ヴ! ヴッ、ヴ、ヴヴヴ! ヴヴヴヴ……」

ドクター・アッチの掴んだ二本の触手が、彼の側頭部に根を張っていた。

アッチは姿勢を維持したまま、痙攣を続けていた。
瓶底メガネの裏からは細かい異物が混じった涙がとめどなく流れ、鼻と口からは濁った汁が垂れている。

シールゥ
「(まともじゃないね……)」

シールゥ・ノウィクは、腰につけた木のレイピアを取り出した。
これでアッチの首筋を一突きしてやれば、彼が今戦っているらしいネリー・イクタの援護ができるかもしれない。

シールゥは家屋に住まう蛾のように、壁を登ってアッチの頭上を目指した。

シールゥ
「あーっ!?」

が、シュルルッ! 突然壁から飛び出してきた細い線にからまれて、動けなくなった。

アッチ
「…… ……」

アッチは声ひとつ出さず、グッと首を上げ、シールゥを睨み付けた。

シールゥ
「と、取って食おうってのッ……!?」
アッチ
「…… ……ク、ラ、ウ」
シールゥ
「へっ」

シールゥは、急に彼の声が抑揚を失ったことで驚いた。

アッチ
「…… ……ホショク、シ、ドウ、カ、スル。
カ、ク、チョウ、ス、ル、カク、チョ、カク、カクッ」

シールゥ
「……ゴメンだってのっ!」

シールゥが念じると空中に光の矢が現れ、彼女の側に飛び、線を切り落とした。
自由を取り戻した彼女はすぐさまアッチから距離を取った。

どういうことになっているのか、すぐに察しはついた。

頭の回転が早くないと、小さな身体では生き抜けないのだ。


フィーナ「前回の続き、シールゥさんの目の前で起きているのは……」

フィオ「裸の巣かな……?(戦慄」

フィーナ「想像を超えてやばい奴だったのかも。『本体』は」

フィオ「こりゃ100%アッチが悪いってことでもないみたいだねぇ。二箇所での戦いということになれば、ネリーさんのほうも少しは楽になるかな……?」



ネリー
「グ、ギッ……ギィ……ッ!」

ネリー・イクタは縛られた自分に飛来したワイヤーを、その牙で止め、食いちぎった。

けれど、それだけでしのげるものではない。
ガレキの怪物は、今度は複数のワイヤーを撃ち出し、確実にネリーを仕留めようとする。

うねりながらも高速に突き進む刃が、ネリーの胸から数メートルの位置に迫った。

ネリー
「ガァーッ!!」

ネリーは咆哮をあげた。
波動の媒体となった海水は、ワイヤー群を押し返すほどの力をもって進んだ。

ネリー
「グァアアア―――ッ!!」

勢いのままに、自分を縛るものも引きちぎり、ネリーは尾を振るって飛び出した。

何か大きなガレキを引き抜いて怪物の体内に飛び込み、中からぶち壊してやるつもりだった。
飛び交うワイヤーや小さな破片、ガラクタなどをかいくぐり、ネリーは怪物にとりいた。

手を突っ込み、適当な塊をつかんで、怪力を発揮する。

それが鈍い音と共に、少しばかり引き出されたところで、ネリーの腕は一瞬止まった。

ネリー
「―――!?」

怪物の身体から見えたのは、住み慣れた港町コルムにあるレストランの煙突だった。

センチメンタリズムを意識的に封印できるほど、大人になれてはいないのがネリー・イクタである。



フィーナ「そのネリーさん。野性味あふれる防御と攻撃。すさまじいね」

フィオ「勢いそのままにと行きたかったところかもしれないけれど、これはとまっても仕方がない気がする……致命的な隙にならないといいけど」


その頃クリエ・リューアは水責めにあっていた。
シールゥを見送って待機していたら、突然外が騒がしくなり、水が流れ込んできたのだ。

クリエ
「(……っと……)」

呼吸用のスキルストーンさえあれば、決して危機ではなかった。

だが懐を探ってみれば、持ってきたはずのそれがない。
ここに連れてこられた時に、取り上げられたか、落としたか。

クリエ
「(……まずい、ね)」

生き延びる努力として何をすべきか。選択肢は一つしかなかった。

クリエは、水が部屋を満たすまでの時間を、覚悟と諦めの備えに費やした。


フィーナ「ご無沙汰だったクリエさん、水が来てるっ」

フィオ「冷静に対処……のはずがこちらにも想定外が」

フィーナ「それでも頭の中は冷えてそうだけど……やるしかないね」


シールゥは―――外でネリーがやっているように―――触手の網をきわどくかいくぐっていた。

シールゥ
「アッ!?」

上から飛んできた一本が彼女の羽根を掠め、軌道を崩す。

シールゥ
「冗談じゃないっ!」

彼女に勇気はあった。
床に向かって思い切り加速し、叩きつけられる寸前でレの字のカーブをする。

下からの攻撃に即応できるだけの高度だけ取って、目指すはドクター・アッチの白衣の裾である。

シールゥ
「刺しちゃえよっ、ご主人様を―――!」

自らもレイピアを構えながら、シールゥは吼える。

その直後―――ドォーッ! 床を破り、突き上げてきたものがあった。


フィオ「こちらでの戦いも激しくなってる。覚悟を決めた一撃を遮ったのは……?」


クリエ・リューアは、死神との追いかけっこを始めていた。

完全に水没した部屋の中、彼女は海水が流れ込んできた場所に潜り込んだ。
不定形のトンネルを、壁だけを手がかりに登って行かねばならなかった。

ここから出られたとして、そこはまず間違いなく海中である。水面まで息がもつとは思えない。

遺書を書けるような紙は、あいにくなかった。
ここで息絶えたとして、ネリーにわたしの死を信じさせてくれるのは亡骸そのものしかないのだろうと、クリエはわかっていた。

一人にさせてしまうのだとしても、自分のことを諦めさせた上で、そうしたかった。

クリエ
「(…… …… ……。)」

酸素が尽き、意識が遠のいてくる。

最後の一瞬、手をかけていたガレキがひとりでに引っ込んでいくのだけがわかった。


フィーナ「こっちも……戦いというには一方的な物だけれど」

フィオ「選んだ道も光といえるようなものじゃなくて、自分の最期かもしれないというのに、願うのは彼女の事?」

フィーナ「随分と大切にしてるね、だけど、まだそっちにいくのは早い」


設置式のカマドと一緒に引っ張り出された、葡萄鼠色の塊。

ネリー
「く、クリエ……さんっ!」

返事はない。

ネリーは腰蓑に手を突っ込んで、空気補充のスキルストーン、≪ワイルドブレス≫を取り出した。
目を瞑って念じることで、その力は行使される。

クリエ
「…… ……。」

新鮮な空気を送られ、うっすらと目を開くクリエ。

ネリー
「し、しっかりっ、クリエさ―――」

カマドが収まっていた穴から、キラリと光が見え、迫ってきた。
出刃包丁から護身用の短刀、兵隊が持つような片手剣まで、いくらかの刃物が発射されたのだ。

ネリー
「ああもうっ!」

ネリーは尾を振るい、クリエを抱えたままその場から飛びのいた。

クリエ
「……ほっと、いて、私、は……」
ネリー
「そんなのだめっ! いっしょに帰るよっ!!」

ネリーは続く攻撃からクリエを庇いつつ、少しずつ海面を目指して進んでいく。

クリエ
「……シー、ルゥが……中、に……
多分……水……入っ、て……」
ネリー
「えっ!?」

隙を作ったクリエはネリーの腕の中から器用に抜けてみせ、上へ泳いでいった。

ネリー
「……シールゥも、こっちに……!?」

ネリーは再び怪物に向かっていった。


フィオ「間一髪!」

フィーナ「クリエさんもやっぱり強い。復活直後だけれど……なんとかなりそうだ」

フィオ「あと少し、ネリーさんは頑張らないといけないみたいだね」


アッチの部屋は水没しつつあった。

そのアッチは生命の危機にあるというのに、平然と浮いている。
すでに死んでしまっているのかもしれない。

吹き上がる水に跳ね飛ばされたシールゥは、どうにか天井に張り付いたが、それは追い詰められることを意味していた。

再び上から現れた細い線が、シールゥをとらえるのはたやすいことだった。

シールゥ
「アッチ! プライドないのかっ、あんた!」
アッチ
「カクチョウ、カク、チョウ、カク、カッ……」

その声はもはや、彼の口から出ているものですらないらしい。
シールゥはかすかな期待を即刻放り捨てた。

だからといって、他に何か望みがあるわけでもない。



―――ただひとつ、ネリー・イクタを除いては。



部屋の一角を構成していたガレキの山が崩落し、室内は完全に水で満たされた。

確信を得て、シールゥは泡の嵐に顔を向けた。
飛ぶことは得意だが、泳ぐ力は大きさ相応でしかない。

ネリー
「シールゥーーーッ!!」

期待通りに、彼女は迎えにきた。

ネリーは≪ワイルドブレス≫を再度取り出して念じ、泡をおこしてシールゥを包み込んだ。
ちょっとした応用の一つだ。

ネリー
「……アッチ……。」

無機質な音を発しながら浮かぶアッチを見つめるネリー。

シールゥ
「もうアッチじゃないよ! 危険だ、離れるんだ!」
ネリー
「……うゃ……!!」

ネリーは腰蓑から、もう一つスキルストーンを取り出した。
浄化の術、≪ブレッシングブレス≫である。

ネリー
「こ、これで……なんとか、なるかなあ!?」
シールゥ
「わかんないって……!」

念じ、スキルストーンの力を引き出すネリー。
霊的な力を持った泡がアッチの体を覆うと、根を張っていた触手たちはたちまち千切れ、分解されていった。

シールゥ
「お人好しだね……」
ネリー
「なんでこんなコトしたのか、きかなきゃ、だよっ」
シールゥ
「あぁ、なるほど!」

ネリーも知らないうちにちょっと賢くなったらしい。シールゥは感心した。

だが直後、シュッ! ウニのような何かが、触手を彼女らに飛ばしてきた。

ネリー
「うゃ!」

ネリーは泡に包まれたシールゥ、それからアッチをひっつかんだまま身をひるがえしてかわした。

シールゥ
「あいつが、乗っ取ってたんだ!」
ネリー
「そーみたいだね……っ!」

言いつつも、ネリーは一旦要救助者たちを引っ張りつつ、ガレキの怪物の体外へと抜け出した。

ドクター・アッチも≪ワイルドブレス≫で泡に包む。
ネリーが手を離すと、彼とシールゥは浮上を始めた。

ネリー
「あいつやっつけて、おっかけるからーっ!」
シールゥ
「おーっ! 負けないでよーっ!」

見送り、振り向くネリー。



フィーナ「怪物体内での戦いも大詰め、シールゥさんもよくがんばったけれど……」

フィオ「一喝しても意識を取り戻させるまでには至らないか……、ただ希望は外に居た」

フィーナ「ヒロインのエントリーだ!」

フィオ「ワイルドブレス便利だね」

フィーナ「スキルストーンの力は凄いなぁ。テリメインの理ってことなのかもしれないけれど」

フィオ「助けるべき人は助けた。残っているのは敵だけだ」


怪物は構造をめちゃくちゃにされ、崩れつつあったが、諦めてもいないらしかった。
残ったガレキを組み替え、これまでとは違った形になっていく。

そうして現れたのは、ネリーの十倍ほどの身の丈をもつ、いびつな姿の巨人であった。

ネリー
「……負けないよっ!」

その場で上下逆さに反転し、下に向かって飛び出すネリー。
巨人は両手の指からワイヤーを放ち、それを追いかける。

ネリー
「そぉれぇ!」

ネリーは海底近くで大回りに、巨人の周囲を泳いでから、その懐に飛び込み、脇を抜け、またぐるりと回った。
ワイヤーが巨人の腰に、腕を巻き込んで絡みつき、動けなくする。

そのくらいの策は、想定しているらしかった。
巨人は自分の体の上下を突然分離させ、ワイヤーから脱した。

ネリー
「いまだぁっ!」

分離したところに自らの身体を潜り込ませるネリー。
ならばと巨人は、切断面をガレキでふさぎ、上半身と下半身とでネリーを押し潰そうと迫った。

ネリー
「ギギギ……ギィィィイイイイッ……!!」

力比べとなった。

力比べで、ネリー・イクタが負けるはずがなかった。負けるわけにはいかなかった。

ネリー
「ガァアァアアアアアーーーッ!!」

ネリーは障害全てをぶち破る勢いでもって、身体を伸ばした。

ガレキの塊はせり合いに負け、結合を失い、バラバラになる。煙のごとく泡を放ち、海中に散らばっていく。
その中に、あのウニのような物体がある。ネリーは見逃さなかった。

ネリー
「―――ッ!!」

尾が動く。身が跳ねる。突き進む。

触手を掴み、引きちぎって、あらわになった核に思い切り拳を叩きつけた。


フィーナ「いざ、決着の時。一度組みあがったものをまた組みなおすことも出来るんだねぇ」

フィオ「かなり高度な技術だよね。何のためにこんなことをしているのかはわからないけれど」

フィーナ「とはいえ、技術が高かろうがなんだろうが、正義の心には勝てない」

フィオ「正義の心というか、豪腕だよね」

フィーナ「正義なき力に意味は無いって言うし……」

フィオ「クリエさんをさらわれたり、オルタナリアで暴れていたりと色んなストレスもあっただろうし、ぶっ壊してひとまずはスッキリ……かな?」


夜がきた。ネリーの住処には明かりが灯っていた。

シールゥ
「ここがネリーのお家かー。
なんかオルタナリアの時と変わんない気もするけど……いいとこじゃない?」
ネリー
「うゃー、やっぱこういうのが落ちつくんだよっ」
クリエ
「……待って、て。今……ご飯、できる……」

三人はあれから無事に帰還した。

アッチの身柄は、あのウニのような物体の残骸と一緒に協会に引き渡された。
これから、色々とわかってくることだろう。

クリエ
「おま、たせ……」

今日の夕食はサラダと焼き魚、それからパンとフルーツの盛り合わせ。
いつもより少々豪華である。

ネリー
「うゃぁーーーっ! いっただっきまーーーすっ!!」
シールゥ
「ちょ、そんながっついちゃって、ネリーはさ!」
クリエ
「…… ……。」

夜は更けていく。


フィーナ「そして戻ってきた日常と増えた住人」

フィオ「やっぱり平和はいいね」

フィーナ「ウニっぽい何かがあれ一つって事もないだろうし、アッチが新しい何かを語るかもしれない、だからまだ全てが終わったわけじゃないけれど」

フィオ「とりあえずはご飯、ご飯、ご飯!」

33回



フィーナ「対決からしばらくしたころ、クリエさんは事の真相に近づこうと独自に動いているみたい」

フィオ「協会が回してくれる仕事も知りたいことに関連したものだったから、運がいいかも」

フィーナ「アトランドの海底にてガレキの化け物をバラして回収する……
一目見ただけで、オルタナリアのものがたくさん転がっているね。その中から『耐水性の手帳』を発見して、持ち帰ることを許された様子」


フィオ「今回の事件に深く関わっていることも幸いしたのかな? まぁともかく手がかりになりそうではあるね!」

拠点のほら穴に帰った後、ネリーとシールゥが寝静まったころを見計らい、外に出る。
クリエは砂浜の岩の上にランプと手帳を置き、灯りをつけて読み始めた。

クリエ
「(あの二人が起きたらかなわん。急がねば)」

おかしな様子が現れるまで、ページをさっさとすっ飛ばしていく。

『瑠璃の月 十一日
狩人仲間のオラーが変な知らせを持ってきた
出先で、海がめちゃくちゃに引っかきまわされた跡を見て、しかもそのあたり一帯、魚も海草も消えちまったんだと』

クリエ
「(私が来たのの、ン十日前、か)」

ページをめくる。

『海の中に、変な渦が現れたという
渦なんか起こりそうもない場所にいきなり現れて、しかものみこまれたモノはみんな消えちまうらしい
ネプテスさんはくわしいコトを調べつつ、陸の街には注意をよびかけろと言った
明日から忙しくなりそうだ

とか書いてたら 俺も渦を調べにいかされることになった』


フィーナ「貴重なオルタナリアでの『渦』の記録。また一人で取り組んでるのは、心労をかけないように……かな」

フィオ「まださわりだけなんだけれど、異常が始まったところだからね」

『渦がビーピル島の方で起こったらしい
あそこには確か、ネプテスさんの娘さんがいたはずだ
何事もないといいが』

『渦の被害が出ちまったようだ
フォーシアズから中央大陸にむかってた船が巻きこまれて、なんとか踏みとどまりはしたが、客が一人のまれたらしい
かわいそうに』

クリエ
「(私らのことか……)」


フィーナ「ふむ……」

フィオ「ここでネリーさん、クリエさんってことは、まだ局地的な災害だった頃で」



『きょうは今後のために会議をした
渦の目撃情報がまとめられたが、ニンゲンがいるところを狙って起きてるようにしか思えない』

『セントラスのおえら方が来て、ネプテスさんと話をした
あせりを見せているようだ、ムリもない
陸のやつらは俺らを頼りにしているけれど、こっちとしては食い止めるどころか正体すらつかめない』

『ビーピル島で、渦が海の上に伸びて竜巻みたいになって乗りあげるのを見ちまった
蔵がひとつ飲まれてた
まだふるえが止まらない

ネリーが行方不明らしいが、ネプテスさんに言えるわけがない』

『魔物がマールレーナにきやがった
渦にあてられたせいなのか?』

『仲間が渦にやられた』

『一体どうしてこうなっちまった
オルタナリアに何があったっていうんだ!

"ヴァスア"が女神さまと一緒にオルタナリアを助けてくれたんじゃなかったのか!』

クリエ
「…… …… ……」

あとのページは白紙だった。手帳を閉じ、しばし静止するクリエ。



フィーナ「これは……ひどいな」

フィオ「手立て無く被害だけが拡大していってる……。『ウニ』『狙ってる』人為的に引き起こされたものではあるのだろうけれど、これほどの規模だとは」

フィーナ「世界を揺るがす異常。『ヴァスア』の一件はネリーさんたちも関わっていたけれど、本来はそれで大丈夫なはずが……ってなっている」

フィオ「パニック一歩手前、この手帳がこっちに来てるって事は、この記述のあと渦に巻き込まれたってことで、被害がさらに拡大していてもおかしくは無いね……」

フィーナ「さて、読み終わったクリエさんにシールゥさんが声をかけてきた。誤魔化そうとするクリエさんだけど、一人で調べていたのばれちゃった」

フィオ「とりあえずはアッチの取調べ待ち……だね」


34回



フィーナ「シールゥさんも加わって日常が再会していく。
ネリーさんを見送った二人は探索協会へと情報収集に向かうみたい」


フィオ「同郷の人物ということだからかな、取調べみたいなこともさせてもらえるみたい? これは大きな進展が期待できるかな」

ふたつの新海域の情報が流れ込むせいで、協会はここしばらく慌ただしい日々が続いているようだった。
紙の立てる音がいつもよりもうるさいのが、クリエにはわかる。

やってきた一人の男が、挨拶をしてきた。

職員
「ふああ……あ、失礼……こんちは。クリエさんですよね。
例の、ドクター……ソッチ……」
シールゥ
「アッチだよ」
職員
「あぁそうだ、アッチだ。
取り調べ、はじめますンで。こちらへどうぞ……」

クルリと後ろを向き、目をひとこすりしてから男は歩き出した。

後に続いて廊下を歩き、螺旋階段を降りていく。

シールゥ
「……あの、ロザリアネットさん、だっけ? いやしないかな」
クリエ
「いない」
シールゥ
「なんで……」
クリエ
「オーラが、無い」
シールゥ
「そっか……」

歩き続けて、一つのドアに至る。
そこを開けると小さな部屋と、それから……

アッチ
「んがっ……! ち、チミたち!?」

テーブルの向こうでイスに腰かけたまま、あんぐり口を開けるドクター・アッチの姿があった。

シールゥ
「やあ、ドクター・アッチ。
ネリーもあんたが話をできるようにって、わざわざ生かしてくれたんだから、たっぷり教えてもらうよ?」
アッチ
「ン、ンーム……ッ……」



フィーナ「協会も大変そうだね。問題ばかりが増えて解決策はみつからない」

フィオ「それでも色々やらなくちゃいけないってのは精神的にもしんどいかもね。
被疑者の名前もわかりにくいし!」


フィーナ「睡眠不足もありそうだから、しかたないね、ソッチ」

フィオ「ロザりん……」

フィーナ「クリエさんは普段から通っているから、微細な差がわかるのかもしれない、つねにそんな禍々しいオーラだしているわけじゃなかろうし」

フィオ「ご対面。さぁちゃっちゃか吐きな!」



クリエ
「まず……あの、ガレキ、の、化け物。
おまえの……発明……?」
アッチ
「そのとーりィ!
……と、言いたいところッチが、半分は違うーッチねぇ、ザンネンながら。

そもそものコトの起こりはねえ。
ボクちゃんの移動式水中研究所・アッチトータスmkVごとワケわからん渦に巻き込まれて、このチリメンだかテリメインだかに来ちまったってもんだッチ」
クリエ
「私たち、と……同じ……」
アッチ
「ンム。
しかーも、そのままハッチから投げ出されて、その後はどーも、通りすがりの奴に病院に担ぎ込まれたらしいッチねー。
でもアッチトータスを誰かにとられたら一大事!
ボクちゃんはソッコー脱走して、船と潜水具をパクって海に出たッチ!」
シールゥ
「人のは盗るんだ……」
アッチ
「このメガネのヒミツ機能で、場所ならわかるッチからねェ。
けど、果たしてアッチトータスの前に出たボクちゃんを待っていたのは、あのウニヤローによる解体ショーだったッチ! クゥーッ」

ウニヤローというのは、あの瓦礫の化け物の中枢にあったもののことである。

アッチ
「ウニヤローときたらアッチトータスを分解して、身にまとってやろうとしていたみたいだッチ。
トーゼン止めた、ッチが……そっからが、ンンン……どうも……よくわからん、ッチ……」

頭を押さえ、項垂れるドクター・アッチ。

シールゥ
「……アッチ。
あんたさ、アレに身体を乗っ取られてたんだよ。何か、覚えてることがないかなって、期待はしたけど……」
アッチ
「フン。悪かったッチね、なーんもなくて……
チキショ、あのウニヤローは許せんッチ。
このドクター・アッチ様を我が物にしようだなんて、不届き者にもホドってもんがあるッチ!」
クリエ
「……ネリー、が……アレの……欠片を、拾って、きた……」
アッチ
「ほぉ! そいつぁー重畳! 調べさせるッチ! ゼヒゼヒ!」
職員
「ちょ、ちょっと、それは、上にかけあってみないと……」
アッチ
「クヌヤロ! 組織ってヤツァ! これだからッ!」
職員
「あぁもう!」

イスからぴょんこと飛び跳ねるアッチを、職員が抑え込む。

アッチ
「クヌヤロクヌヤロクヌヤロクヌヤロクヌヤロッ……」
クリエ
「手に、おえない……一旦……やめに……」
職員
「そ、そうですね……っ」


フィーナ「ふむ。まず発明品があったってことは、その性能も把握していただろうし、ウニにとっては都合よかったのかも」

フィオ「部品の一部としてつかわれているようではあったけどね……」

フィーナ「技術者として解析をお願いしたいきもちはあるけれど、船の窃盗という前科があるからねぇ」

フィオ「組織嫌いのフィーナでも庇いきれない」

フィーナ「まぁ治安を乱したのは事実だから」

フィオ「まぁ、記憶はなくっても、『機械類? をバラして自分の装甲のようにする』『人も取り込んで? 操れる』という二点は確定したみたいだし、一歩前進」

フィーナ「つなげられた様はグロかったね……」


フィオ「さて、一方のネリーさんはサンセットオーシャンを探索中。あちぃぜ!」

フィーナ「嫌になる熱さだね、それから逃げるように遺跡を奥へ奥へ、休憩できそうなところを見つけたのだけれど……」


ネリー
「うゃ、ここだったら、のんびりできそうかなっ……」

広間の下の方に行こうとしたとき、ネリーの頭のヒレがピクリと動いた。

異変の察知である。

ネリー
「…… ……?」

ネリーは流れが起こるのを感じていた。

ネリー
「……!!」

しんどさを放り捨て、直立の姿勢になる。
そのまま尻尾を大きく振るえば、部屋の天井を目がけて、彼女は飛び出した。

直後、水が目に見えて動き出す。引きずり回し、吸い込んでいくように、である。

ネリー
「……やっぱりッ!」

例の渦である。ネリーは今、渦が起こる瞬間に立ち会おうとしている。
ここで原因を突き止められたなら―――

ネリー
「……クァアアッ!!」

渦の根元になる場所が、水棲人の感覚でわかる。
確保したばかりの安全を放り捨て、ネリーは再度、部屋の下方に進行する。

下から四列目に並ぶイス、そのうちの一つの後ろを目指した。

ゆらめく赤い光が、そこにあった。
腰蓑につけたスキルストーンを掴み、ネリー・イクタは力のままに念じる。

ネリー
「ダァアーッ!」

ビカーン! スキルストーンが閃光を発した。
かと思うと、目的地点からいびつな円錐が立ち上った。まるでつららのように冷たく、手で触れることもできる。

《ブライニクル》に手を加えた、《リバーサルヒート》が行使されていた。瞬間的に熱を奪い去り、凍結させる術である。
まさに形になろうとしていた渦を凍らせてしまったのだ。

これで、ゆっくりと調べられる。ネリーは改めて渦の根元を目指した。
だが、それは油断であった。

ピシャリ! 固まったはずの渦がひとりでに砕け、力を取りもどした。

ネリー
「アッ!?」

失敗を察したネリーは、しかし瞬発力においてはいまだ勝っており、すぐに離脱をする。
だが、そうこうしている間にも、渦の力はどんどんと強くなっていく。

ネリー
「ッ……!!」

もはや逃げざるを得ない。ネリーは、先ほど入ってきた通路を目指し、泳ぎ出した。

バキッ、バキッ! 彫られた椅子が引きはがされて、渦に吸い寄せられる。
そのまま蓋になってくれるかと思いきや、むしろ渦の勢いはさらに増していくようだった。

ネリー
「ギ、ギギ、ギギギッ……!!」

ネリーの身体をもってしても、危ういほどの力だ。
しかも気力を振り絞っていた彼女は、柱に、壁に、屋根に亀裂が走っていたことに気付かなかった。

ガラッ! ガラガラガラッ!!

議場の天井が、つぶれるように崩壊し―――

ネリー
「!!!」

ドウッ! 落ちてきた瓦礫の一つが、ネリーの身体を直撃する。

ネリー
「――― ―――」

もう、逆らえない。未だ衰えない渦に、ネリーは引きずられていく。
瓦礫と共に、呑まれていく。

だがそこで、先ほどの赤い光を―――そして、その源のシルエットを目に入れて、ネリーはほんのわずかな時間、意志を取り戻した。

ネリー
「(あ、あれっ……!)」

食い止められなければならない。

そのイメージを受け止めるスキルストーンを、彼女は持っていた。
腰蓑の中で、《サイレン》の石が輝きだしていたのだ。



甲高い音が鳴り響いた。

そこに動くものはなく、後にはただ静けさだけが残された。


フィオ「ごく近くでの渦の発生。それはピンチでもあったけれど、真相を探るチャンスと見て思い切って仕掛けたね」

フィーナ「策は悪くなかったのかもしれない、完全に凍り付いていればもっとじっくり観察できたかもだけれど」

フィオ「一時的とはいえ効果はあったし、もっとしっかり準備できていればそれも可能だったかな。とはいえ……遺跡だということが災いしたね」

フィーナ「環境ごと巻き込まれるすさまじい勢いの渦。意識はかろうじて繋いだみたいだけれど」

フィオ「これは……ギリギリで食い止めたのか、それとも……連れて行かれちゃったのかな?」


35回



フィーナ「意識を失ったネリーさんだけど、『渦の源』を捕まえることには成功したみたい」

フィオ「夢を見る形で、これまでのことを思い出す。ということで総集編だね! 色々まとまってるからわかりやすい」

フィーナ「一度目の冒険のことも語られているね、ネリーさんは渦にうらまれでもしてるのか……」

フィオ「で、前回の続き……だけれど?」



ネリー
「ン、ゥ……」

夢が去り、現実が降りてくる。ネリーはまぶたを開いた。

目の前には、ほのかな赤い光があった。
手で触れることもできて、何やら尖っている。

ネリー
「…… ……。」

ここはどこだろうか。
水の中ではあるようだが、先ほどの光以外には何も見えない。

それに、サンセットオーシャンとはうって変わって、妙に寒い。

光源を手のひらに乗せて、ネリーはその場から泳ぎ出す。
やがて、別な光を見つけることができた。どこかに通じているようだ。

狭いすき間を潜り抜け、水面を目指す。

ネリー
「―――!」

顔を出したネリーが見たのは、銀色に染まった陸地。
オルタナリア北方の小国、メシェーナの地である。

そして、手のひらに包んで持ってきた物体は……

ネリー
「……これ……ひょっとして……!!」

あのガレキの怪物の中にあった、棘だらけのコア。
その破片であった。



<つづく>


フィーナ「どうやら、オルタナリアへつれて来られちゃったみたいだね、ダメージがそこまで大きくなさそうなのはよかったけれど」

フィオ「事件の断片がつながってきた。『ウニ』『渦』『世界転移』。……こいつあとどのくらいいるんだ?」

フィーナ「さぁねぇ……クリエさんの調査を参考にすればたぶんまだまだたくさん。ってとこかな……」

フィオ「そういえば秘密にしていたことも、ネリーさんがコッチに来ちゃったら目の当たりにしちゃうのかもね、ショック……受けないでってほうが無理だよね」


36回



フィーナ「オルタナリアに飛ばされてしまったネリーさん。とりあえず近くの町に上陸してみると……」


ネリー・イクタは冷たさをこらえながら海面を進み、雪国メシェーナ沿岸の街サラハに上陸した。
久しぶりの、故郷オルタナリアの街である。だが彼女の顔に喜びはなかった。

ネリー
「……ンゥ。だれも、いないのっ?」
港が凍る時期ではないはずなのに、人気がない。理由は、すぐ想像がついた。
だが渦から逃げて避難をするにしても、雪に閉ざされたこの国だと、楽ではないだろう……

???
「おおい、ここのやつじゃないのか、お前……」
後ろから、ネリーに声がかかった。尻尾をブンとふるって、彼女はそちらを向く。

ネリー
「うゃっ! ねえねえ、ひょっとしてーーー」
???
「おぅ、ネリー・イクタじゃねェか。俺だよ、ワサビだよ……」

ワサビと名乗ったその男は、裾と袖の長い服をまとい、緑色の鬼の面をつけ、帯刀をしていた。
オルタナリア東方の国、トヨノの戦士のいでたちの一つである。


フィオ「寒い土地だと逃げるのも命がけだからね……クリエさんも相当に大変そうだったし」

フィーナ「鬼!?」

フィオ「お面か、ちょっとびっくり」

フィーナ「剣士のワサビさん。辛そうだし……強そうだね」

フィオ「お面も着けるのが正装なのかな? 皆同じだと見分けるのに苦労しそうだし、別々だとお面が足りなくなりそう」

フィーナ「剣士になる人がそんなにあふれているとも思わないから、なんとかなるんじゃない? まぁ正装かどうかはわかんないんだけど」

フィオ「ちょっとだけワサビさんも含めた過去偏。でそのあたりがわかるかも?」


ワサビ・カラシもまた、クリエ・リューアやシールゥ・ノウィクのように、地球から来た少年たちの冒険に巻き込まれた者の一人であった。

仲間達とはぐれ、二人旅をしていたネリーと直樹は、あるときトヨノの国の浜辺に流れ着く。
異境の地に取り残され、それでも旅の目的である『神秘』を探し出そうとする二人であったが、敵であるディナイア教団の魔の手はトヨノにも伸びていた。
トヨノの支部を任された幹部の男、ホァンダウの卑劣な手によって、ネリーは初めて魔物の血を目覚めさせられてしまい、理性を失う。愛していたはずの直樹に攻撃をしかけた挙句、離れ離れになってしまったのだ。

直樹
「……ちくしょうッ……ネリー……!」
ワサビ
「……おい、お前……何やってンだァ……?」

残された直樹の窮地を救ったのが、ワサビであった。
教団に、大切にしていた古代の妖刀『シチミ』を奪われていたワサビは直樹と協力体制を結び、教団に反撃を仕掛けたのだった。
だがその途中、暴走するネリーを目撃した彼の中で、一つの考えが生まれる……

ワサビ
「(あのサメ娘には、力がある……
『シチミ』を取り戻したら……あいつを斬って、血をくれてやれば……刀がよみがえるかもしれねェな……)」
『シチミ』の念が心に入り込みつつあったことに、ワサビは気づかずにいた。

二人はやがて、山寺に偽装して造られたディナイア教団のトヨノ支部に辿りつく。
そこで待っていたのは、ホァンダウと彼に心を乗っ取られたネリーであった。
ワサビはついに『シチミ』を抜き、ネリーに斬りかかる。明らかな殺意を感じた直樹はそれを止めようとして、ネリーとワサビの両方を相手にしなくてはならなくなったし、そんな状況をホァンダウが見逃すわけもなかった。
孤立し、殺されかける直樹。だがそれでも、彼は屈さない。

直樹
「俺は諦めねェ…… ネリーも……俺もッ……まだ、これからなんだ……!」
ネリー
「……なお、き……!」

何があろうと強くあり続けようとする心は、直樹の異能力を新たなステージに押し上げた。
ドウッ! 放たれた電撃が、ネリーの頭を撃つ……

ネリー
「そう、だよね……! マモノの血になんて、負けないッ……!
わたし、強くなるんだァ―――ッ!!」
ネリーの目に、元の明るい光が戻った。

ワサビ
「……へえ……やるじゃ、ねぇか……直樹よォ……
俺だって……俺だってなァッ!!」
『シチミ』もまた異能力に反応した。表面を覆う錆を吹き飛ばし、その刀身は赤い閃光に包まれる。ワサビの仮面も、跳ね飛び……

ワサビ
「…… ……。」
その素顔は、異形のものであった。今更隠す必要などありはしない。

再び結束し、新たな力を得た三人はホァンダウを倒し、トヨノから教団を実質的に撤退させることに成功した。


フィーナ「人を操って戦わせるなんてサイテー!」

フィオ「テリメインで暴走したときもクリエさん危ないところだったし、トラウマになっちゃうよ……」

フィーナ「それにしてもワサビにカラシ、ついでにシチミとは、やっぱり辛い」

フィオ「ジョロキア・ハバネーロとかいたらどうすんの」

フィーナ「めっちゃ辛い」

フィオ「それにしても妖刀とはね、大切にしていたってことは、由緒あるものなんだろうけれど」

フィーナ「曰くつきの刃物ってわりとあるんだよね、戦うためのものだと特に。大量生産されたやつならそうはならないんだけど」

フィオ「ネリーさんを狙わないで、敵を狙ったほうがよかった気もするけど」

フィーナ「やっぱり直接的に強い血というのに魅力があるのかもね」

フィオ「直樹さん大ピンチ。でも凌ぎきって何とかしちゃうのはすごい」

フィーナ「それぞれが強い心を持っていたからとも。
あ、メタな事を言うとアイコンまでは引用できないんですけど、ここでワサビさんの素顔が見られます」


フィオ「で、現在なんだけど」

危うく斬られかけたことについて、もう恨んでいない。ネリーは特に考えることもなくワサビについていき、その途中で事情を聴く。

ワサビ
「渦のせいで、どこもかしこもしっちゃかめっちゃかだぜ。
セントラスから世界中にメッセージがあって、海沿いに住んでる奴らは全員逃げろってことになった……」
ネリー
「う、うゃ、そうなの? じゃあ、ここも……」
ワサビ
「いや……さすがにこの国じゃ、大移動するも難しいんでな。別に手は打ってある……
……ところでお前、なんでわざわざこんなところに?」
ネリー
「あー……えっと。ちょっとね……」

ネリーは、ワサビにこれまでのことを簡単に話す。コルムで謎の渦に巻き込まれたこと、テリメインのこと……

ワサビ
「……なるほどな。
水棲人のお前なら、渦を放っておくわけないだろうと思ってたが……その前にお前自身がやられちまってたわけか。
じゃあもしかして、こっちの様子も知らねェんだな?」
ネリー
「う、うん……」
ワサビ
「おう。なら、ついてきな。寒くない所で話してやるさ」

ワサビの後に続いていくと、街外れの小屋についた。
中に入ると、さらに床に戸がついている。引き起こせば階段があったので、降りていく。

ワサビ
「もともと、こういう時のために用意してあったらしい……」
ワサビは懐から取り出したランプに魔力を通して、灯りをつける。階段の行きつく先は、すぐには見えない。

下に降りていくとまたドアがあって、開けた先には人々が待っていた。灯りもそこかしこに揺らめいている。

ひげ面の男
「おおワサビ殿、おかえりなさい!」
樽のような体つきで、ひげをたっぷりと蓄えた男が出迎える。

ひげ面の男
「おや、そちらの子は……?」
ワサビ
「ネリー・イクタだ、水棲人の。
ここに居てもらうかどうかはまだわからんが、ちょいと色々あって、事情をつかめてない。話をしてやらんと駄目だ。
少し時間をとってやってもいいよな?」
ひげ面の男
「ええ、どうぞ。
それより、そんな恰好じゃ寒いでしょう。いま、暖かい所まで案内しますから……」
ネリー
「うゃ、ありがとっ。でも、へいきだよっ!」

ネリーとワサビは、この地下シェルターの奥の部屋に通された。
布団のついた低いテーブルがあり、その中に入ることで暖をとることができた。元々トヨノで造られた暖房器具であり、炭に火を入れて使うものだったが、これは魔力で熱を起こす仕組みに改造されているという。

一息ついてから、ワサビが話し始める。

ワサビ
「……あの渦が初めて起きたのは、瑠璃の月らしい」
ネリー
「瑠璃の……? それ、ちょうどわたしがやられちゃって、テリメインに行ったころだよっ」
ワサビ
「ン。じゃあ一から全部説明して、構わんな。

渦は、初めは小さめで数も少なかったんだが、どんどん増えていったらしい。
水棲人の連中が、どうにか食い止めようと頑張ってたが、正体すらつかめない。
そうしてる内に、渦が海の中どころか、陸にまで乗り上げてくるようになりやがった。それで岸に住んでるやつらは、逃げろって話になったのさ」
ネリー
「…… ……。」
ワサビ
「どうした?」
ネリー
「わたし……こっちのこと、なんにも、わかってなかったよっ。
でも、テリメインで……見たの。コルムの街の……」

ネリーは、ガレキの怪物と戦った時の話をする。あのモンスターを構成していたものの中に、コルムの建物の破片もあった……

ネリー
「ワサビさん……。
オルタナリアは、どうなっちゃったの……?」
ワサビ
「……俺も、全部はわからん。
ここに居てわかるのは、たまに様子見に来る水棲人から聞けることだけでな。

確かなのは……どこもかしこも悪くなる一方、ってことだけだ」


フィーナ「海に近いところは全部ダメみたい」

フィオ「ひどい有様だね……オルタナリアってかなり激動の中を生きてる世界だなって印象ある」

フィーナ「水棲人の皆さんも動いている様子だからね、それでも食い止められてはいないみたいだけど」

フィオ「ということで地下へ、シェルターだね」

フィーナ「ワサビさんから語られる渦の記録とオルタナリアの現状」

フィオ「陸もか……」

フィーナ「色んなもの巻き込まれていたからね、クリエさんも見覚えがあるものあっただろうし、陸上が巻き込まれているのも頷ける」

フィオ「解決するアテは……やっぱウニかな」

フィーナ「一方のテリメイン。ネリーさんの失踪から時間がたっていて、クリエさん、シールゥさん、ドクターアッチ。三人で色々話してるところ」

フィオ「ある程度のことはクリエさんが把握しているとおり、で、アッチは『ウニヤロー』が原因だと」

ドクター・アッチは性格に難がありすぎるが、技術力や知識に関しては確かであった。
クリエとシールゥは、以前の尋問の件を受けて探索協会の職員にかけあい、『ウニヤロー』―――ネリーが戦った、あのガレキの怪物の中枢にあったもの―――の破片をアッチに調べさせることを受け入れさせた。無論、厳重な監視をつけさせた上で、ではあるが……

アッチ
「昔、ボクも渦を起こして船を襲うマシンを造ろうとしてたことがあったッチ。その時考えてたのと似たような機構が―――」
シールゥ
「そういう企みしてたのかよ!」
アッチ
「今気にすることじゃないッチ! それで、きゃつには『翠陽石(すいようせき)』が含まれてたッチ」
クリエ
「翠、陽石……」

翠陽石は、オルタナリアで産出される金属である。光を当てると、緑色の閃光にして撒き散らす特徴があった。
クリエもアカデミーで実物を見たことがあった。詳しいことは覚えきれなかったが、機械と魔法の橋渡しをする性質を持っているかもしれないという……

シールゥ
「えっと、それさ……
結論言っちゃえば、オルタナリアにあんたみたいなろくでなしがもう一人いて、全部そいつのせいかもしれないって話か……?」
アッチ
「ろくでなしとはシッケーなッ! それにまだ結論出すには早すぎるッチよ。ケースが一つしかないッチ」
クリエ
「ああ……」
いち学者として見れば、意外とまともなところもある。
アッチ
「正直、こいつは放っちゃおけないッチね……これまでの渦ッコの全部が全部、あのウニヤローの仕業なんだとしたらッ……!
もっと見つけて持ってくるッチ! バラして今後の参考にッ―――」
シールゥ
「ちょっと。
良からぬこと考えてンだったらさ、あのウニを調べられるヒトを、あんたのほかに探したっていいんだよ」
アッチ
「グヌヌゥ……!」


フィーナ「狂人は狂人を知る」

フィオ「ケース。幾つか把握してるし多分あっていそうだね。それにしても規模がでかい厄介ごとを起してくれたものだ」

フィーナ「シールゥさんも釘を刺してくれるし、なんだったら物理的に、ドクターアッチも一行に加わるのかも」

フィオ「一方のネリーさんは、ワサビさんと別れて一路マールレーナへ」

フィーナ「海の中に刀はダメゼッタイ」

フィオ「魔力コートすればイケルイケル」

フィーナ「……説得力がないなぁ」

フィオ「ワサビさんもこのあとまだ出番がありそうだね」





posted by エルグ at 17:48| Comment(0) | 日記